▶108.「輝き」
107.「時間よ止まれ」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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〜人形たちの知らない物語〜
「はぁ、そうか…全部見たか」
私は気が抜けて、そのまま寝床に倒れ込んだ。
視界の端で慌てている奴がいるが無視を決め込む。
しばらくの間そのままでいたが、
イレフスト国の近況がまだ聞けていなかったことに気づいた。
「そういえば戦乱はどうなったんだ。研究は?みんなは?」
「はい、終戦宣言が出されました。F16室含め研究室のほとんどは解散です。すみません、最初に退職したのでそれ以上は分かりません」
自国の王を殺され研究も取り上げられたのにも関わらず、大した怒りも湧かないのは何故だろう。
あのメカを完成に漕ぎ着けられたからだろうか?よくわからない。
自律思考型メカ・タイプインセクト、ナナホシ。
どこにも発表する気はないが、私たちの研究の集大成である。
国に隠していることも含めて、大人の青春の輝きそのものだ。
「状況は分かった。みなも何とかやっていくだろうから、もう気にするな、いいな。それよりだ。今の君では、受け取りができないんだな。どうするか、一緒に開けに行くか?」
「局長、今は動けないでしょう?大丈夫です、何とかします。だけどすぐには取りに行けないかもしれません。あそこを残しておくことは出来ますか?」
決意に満ちた目だ。姿が変わっても、その紺色の瞳は変わらない。
「ふむ。研究のほとんどは放棄されるだろうが…そのくらいやってみせようとも。どれくらい必要だ?ひとまず100年くらい残しておけばいいか?」
「私の故郷の人間はここの大陸の人間より長生きですけど、さすがに100年も生きませんよ」
「そうか?まぁ多いに越したことはないだろ」
「はぁ、そういうものですかね」
少しの呆れと笑いを含んだ人間らしい表情。
(もう____は大丈夫だ)
「あ!ということは手紙も読んだのか?」
「はい、読みました。とても嬉しかったです。読みやすい取説もありがとうございました」
「すっかり開き直って、仕方のないやつだなぁ」
そう言って笑い合った。
____が立ち上がり、私の布団を直してくれた。
「さ、もうお疲れでしょう。私は行きます。休んでください」
「ああ、気をつけて行くんだぞ。またみんなで会えるといいな」
「そうですね。では、失礼します。」
パタン、と静かな音を立ててドアが閉まった。
「そういえば、手紙の在り処を話せば良かったかなぁ。あいつら、手紙を書いたくせに読まれるのを恥ずかしがるもんだから収納庫の天井に貼り付けたが、あれじゃ気づかれないよ」
まあ、いいか。それはそれで。
私は休息を取るために目を閉じた。
◇
元上司のところから辞した彼は、村の男に礼を言って外に出た。
あの輝きに満ちた日々の続きを、
そして局長だけでなくみんなにも本当の自分を受け入れてもらえたら。
彼の望みは前より大きなものになっていた。
サボウム国にも仲間はいた。だがそれは王を倒す目的の元に集まった仲間であり、隠さねばならない仲間であった。彼にとって安心できる場所ではなかった。
イレフスト国では姿を変え、心の距離を置いて接しているつもりだった。
いつの間にか、その輝きは彼の心を照らしてくれる大事なものになっていた。
もう一度、もう一度だけ『身支度』を受けたい。
姿を変えられれば、自分に用意された贈り物を受け取れる。
行きと違って長く掛かるだろうがサボウム国に戻ろう。
彼は固く決意していた。
2/18/2025, 9:25:45 AM