24

Open App
2/21/2025, 9:43:03 AM

▶111.「ひそかな想い」
110.「あなたは誰」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜人形たちの知らない物語〜

局長を探していたために時間はかかったが、
____はノンバレッタ平原に着いた。
ここでサボウム国の仲間と落ち合うつもりであった。

サボウム国からだけでなく、
フランタ国に潜入していた仲間も来て、三方で情報交換を行う予定だった。

春が近づき、戦場の跡を草花が隠し始めている。
数年もすれば、ここで何があったかなど、
予め知っていなければ見ても分からなくなるだろう。

____はしばらく仲間を探して歩き回ったが、
時間が経ちすぎていたためか、誰もいなかった。

ため息ひとつ、____は再び歩き始めた。
このまま南下していけば、サボウム国に入れる。

行きと違い、馬車も無くたった1人。
人と会うのは、立ち寄った村で労働をして食事を分けてもらう時くらいだ。

ひたすら、ひたすら、歩いていく。

心の中では繰り返し、盗み見たメカの構造を思い出していた。

技術局で研究していた最先端技術を惜しみなくつぎ込んだ傑作だ。


すごいな。

いいな。

自分も、作ってみたい。


消えぬ技術者としての魂が、____の命と希望を繋いでいる。

サボウム国の技術を入れたら、
もっと素晴らしいものができるかもしれない。

それに、私の人形づくりだって……

前例も根拠もない、夢想に近い構想を、
ひそかな想いとして描きながら、

一歩、また一歩と踏みしめていった。

2/20/2025, 9:52:12 AM

▶110.「あなたは誰」
109.「手紙の行方」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
地下通路の入り口を守る6班の元に早馬がやってきたのは、
技術保全課の課長ホルツが収納庫から見つかった手紙を懐にしまった後のことであった。
到着したのは、国境や街道の警備を担当している第三隊の者であった。
後ろに誰か1人乗せている。

かなり急いで来た様子で、馬も苦しそうだ。

「こちら第三隊。至急連絡です」

地下通路は、なんの訓練も受けていない人間が歩いておよそ半日、12刻ほどかかる。軍人なら6刻ほどで踏破できるが、それでも時間がかかる。
そのため、交代で通路の中間地点あたりに隊員を配置していた。これにより、隊員はトップスピードギリギリまで速度を早めて伝達することが可能になる。

早馬の到着から3刻後、第二隊6班の班長ライラの元へ報告が届けられた。

さらにそれから5刻の後、早馬の後ろに乗っていた1人が背負われた状態で元技術局に到着し、ホルツ課長のところにやって来た。
「課長、遅れました」
「おお、ミハ。よく来てくれたな。その姿はどうしたんじゃ」

「いや、恥ずかしいことに私は馬が得意ではなくて。まごついているところを、第三隊の方たちが早馬に乗せてくれたのですが」
「ははぁ、足腰がやられたんじゃな?だから普段から鍛えておけと言ったじゃろ。悪いが、分かったことを教えてくれるか?」

「はい。第三隊が集めた目撃情報から、この件の最重要人物とされているシルバーブロンドの目的地を断定しました。場所はここ、元対フランタ技術局。予想通りなら到着は3日後です」

「では、そやつが?」
「証拠がなく断定はできません。ただ、徒歩ながら連日夜通し移動しており、一日あたりの移動距離は人の能力をはるかに超えています。また、想定される移動ルートの途中に湖があり、迂回すると推察されています。第三隊隊長はその前に確保したい考えです。それから…

そうして暫く情報共有は続き、
ひと通り話し終わったところで、

「なるほどの。よく伝えてくれた、今はゆっくり休め」

ミハを休憩場所にしている部屋、おそらく当時暮らしていた局員の私室だが、その一つに押し込んだ。

資料室に向かいながら、ホルツは呟いた。

「3日後か…この手紙のことを話し合うには、ちと時間が足りんのう。なぁ、シルバーブロンドよ、お前さんは一体誰なんじゃ?」




サボウム国でダメージを受けたナナホシ。
回復させるための手がかりを探すため、
人形たちは、動力を節約しつつ日夜歩き続けていた。
【その中で、ある変化があった。サボウム国から入った時には無かった雪が施設に近づくにつれて増えてきている。人形はナナホシが冷えないよう、時折温石を火で暖め使いながら、進んでいた。】

