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2/14/2025, 9:17:48 AM

▶104.「そっと伝えたい」
103.「ココロ」「未来の記憶」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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イレフスト国内北西部、とある町にて

(そんなにわるいやつには、見えないんだよなぁ)

F16室の異変から始まった騒動。現在、最重要人物として挙げられているのは、その髪色から『シルバーブロンド』と呼ばれている人物だ。

そいつは、今。

俺と一緒に、道いっぱいに転がったオリャンの実を拾っている。

「すいませんねぇ、お若いさん方。どうにも腰が辛くて…おかげで助かるわぁ」

「気にせず休んでいてくれ」

なんでこんなことになったって、仕方ないじゃないか。

『シルバーブロンド』とすれ違った押し車が石につまづいて、積まれていたオリャンの実の山が崩れてしまったんだから。
『シルバーブロンド』が振り返ったのと、俺がつい、あっと声を上げてしまったのが同時だったんだから。

確実に目が合った『シルバーブロンド』がオリャンの実を真っ先に拾い始めたのに、俺が拾わなかったら、何のために軍をやってるか分からなくなるだろう?

だから、仕方ないんだ。

それにしても…。

「私の友人がオリャンの実を好んでいてな。確かに良い香りだが、食べるには些か酸っぱいと思うんだ。でも、それが友人には良いらしいんだ」

「あらぁ、地元民でも生で食べる人なんて殆ど居ないのに。嬉しいけど、面白い人ねぇ」
「ああ。でも、とても良い友人なんだ」
「ええ、ええ。うふふ、あなたを見ていればね、分かりますとも」

話が弾んでいる。

え、こいつは人間離れした速度で移動するほど急いでいるんじゃなかったのか?

こんなに悠長に喋っていていいのか?

そんな印象深い話をして顔を覚えられても困らないのか?


焦りひとつない顔でオリャンの実を拾い終わると、『シルバーブロンド』はさらに衝撃的発言をした。

「ご婦人、また石につまづいては危ないから、私が代わりに運ぼう」

「え?そんな悪いわよぉ。行き先もあるのでしょう?」
「このくらい問題ない。さ、どこに運べばいい?」
「そう?それなら今は甘えちゃおうかしらね。店までお願いできる?」

あなたもありがとうね。

お礼にと、オリャンの実を一つ受け取った俺は、ぼんやり二人を見送った。

(あなた見られてますよって言ってみたい)

いや、言ったら怒られるな。

(バレないように、そっと伝えたい)

やらないけど、やらないけど。

『シルバーブロンド』の本性が気になって仕方なかった。

2/12/2025, 9:44:53 AM

▶103.「ココロ」「未来の記憶」
102.「星に願って」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜

ワルツ発動以前ではあるが、詳しい日付は不明。
対フランタ技術局の面々が、ただし一人を除いて、
夜な夜な密やかに賑やかしく作業を行っている。


「じゃ、いくぞー。『喜び』」

「動力源である熱を得た時」
「あ、ずるい!でもそれじゃかわいくないな。あったかい時!」
「身づくろいが上手くいったとき」
「え?えー…名前を呼ばれた時?」

「うー、分からんときの奥の手、今こそ使わせてもらおう!お題チェンジ!『悲しみ』!寒い時!」
「故障箇所を見つけたとき」
「マスターと離れる時?」
「えーと、えーと、えー…

局員の一人が言葉に詰まっていると、
部屋のドアが開かれ、局長が入ってきた。
「おー、今夜もやってるなあ」
「局長!グッドタイミング!助かったー」
「いやいやいや、どうみてもお前が負けだ。明日の飯当番はよろしくな」

「ええー、そんなぁ」
「何をやっていたんだ?」

「メカの感情プログラムづくりだよ。連想ってほどじゃないけど、順番に言ってアイデア出ししてたんだ」
「ほぉ〜、これか。うん、どれもいいな」
「やったね、早速入力してこーぜ」

