▶105.「ありがとう」
104.「そっと伝えたい」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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〜君の知らない物語〜
____は局長以外のメンバーと共に、
対フランタ技術局から地下通路を抜けて、王宮まで戻ってきた。
『ワルツ』の発動から、それなりの日数の経過があったはずだが王宮の中は未だに慌ただしい雰囲気に包まれている。
王宮にいた者に聞いた話では、
やはり、3国の王同士、取り巻きも含めて潰し合ったらしい。ここの王は成人していた王子も連れて行ってしまったとのことで、高官は政の立て直し、特に継承者探しに追われているということだった。
(お互い立て直すのに必死で、戦いどころではないはずだ)
戦いを続けたい者がいなくなれば、それは終わりを迎えるだろう。
そんな____の予想通り、
まともな高官が3国それぞれから終戦締結のために集まった。
集まった場所は、この戦乱の中心地であるノンバレッタ平原。
後に末期に激戦があった地と伝えられ、3国の空白地帯となる場所である。
急ぎ、場は整えられたものの、漂う血なまぐさい臭いは容易には消えない。
高官たちは慣れぬ臭いに顔が青ざめつつも耐えるしかなかった。
この場を設けるきっかけとなった、王たちの乱心だが、
3国で同時に乱心など偶然では有り得ない。
何か、あったのだ。
それも、間違いなく人の手によって起こされたものだ。
ならば技術特性から言ってサボウム国の仕業であろうが、
当のサボウム国王ですら、この平原で命を落としている。
不可解な状況だが、しかし都合はいい。
何しろ、これから国を立て直すために、周辺国に頭を下げて支援を得なければならないのだ。とにかく時間が惜しい。
通常ならば、事実の究明や賠償金、国境線について紛糾するところだが、
この戦いは痛み分け、得たものは教訓のみという共通認識の元、
今後互いに戦を仕掛けない。
殊更仲良くはしないが嫌い合いもしない。
過度な技術研究や導入は避ける。
そのような内容を文言に盛り込みつつ、淡々と必要な情報を共有しながら協議は進められていったのだった。
こうして、フランタ国、イレフスト国、サボウム国による戦乱は終わった。
「私は、ナトミ村へ帰ることにした。今まで、ありがとう」
自身の身辺整理をしながら終戦宣言の発表を待っていた____は、
F16室のメンバーに別れの挨拶をした。
王宮の研究室は最低限の人員を残し、解散となった。
対フランタ技術局を抱えていたF16室も例外ではない。
「そうか、そうだよな。心配だよな」
「気をつけて帰れよ」
「こっちこそ、今までありがとう。お土産受け取るの、忘れんなよ」
「そうだぞ。局長、いや室長?も違うか?まぁいいや。よろしく伝えてくれな」
「また会おう」
もちろん、ナトミ村へ帰るというのは嘘だった。
対フランタ技術局、今はもう施設名の頭に旧と付けなければならないが、
____は、そこへ寄って用事を済ませたら、サボウム国に戻って仲間に会うつもりでいた。
その頃には____の『身支度』も解け、本来の姿に戻っているはずだ。
「ああ、分かった」
____は、嘘と別れに痛む心を押し殺して、
「本当に、ありがとう」
精一杯の感謝を伝えた。
2/15/2025, 9:23:59 AM