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2/19/2025, 9:50:05 AM

▶109.「手紙の行方」
108.「輝き」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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時は現在、元対フランタ技術局内にて

「ん?なんじゃこれは」

施設内が明るくなり、自由に探索できるようになった。
なので技術保全課の課長ホルツは、盗られたと思われるものが何であったか、その手がかりを探していた。

それが収められていたであろう機械、手を置くと男がベラベラ喋るやつだ、その庫内を覗き込んでいたら、天井部分に何かが貼り付いている。

取ろうと触れたら、すぐに剥がれた。

「おっとと。ありゃ接着部分が黄ばんでカサカサじゃ。これは、古いぞ。よく今まで貼り付いとったな」

それは分厚い封筒だった。

「ふむ、手紙にしては分厚いが。接着剤に反して、紙の劣化は少ない。最近まで締め切られておった証拠じゃな」

「課長!ここの長が書いたと思しき日記が見つかりました!」
「おお、でかした!」

日記と封筒の中身を突き合わせて読んでいく。

「ここのやつらは、随分好き勝手やっておったようじゃの」
「長引いた戦乱に狭い空間。資料の多さから見て仕事も相当量。人間関係は良好だったようですが、負担が大きかったのでしょうね。とはいえ、これはバレたら軍法会議ものです」

「それを日記に堂々と書くとは…。しかし、これはどうするかのう」

収められていたもの。
それは国の機密や資材を流用して作られた個人へのプレゼント。

分厚い封筒の中身は、それの取り扱い説明書が大半であった。
手紙も、プレゼントの内容を考えなければ心温まる内容だ。

「危害を加えるものではなさそうじゃな」
「そのようです」

国にも報告されていない、小さなメカ。
知っている人間でなければたどり着けないはずだ。
「当事者では時代が合わんから、子孫か何かか?」

だが、手紙は持っていかなかった。おそらく気づかなかったのだろう。
「全てを知っていて来たわけではないのか…」

「何だかややこしいことになってきましたね」
「そうじゃなぁ。厄介な置き土産じゃ」

仕方あるまい。
そう部下にも自分にも言い聞かせて、
手紙と日記を持ち施設の警護をしている第二隊5班の班長ライラの元へ向かった。

「お前さんはどう思う?と言っても、対応は変わらんか」

「そうですね。経緯が何であれ、今注目されている人物が何を考えているか分からない以上、対応は変わりません」

「そうじゃろな。手間を取らせたの」

わしは持っていた手紙を懐にしまった。

2/18/2025, 9:25:45 AM

▶108.「輝き」
107.「時間よ止まれ」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜


「はぁ、そうか…全部見たか」

私は気が抜けて、そのまま寝床に倒れ込んだ。
視界の端で慌てている奴がいるが無視を決め込む。

しばらくの間そのままでいたが、
イレフスト国の近況がまだ聞けていなかったことに気づいた。

「そういえば戦乱はどうなったんだ。研究は?みんなは?」
「はい、終戦宣言が出されました。F16室含め研究室のほとんどは解散です。すみません、最初に退職したのでそれ以上は分かりません」


自国の王を殺され研究も取り上げられたのにも関わらず、大した怒りも湧かないのは何故だろう。
あのメカを完成に漕ぎ着けられたからだろうか?よくわからない。

自律思考型メカ・タイプインセクト、ナナホシ。
どこにも発表する気はないが、私たちの研究の集大成である。
国に隠していることも含めて、大人の青春の輝きそのものだ。

「状況は分かった。みなも何とかやっていくだろうから、もう気にするな、いいな。それよりだ。今の君では、受け取りができないんだな。どうするか、一緒に開けに行くか?」
「局長、今は動けないでしょう?大丈夫です、何とかします。だけどすぐには取りに行けないかもしれません。あそこを残しておくことは出来ますか?」

決意に満ちた目だ。姿が変わっても、その紺色の瞳は変わらない。


「ふむ。研究のほとんどは放棄されるだろうが…そのくらいやってみせようとも。どれくらい必要だ?ひとまず100年くらい残しておけばいいか?」
「私の故郷の人間はここの大陸の人間より長生きですけど、さすがに100年も生きませんよ」

「そうか?まぁ多いに越したことはないだろ」
「はぁ、そういうものですかね」

少しの呆れと笑いを含んだ人間らしい表情。

(もう____は大丈夫だ)


「あ!ということは手紙も読んだのか?」
「はい、読みました。とても嬉しかったです。読みやすい取説もありがとうございました」

「すっかり開き直って、仕方のないやつだなぁ」

そう言って笑い合った。
____が立ち上がり、私の布団を直してくれた。

「さ、もうお疲れでしょう。私は行きます。休んでください」

「ああ、気をつけて行くんだぞ。またみんなで会えるといいな」
「そうですね。では、失礼します。」

パタン、と静かな音を立ててドアが閉まった。

「そういえば、手紙の在り処を話せば良かったかなぁ。あいつら、手紙を書いたくせに読まれるのを恥ずかしがるもんだから収納庫の天井に貼り付けたが、あれじゃ気づかれないよ」