メカの自律思考に性格傾向をつけるため、
感情プログラムの入力をしていた。
行動の全てを網羅するのは難しいが、
判断基準となる例をいくつか作っておいて、
後は、それを元に学習させていくことにしたのだ。

それを、ただ挙げていくだけじゃ面白くないと、ゲーム形式にして遊んでいたようだ。

(かなり雰囲気が明るくなってきたな)

いつの間にか、遊び心すら忘れていた。


「なぁー、これって俺たちが、メカのココロってやつを作ってるってことだよな」
「想定される事態を事前に入力しておくという意味では、未来の記憶とも言えるな」

「どうせなら楽しいこといっぱいだといいなぁ」
「そうだな、そうであれば____も楽しい日々を過ごせていることになるしな」

2/11/2025, 9:31:00 AM

▶102.「星に願って」
101.「君の背中」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜

「このメカのデザインどうする?」
「何か俺達らしいやつがいいよなぁ」

ワルツ発動以前ではあるが、詳しい日付は不明。
対フランタ技術局の面々が、ただし一人を除いて、
夜な夜な密やかに賑やかしく作業を行っている。


「F16…あ、16を星で表すのはどうだ?」
「16個も入れたらうるさくないか?」
「じゃあ10が大きい星で、小さいのを6個入れたら?」
「いいな、それ」
「はい決定〜。ベースは?____の瞳の色とか?」
「いいんじゃないか?紺の染料あるぞ。」

国の思惑も役職も関係なく、
自分たちの技術が友のために実を結ぶようにと議論をかわす。


「うまいうまい、上手じゃん」
「へへっ。大きい星1つ、小さい星6つで、七つ星だな」
「じゃあ名前は呼びやすいように、ナナホシだな」
「まんまじゃん!」
「まあまあ、あいつ小難しい顔ばっかりしてるからさ、このくらい簡単な方がいいただろ?な?」
「それもそうだな。プログラムに入れておくぞ」

「なぁなぁ、もう作業も終盤だけどさ。プロジェクト名を思いついた」
「もう今更だけど、一応聞いとこうか」
「その名も『星に願って』!どうだ!」
「あんたロマンチストだったんだなぁ。いいな、それ。ナナホシが、我らが期待の星____の友になることを願って!」
「ナナホシに願って!」

こうして夜は更けていく。

2/10/2025, 9:40:19 AM

▶101.「君の背中」
100.「遠く....」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜

無理やり地下通路へ送り出した____君の背中が遠ざかっていく。

しばらく見送ったあと、私は中に戻った。

「結局何も聞けなかったなぁ」

彼の経歴を知っている身からすると、その行動は妙だった。
元々ひとりで技術屋をやっていたらしいが。
その割りには、
新しい職場、しかも出来上がったチームの中に投げ込まれても、
動じた様子もなく、すぐに順応していた。

しかも、あの手先の繊細さ。あれで食い詰めるって、どういう事だろう。
それ程に国は絞り上げていたということだろうか。

しかし、いざ聞いてみようと姿を探してみれば、
「いつもぴしっと伸びている君の背中が丸まっているのを見たらなぁ、そっとしておいてあげたくなるよなぁ」
何か、重い秘密でも抱え込んでいたのだろうか。
私と同じように。