この夜も、ナナホシがいた施設をまっすぐ目指して木々の間を歩いていた。


「ナナホシ、水の匂いがする」
そう人形が声をかけると、ナナホシはナビゲーションモードから戻ってきた。

「ン…僕ニ内蔵サレテイル地図ニヨルト、湖ガアル。目的地ハ、ソノ先」
「見えてきたら迂回しよう。目印になるようなものがあればいいが」

そのまま少し行くと、街道に出た。【ここだけ雪がないので整備されているのだろう。】水は人間にとって大事な資源だ。近くに町があるかもしれない。

「さて、右か左か」

少し立ち止まって思案した、その時。


「そこの男、待て」
物々しい雰囲気を醸し出しながら男が声をかけてきた。
後ろには何人か部下のように付き従っている。

「私のことだろうか。あなたは誰だ?」
軽く周囲を見渡すが、他にそれらしい人間は見当たらない。

「そうだ。私は第三隊隊長ミナト。お前には我がイレフスト国の重要機密を盗んだ疑いがある。悪いが拘束させてもらう」

2/19/2025, 9:50:05 AM

▶109.「手紙の行方」
108.「輝き」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
時は現在、元対フランタ技術局内にて

「ん?なんじゃこれは」

施設内が明るくなり、自由に探索できるようになった。
なので技術保全課の課長ホルツは、盗られたと思われるものが何であったか、その手がかりを探していた。

それが収められていたであろう機械、手を置くと男がベラベラ喋るやつだ、その庫内を覗き込んでいたら、天井部分に何かが貼り付いている。

取ろうと触れたら、すぐに剥がれた。

「おっとと。ありゃ接着部分が黄ばんでカサカサじゃ。これは、古いぞ。よく今まで貼り付いとったな」

それは分厚い封筒だった。

「ふむ、手紙にしては分厚いが。接着剤に反して、紙の劣化は少ない。最近まで締め切られておった証拠じゃな」

「課長!ここの長が書いたと思しき日記が見つかりました!」
「おお、でかした!」

日記と封筒の中身を突き合わせて読んでいく。

「ここのやつらは、随分好き勝手やっておったようじゃの」
「長引いた戦乱に狭い空間。資料の多さから見て仕事も相当量。人間関係は良好だったようですが、負担が大きかったのでしょうね。とはいえ、これはバレたら軍法会議ものです」

「それを日記に堂々と書くとは…。しかし、これはどうするかのう」

収められていたもの。
それは国の機密や資材を流用して作られた個人へのプレゼント。

分厚い封筒の中身は、それの取り扱い説明書が大半であった。
手紙も、プレゼントの内容を考えなければ心温まる内容だ。

「危害を加えるものではなさそうじゃな」
「そのようです」

国にも報告されていない、小さなメカ。
知っている人間でなければたどり着けないはずだ。
「当事者では時代が合わんから、子孫か何かか?」

だが、手紙は持っていかなかった。おそらく気づかなかったのだろう。
「全てを知っていて来たわけではないのか…」

「何だかややこしいことになってきましたね」
「そうじゃなぁ。厄介な置き土産じゃ」

仕方あるまい。
そう部下にも自分にも言い聞かせて、
手紙と日記を持ち施設の警護をしている第二隊5班の班長ライラの元へ向かった。

「お前さんはどう思う?と言っても、対応は変わらんか」

「そうですね。経緯が何であれ、今注目されている人物が何を考えているか分からない以上、対応は変わりません」

「そうじゃろな。手間を取らせたの」

わしは持っていた手紙を懐にしまった。

2/18/2025, 9:25:45 AM

▶108.「輝き」
107.「時間よ止まれ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜人形たちの知らない物語〜


「はぁ、そうか…全部見たか」

私は気が抜けて、そのまま寝床に倒れ込んだ。
視界の端で慌てている奴がいるが無視を決め込む。

しばらくの間そのままでいたが、
イレフスト国の近況がまだ聞けていなかったことに気づいた。

「そういえば戦乱はどうなったんだ。研究は?みんなは?」
「はい、終戦宣言が出されました。F16室含め研究室のほとんどは解散です。すみません、最初に退職したのでそれ以上は分かりません」


自国の王を殺され研究も取り上げられたのにも関わらず、大した怒りも湧かないのは何故だろう。
あのメカを完成に漕ぎ着けられたからだろうか?よくわからない。

自律思考型メカ・タイプインセクト、ナナホシ。
どこにも発表する気はないが、私たちの研究の集大成である。
国に隠していることも含めて、大人の青春の輝きそのものだ。

「状況は分かった。みなも何とかやっていくだろうから、もう気にするな、いいな。それよりだ。今の君では、受け取りができないんだな。どうするか、一緒に開けに行くか?」
「局長、今は動けないでしょう?大丈夫です、何とかします。だけどすぐには取りに行けないかもしれません。あそこを残しておくことは出来ますか?」

決意に満ちた目だ。姿が変わっても、その紺色の瞳は変わらない。


「ふむ。研究のほとんどは放棄されるだろうが…そのくらいやってみせようとも。どれくらい必要だ?ひとまず100年くらい残しておけばいいか?」
「私の故郷の人間はここの大陸の人間より長生きですけど、さすがに100年も生きませんよ」