まあ、いいか。それはそれで。
私は休息を取るために目を閉じた。





元上司のところから辞した彼は、村の男に礼を言って外に出た。


あの輝きに満ちた日々の続きを、
そして局長だけでなくみんなにも本当の自分を受け入れてもらえたら。

彼の望みは前より大きなものになっていた。


サボウム国にも仲間はいた。だがそれは王を倒す目的の元に集まった仲間であり、隠さねばならない仲間であった。彼にとって安心できる場所ではなかった。

イレフスト国では姿を変え、心の距離を置いて接しているつもりだった。
いつの間にか、その輝きは彼の心を照らしてくれる大事なものになっていた。

もう一度、もう一度だけ『身支度』を受けたい。
姿を変えられれば、自分に用意された贈り物を受け取れる。
行きと違って長く掛かるだろうがサボウム国に戻ろう。

彼は固く決意していた。

2/17/2025, 9:17:02 AM

▶107.「時間よ止まれ」
106.「君の声がする」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜君の知らない物語〜

「私は、本当はナトミ村ではなくサボウム国から来ました。これが私の本当の姿。イレフスト国にいた時は、サボウム国の施術を受けて姿を変えていたのです」

____は、長くなるからと言って局長には寝床へ横になってもらってから話し始めた。

「でも本当は、もっと違う場所から来ました」
言葉も何も分からなくて。
拾ってくれた老夫婦が全て教えてくれた。

「私は故郷で人形作りをしていたので、慰みに作っていたら、目をつけられまして」

恩が返せるならいいかとも思った。

「ですがサボウム国は人体の改造にのめり込みすぎました。国民を傷つけすぎたのです。私は反抗グループに賛同し、王の作戦を逆手にとって乱戦に巻き込む計画を実行することにしました」

王の作戦は術具『ワルツ』によってフランタ国とイレフスト国の王をはじめ城にいる人々の心を操り戦わせること。


「イレフスト国の重鎮たちが乱心したのは、私が複製した『ワルツ』を、城に置いたからです」
「そうだったのか…しかし、術にかかったのは城にいた全員ではなかったな。それに、どうして私に話そうと思ったのだ」

「F16室の居心地が良かったんです。あの場所がなくなって欲しくなかった。だからあなたたちの技術を流用して『ワルツ』が強い害意を持つ者だけに反応するように細工しました」

だからといって、話せることでもない。自分が本来の姿に戻る前に、去るつもりだった。

「誤算だったのは、想定より早く姿が戻ってしまったことです。仮にも技術者であるのに、あれほど時間よ止まれと願ったことは無い。そして姿が変わってしまったことで指紋まで変わり、技術局の承認機が使えなくなってしまいました。それに局内は真っ暗であなたもいませんでした。私にその資格はないですが、心配したんです。会えたら、全てを話そうと思っていました。それがせめてもの誠意だと」


いくら走っても沈む太陽には追いつかないように、
零れた水を戻すことができないように、

時間に止まれと願っても止まることはない。

「局長、無事で本当に良かった。隠していて申し訳ありませんでした」

____は、深く頭を下げた。





「それで、探してくれたのか。そうか…君はアレを受け取れなかったのか…」

確かに長い話だった。
だが、不思議と騙されたという気分にはならなかった。
ただ、我らの研究の集大成とも言える____へのプレゼントを渡せなかったのが、心残りだと感じている。

時よ止まれと願うだけで止められるなら、
間違いなく、それの為に使っただろうに。


「あと…あの…」
「なんだ?これ以上に言い淀むことがあるのか?」

「その、今おっしゃったアレ、なのですが、すみません私見てしまいました」

「なんだと!?」

しみじみと今までを振り返っていた私は、全ての感傷を振り切って飛び起きた。

時間よ止まれ、今聞いた発言の前で止まってくれ。


どんなに進んだ技術でも叶わないことを、
私は願った。

2/16/2025, 8:52:42 AM

▶106.「君の声がする」
105.「ありがとう」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜君の知らない物語〜

対フランタ技術局局長としての仕事は終わった。
そして私は技術局から水と食料を持ち出し、山に入った。
地下通路よりもこちらの方が早く人に会えると思ったし、
どうせなら仲間には自身の不調を隠し通したいという意地もあった。

私は山登りをしたことがなかったから、山を甘く見ていたのだ。
休み休み歩けばいい、火を焚いたら見つけてもらえる、
どこか楽観的に考えていた。


先の見えない道無き道を歩いていったが足の踏ん張りがきかず、あっと言う間もなく、足を滑らせてしまった。
私は転げ落ちて、もみくちゃになるのを感じつつ意識を手放した。





祠の掃除に来たら、知らない誰かが倒れていた。
大きい怪我は無さそうだが、あちこち傷だらけだ。

「おい、生きてるか?起きろ」
「あ、動いたぞ」

「う…」

「消耗が激しいみたいだな、助けられるかな」
「祠の近くに倒れてた。つまり御山様の加護がある。だから助かるし、助ける」

「そうだな。じゃあ、運ぼう」
「俺が背負うから、お前は先導を頼む」






(イレフスト国の人が優しかったらいいなとは思ってたけど、
本当に優しくされると、なんだかな)