王宮にあるF16室に技術局廃棄の知らせを入れ、
____に向けたメッセージを登録して、
日誌に思いの丈を書き込んだら意外とスッキリしてしまって、


今はメインルームの椅子に座ったまま、半ば放心状態だ。

「もう、いっそこのまま…」
自力で国には戻れないし。

「でも、ここで死んでたら、____に悪いよなぁ…」

チラッと視線を送った先。フランタ国の山中に出る通路。

「そもそも、生きて帰らないとまずい」
心配でもされたら、あいつらまとめて来てしまう。そうなったら、せっかくかっこいいメッセージを入れたのが台無しだ。

「仕方ない、仕方ない」

独り言が増えるのも仕方ない。
どっこいしょと体を動かして、F16室との通信を開く。

「あー、あー。誰かそっちにいるか?」

「うん、うん、他は?いないな?」

「いや何、少し私の予定が変わってな。しばらくそちらには帰れない。上手く言っておいてくれないか」

「迎えには来なくていい、来なくていいから。だから心配するなって、大丈夫だ」


「ああ、必ず君たちの背中を追いかけるから。君たちも生き抜けよ」


通信を切り、技術局内設備の全てを待機モードに変えていく。

『半刻後に全ての設備が待機モードへ移行します。局内にいる人員は退避してください。繰り返します。半刻後に…


「フランタ国の人、優しいといいなぁ」

繰り返されるアナウンスに背を向け、私は外に出る通路に向かった。

2/9/2025, 9:18:19 AM

▶100.「遠く....」
99.「誰も知らない秘密」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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イレフスト国 第三隊所属の国境線南部詰め所にて
「班長、すいません。見失いました」
「そうか…しかし相手は徒歩だろう?」
「はい、北への分かれ道の先にある村で聞き込みをしましたが、該当者と同じ特徴の者は見つかりませんでした」
「我々に勘づいたとしか思えん動きだな」

(そいつが、今回の容疑者なのか?)

王宮所属の施設から何かが盗まれたらしい。
古い研究施設で、詳細が分からない。
危険性も分からないから、最重要事案として動いている。

(それを持って初入国を申告する日陰者?どうもちぐはぐだな)

だが実際に、そいつは我々の前から姿を消した。
「相手の力量も危険性も分からないのに周囲の捜索を続けるには、班1つでは足りないな。隊長には、ありのままを報告するしかない。全員で詰所に戻る」


てっきり隊長から将軍に報告が行くのだと思ったら、任されてしまった。
いや、よく考えなくても、その通りだ。刻一刻と状況が変わっていく中で隊長が詰め所を不在にするわけにはいかない。

「入れ。将軍が直接報告を聞きたいそうだ。くれぐれも失礼のないようにな」

きた。がんばれ、俺の心臓。





隊長の見立て通り、将軍から、既に国全体へ薄く張った網に、該当者「シルバーブロンド」が最後に目撃された場所であるナトミ村周辺から重点的な捜索を重ねることと通達があった。これは引き続きという形で、南部が担当することで決定している。

深追いせずに泳がせている成果か、
ポツ、ポツ、と飛び飛びで目撃情報が入ってくる。

「北西、いや北北西に向かっているのか?」
「街道を通っていたら、こうはなりませんね」

地図に目撃情報のあった場所を書き込んでいけば、向かう方向が見える。

「なあ、最初がココ、次がココ、その次は、もうこんなに遠く....徒歩なんだよな?こいつ人間か?」
「こら、言葉づかいに気をつけろ」
「あ、すいません」
「しかし着眼点は良い。まさか夜通し移動しているのか?」

不気味な空気が流れていくのを止めるように、ノックの音が部屋に響いた。
「はい、どうぞ」
「失礼、技術保全課です。遅れて申し訳ない」

「はぁ、なんだよ…イテッ」
「どうぞこちらに。今シルバーブロンドの動きを地図にまとめていたところです。見てください。やつは、北西もしくは北北西に向かっているようです」
「どれどれ…ふむ、そのようで…っ!」
地図を辿っていった技術保全課の顔色が変わった。

「どうしました?」
「発端になっている窃盗があったとされる施設が、真っ直ぐ行った先にあるのです。こ、これは…何日程で辿り着くか予想できますか」

一気に空気が張り詰めたものに変わる。

「やつは人間ばなれした速度で移動しています。同じ速さで行った場合は7日ほどでしょうな」
「そんなに早く…もっと遠く....遠い日に来る出来事だと思っていました。いや、これは失礼。すぐに持ち帰らなければ。有益な情報をありがとうございました」

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