「そうか?まぁ多いに越したことはないだろ」
「はぁ、そういうものですかね」

少しの呆れと笑いを含んだ人間らしい表情。

(もう____は大丈夫だ)


「あ!ということは手紙も読んだのか?」
「はい、読みました。とても嬉しかったです。読みやすい取説もありがとうございました」

「すっかり開き直って、仕方のないやつだなぁ」

そう言って笑い合った。
____が立ち上がり、私の布団を直してくれた。

「さ、もうお疲れでしょう。私は行きます。休んでください」

「ああ、気をつけて行くんだぞ。またみんなで会えるといいな」
「そうですね。では、失礼します。」

パタン、と静かな音を立ててドアが閉まった。

「そういえば、手紙の在り処を話せば良かったかなぁ。あいつら、手紙を書いたくせに読まれるのを恥ずかしがるもんだから収納庫の天井に貼り付けたが、あれじゃ気づかれないよ」

まあ、いいか。それはそれで。
私は休息を取るために目を閉じた。





元上司のところから辞した彼は、村の男に礼を言って外に出た。


あの輝きに満ちた日々の続きを、
そして局長だけでなくみんなにも本当の自分を受け入れてもらえたら。

彼の望みは前より大きなものになっていた。


サボウム国にも仲間はいた。だがそれは王を倒す目的の元に集まった仲間であり、隠さねばならない仲間であった。彼にとって安心できる場所ではなかった。

イレフスト国では姿を変え、心の距離を置いて接しているつもりだった。
いつの間にか、その輝きは彼の心を照らしてくれる大事なものになっていた。

もう一度、もう一度だけ『身支度』を受けたい。
姿を変えられれば、自分に用意された贈り物を受け取れる。
行きと違って長く掛かるだろうがサボウム国に戻ろう。

彼は固く決意していた。

2/17/2025, 9:17:02 AM

▶107.「時間よ止まれ」
106.「君の声がする」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜君の知らない物語〜

「私は、本当はナトミ村ではなくサボウム国から来ました。これが私の本当の姿。イレフスト国にいた時は、サボウム国の施術を受けて姿を変えていたのです」

____は、長くなるからと言って局長には寝床へ横になってもらってから話し始めた。

「でも本当は、もっと違う場所から来ました」
言葉も何も分からなくて。
拾ってくれた老夫婦が全て教えてくれた。

「私は故郷で人形作りをしていたので、慰みに作っていたら、目をつけられまして」

恩が返せるならいいかとも思った。

「ですがサボウム国は人体の改造にのめり込みすぎました。国民を傷つけすぎたのです。私は反抗グループに賛同し、王の作戦を逆手にとって乱戦に巻き込む計画を実行することにしました」

王の作戦は術具『ワルツ』によってフランタ国とイレフスト国の王をはじめ城にいる人々の心を操り戦わせること。


「イレフスト国の重鎮たちが乱心したのは、私が複製した『ワルツ』を、城に置いたからです」
「そうだったのか…しかし、術にかかったのは城にいた全員ではなかったな。それに、どうして私に話そうと思ったのだ」

「F16室の居心地が良かったんです。あの場所がなくなって欲しくなかった。だからあなたたちの技術を流用して『ワルツ』が強い害意を持つ者だけに反応するように細工しました」

だからといって、話せることでもない。自分が本来の姿に戻る前に、去るつもりだった。

「誤算だったのは、想定より早く姿が戻ってしまったことです。仮にも技術者であるのに、あれほど時間よ止まれと願ったことは無い。そして姿が変わってしまったことで指紋まで変わり、技術局の承認機が使えなくなってしまいました。それに局内は真っ暗であなたもいませんでした。私にその資格はないですが、心配したんです。会えたら、全てを話そうと思っていました。それがせめてもの誠意だと」


いくら走っても沈む太陽には追いつかないように、
零れた水を戻すことができないように、

時間に止まれと願っても止まることはない。

「局長、無事で本当に良かった。隠していて申し訳ありませんでした」

____は、深く頭を下げた。





「それで、探してくれたのか。そうか…君はアレを受け取れなかったのか…」

確かに長い話だった。
だが、不思議と騙されたという気分にはならなかった。
ただ、我らの研究の集大成とも言える____へのプレゼントを渡せなかったのが、心残りだと感じている。

時よ止まれと願うだけで止められるなら、
間違いなく、それの為に使っただろうに。


「あと…あの…」
「なんだ?これ以上に言い淀むことがあるのか?」

「その、今おっしゃったアレ、なのですが、すみません私見てしまいました」

「なんだと!?」

しみじみと今までを振り返っていた私は、全ての感傷を振り切って飛び起きた。

時間よ止まれ、今聞いた発言の前で止まってくれ。


どんなに進んだ技術でも叶わないことを、
私は願った。

Next