崩壊するまで設定足し算

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▶104.「そっと伝えたい」
103.「ココロ」「未来の記憶」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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イレフスト国内北西部、とある町にて

(そんなにわるいやつには、見えないんだよなぁ)

F16室の異変から始まった騒動。現在、最重要人物として挙げられているのは、その髪色から『シルバーブロンド』と呼ばれている人物だ。

そいつは、今。

俺と一緒に、道いっぱいに転がったオリャンの実を拾っている。

「すいませんねぇ、お若いさん方。どうにも腰が辛くて…おかげで助かるわぁ」

「気にせず休んでいてくれ」

なんでこんなことになったって、仕方ないじゃないか。

『シルバーブロンド』とすれ違った押し車が石につまづいて、積まれていたオリャンの実の山が崩れてしまったんだから。
『シルバーブロンド』が振り返ったのと、俺がつい、あっと声を上げてしまったのが同時だったんだから。

確実に目が合った『シルバーブロンド』がオリャンの実を真っ先に拾い始めたのに、俺が拾わなかったら、何のために軍をやってるか分からなくなるだろう?

だから、仕方ないんだ。

それにしても…。

「私の友人がオリャンの実を好んでいてな。確かに良い香りだが、食べるには些か酸っぱいと思うんだ。でも、それが友人には良いらしいんだ」

「あらぁ、地元民でも生で食べる人なんて殆ど居ないのに。嬉しいけど、面白い人ねぇ」
「ああ。でも、とても良い友人なんだ」
「ええ、ええ。うふふ、あなたを見ていればね、分かりますとも」

話が弾んでいる。

え、こいつは人間離れした速度で移動するほど急いでいるんじゃなかったのか?

こんなに悠長に喋っていていいのか?

そんな印象深い話をして顔を覚えられても困らないのか?


焦りひとつない顔でオリャンの実を拾い終わると、『シルバーブロンド』はさらに衝撃的発言をした。

「ご婦人、また石につまづいては危ないから、私が代わりに運ぼう」

「え?そんな悪いわよぉ。行き先もあるのでしょう?」
「このくらい問題ない。さ、どこに運べばいい?」
「そう?それなら今は甘えちゃおうかしらね。店までお願いできる?」

あなたもありがとうね。

お礼にと、オリャンの実を一つ受け取った俺は、ぼんやり二人を見送った。

(あなた見られてますよって言ってみたい)

いや、言ったら怒られるな。

(バレないように、そっと伝えたい)

やらないけど、やらないけど。

『シルバーブロンド』の本性が気になって仕方なかった。

2/14/2025, 9:17:48 AM