▶107.「時間よ止まれ」
106.「君の声がする」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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〜君の知らない物語〜
「私は、本当はナトミ村ではなくサボウム国から来ました。これが私の本当の姿。イレフスト国にいた時は、サボウム国の施術を受けて姿を変えていたのです」
____は、長くなるからと言って局長には寝床へ横になってもらってから話し始めた。
「でも本当は、もっと違う場所から来ました」
言葉も何も分からなくて。
拾ってくれた老夫婦が全て教えてくれた。
「私は故郷で人形作りをしていたので、慰みに作っていたら、目をつけられまして」
恩が返せるならいいかとも思った。
「ですがサボウム国は人体の改造にのめり込みすぎました。国民を傷つけすぎたのです。私は反抗グループに賛同し、王の作戦を逆手にとって乱戦に巻き込む計画を実行することにしました」
王の作戦は術具『ワルツ』によってフランタ国とイレフスト国の王をはじめ城にいる人々の心を操り戦わせること。
「イレフスト国の重鎮たちが乱心したのは、私が複製した『ワルツ』を、城に置いたからです」
「そうだったのか…しかし、術にかかったのは城にいた全員ではなかったな。それに、どうして私に話そうと思ったのだ」
「F16室の居心地が良かったんです。あの場所がなくなって欲しくなかった。だからあなたたちの技術を流用して『ワルツ』が強い害意を持つ者だけに反応するように細工しました」
だからといって、話せることでもない。自分が本来の姿に戻る前に、去るつもりだった。
「誤算だったのは、想定より早く姿が戻ってしまったことです。仮にも技術者であるのに、あれほど時間よ止まれと願ったことは無い。そして姿が変わってしまったことで指紋まで変わり、技術局の承認機が使えなくなってしまいました。それに局内は真っ暗であなたもいませんでした。私にその資格はないですが、心配したんです。会えたら、全てを話そうと思っていました。それがせめてもの誠意だと」
いくら走っても沈む太陽には追いつかないように、
零れた水を戻すことができないように、
時間に止まれと願っても止まることはない。
「局長、無事で本当に良かった。隠していて申し訳ありませんでした」
____は、深く頭を下げた。
◇
「それで、探してくれたのか。そうか…君はアレを受け取れなかったのか…」
確かに長い話だった。
だが、不思議と騙されたという気分にはならなかった。
ただ、我らの研究の集大成とも言える____へのプレゼントを渡せなかったのが、心残りだと感じている。
時よ止まれと願うだけで止められるなら、
間違いなく、それの為に使っただろうに。
「あと…あの…」
「なんだ?これ以上に言い淀むことがあるのか?」
「その、今おっしゃったアレ、なのですが、すみません私見てしまいました」
「なんだと!?」
しみじみと今までを振り返っていた私は、全ての感傷を振り切って飛び起きた。
時間よ止まれ、今聞いた発言の前で止まってくれ。
どんなに進んだ技術でも叶わないことを、
私は願った。
2/17/2025, 9:17:02 AM