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▶121.「ひらり」
120.「誰かしら?」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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これまでのあらすじ
舞台は、遠い遠いどこかの大陸。ここに、長き戦乱によって当時の技術を喪いつつも存続している3国があった。
この物語の主人公である人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、光と熱を糧に人間のフリをしながら、3国のひとつであるフランタ国内を旅してまわっていた。数十年そうして過ごしていたが、今年の冬は動力節約のため戦乱中の施設があると噂があった山で冬ごもりをすることに決めた。
しかし、たどり着いたのは戦乱中に敵国であったはずの隣国イレフスト国が建てた研究施設であった。人形は施設機器の起動に成功し、ナナホシと名乗る自律思考可能な虫型メカを手に入れる。
その後、施設を出た人形たちはサボウム国、イレフスト国と旅をしていく。イレフスト国ではナナホシを盗んだとして追っ手がかかり逃亡する。なんとかフランタ国へ戻ってきたのであった。






「ココガ花街?」
「いや、もっと奥にある。花街とは芸を売る店が集まった一角を指す。街の名前は別にある」

人形たちは、山を下りたあと街道に入って東の辺境を抜け、首都のすぐ北にある街にやってきた。ここの花街で人形の知り合いである子猫が働いている。子猫が幼少の頃から知り合いであり、‪✕‬‪✕‬‪✕‬が人間ではないことを知っている数少ない人間だ。

「ソッカ。他ヨリ、大キイ街ダネ」
「ああ、首都を姉とするなら、この街は妹にあたる。だから発展していて、モノも人もたくさん流れてくるのだ」
「コレガ‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノイタ街…」

人形は旅をするようになってから、この街含め、どこにも家を構えたことはない。だからナナホシの発言は正確には違うのだが、興味深げにヒクヒクと触覚を動かす様子を見た人形は訂正しないでおくことにした。目的を持って何度も通っていたことは間違いない。

時は昼間。花街はまだ眠っている。

「先に配達屋へ行ってもいいか?進路に沿うものがあれば受けたい」
「ウン」

フランタ国における配達は、首都と周りにある妹分にあたる大きな街との間で主にやり取りがされる。だが金を払って内容審査さえ受ければ、国民の誰でも国内に限り配達を依頼することができる。そして遠方への仕事を受けるのは、人形のような旅人や商隊たちだ。

看板に手紙の絵が描かれた配達屋の建物の中に入る。
ドアを開けると、入り込んだ風がひらり、掲示板に貼られた依頼書をめくり上げた。


「ちょうどあったな」
1人つぶやくように発した人形は、依頼書を1枚取り、書物台で請書を記入するとカウンターへ持ち込む。

「これを受けたい」
配達の受け取り主にサインを書いてもらい、実績を示すのに使用する証明カードと共に出せば、
「ありがとうございます」

そもそもの数が少ないため、すぐに荷物が出てきた。

「確かに。必ず届けよう」

ひらり、人形は身を翻して配達屋を後にした。




「これを全部私に?」

その後、市場で外套を春物に買い替えたりなどして夜まで待った人形たちは、
子猫のもとを訪ねた。


ひらりと軽やかに広げられた薄紅色の布は、
サボウム国の新首都で購入した温泉を使った染め物だ。
若草色や他の色のものも並べて置かれ、ここだけ花畑のようだ。

「新調する時期から少し遅れてしまったが」
「ううん、それは大丈夫よ。それより、こんなに綺麗なものを、こんなにたくさん」

まだ来ないまだ来ないってやきもきしていたのに、笑っちゃうわ。

子猫はコロコロと呆れたように笑いながらも、嬉しそうに染布を抱きしめていた。
「これ、サボウム国のものでしょ?ひと冬で行って帰ってこられるなんて、さすがね。無茶なことはしていないかしら?」

「私は大丈夫だ。それより見てほしいことがある」
「あら、何かしら」

3/4/2025, 9:29:37 AM