運良く、山を下りられたらしい。

やっと寝床で体を起こせるようになったので、
窓の外に広がる景色を見ることができた。


「起きたか」
声に振り返れば、がっしりとした男がのっそのっそと入ってきた。

「私は、生きているのだな」

元々の不調、これは男の話によると風邪をこじらせていたらしい、
それに加えて山歩きと滑落。自分でも死んだだろうと思ったが、

「御山様の加護のおかげだ」

この村の人達のおかげで、なんとか生き延びられた。

「まだ寝てろ。また来る」


寝て、少し起きて、また寝て。

少しずつ回復して、普通の食事が食べられるようになった頃。

「客?私に?」
「そうだ。会うか?探していたらしい」
「わかった、会うよ」

私の返事を聞くと、男は廊下のある方を向いて入ってこいと声をかけた。

「失礼する」

聞き覚えのある声だと思った。
だが、入ってきたのは見知らぬ人だった。

線の細い、女みたいだが多分男だ。

「できれば二人だけで話したいのだが、良いだろうか」
「私は構わないよ」
「この方は御山様の加護を受けている。危害を加えるような真似をしたら」
「そのようなことはしない。誓ってもいい」

村の男が出ていくと、
残った細い方が、こちらを向いた。

「お久しぶりです。と言っても、この姿では分からないでしょうが、局長」
やはり聞き覚えのある声だ。その証拠に目を閉じて聞けば…

「____君の声がする…まさか、」
「そうです。____です」

どういうことだ?
私の困惑を見て、目の前の彼は一つ頷く。

「全て、お話します」

2/15/2025, 9:23:59 AM

▶105.「ありがとう」
104.「そっと伝えたい」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜君の知らない物語〜

____は局長以外のメンバーと共に、
対フランタ技術局から地下通路を抜けて、王宮まで戻ってきた。
『ワルツ』の発動から、それなりの日数の経過があったはずだが王宮の中は未だに慌ただしい雰囲気に包まれている。

王宮にいた者に聞いた話では、
やはり、3国の王同士、取り巻きも含めて潰し合ったらしい。ここの王は成人していた王子も連れて行ってしまったとのことで、高官は政の立て直し、特に継承者探しに追われているということだった。

(お互い立て直すのに必死で、戦いどころではないはずだ)

戦いを続けたい者がいなくなれば、それは終わりを迎えるだろう。

そんな____の予想通り、
まともな高官が3国それぞれから終戦締結のために集まった。

集まった場所は、この戦乱の中心地であるノンバレッタ平原。
後に末期に激戦があった地と伝えられ、3国の空白地帯となる場所である。

急ぎ、場は整えられたものの、漂う血なまぐさい臭いは容易には消えない。
高官たちは慣れぬ臭いに顔が青ざめつつも耐えるしかなかった。


この場を設けるきっかけとなった、王たちの乱心だが、
3国で同時に乱心など偶然では有り得ない。

何か、あったのだ。
それも、間違いなく人の手によって起こされたものだ。

ならば技術特性から言ってサボウム国の仕業であろうが、
当のサボウム国王ですら、この平原で命を落としている。

不可解な状況だが、しかし都合はいい。
何しろ、これから国を立て直すために、周辺国に頭を下げて支援を得なければならないのだ。とにかく時間が惜しい。

通常ならば、事実の究明や賠償金、国境線について紛糾するところだが、
この戦いは痛み分け、得たものは教訓のみという共通認識の元、

今後互いに戦を仕掛けない。
殊更仲良くはしないが嫌い合いもしない。
過度な技術研究や導入は避ける。

そのような内容を文言に盛り込みつつ、淡々と必要な情報を共有しながら協議は進められていったのだった。


こうして、フランタ国、イレフスト国、サボウム国による戦乱は終わった。


「私は、ナトミ村へ帰ることにした。今まで、ありがとう」

自身の身辺整理をしながら終戦宣言の発表を待っていた____は、
F16室のメンバーに別れの挨拶をした。

王宮の研究室は最低限の人員を残し、解散となった。
対フランタ技術局を抱えていたF16室も例外ではない。

「そうか、そうだよな。心配だよな」
「気をつけて帰れよ」
「こっちこそ、今までありがとう。お土産受け取るの、忘れんなよ」
「そうだぞ。局長、いや室長?も違うか?まぁいいや。よろしく伝えてくれな」
「また会おう」


もちろん、ナトミ村へ帰るというのは嘘だった。
対フランタ技術局、今はもう施設名の頭に旧と付けなければならないが、
____は、そこへ寄って用事を済ませたら、サボウム国に戻って仲間に会うつもりでいた。
その頃には____の『身支度』も解け、本来の姿に戻っているはずだ。

「ああ、分かった」

____は、嘘と別れに痛む心を押し殺して、

「本当に、ありがとう」

精一杯の感謝を伝えた。

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