24

Open App
2/3/2025, 8:52:32 AM

▶94.「隠された手紙」
▶93.「バイバイ」※加筆修正済みです。
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜人形たちの知らない物語〜


____がサボウム国からの仲間と別れてから、10日ほど経った。

「では、今日から私は室長ではなく局長だ。皆も、そう呼んでくれ。多少メンバーが分かれただけで変わり映えしないから、名前だけでも変えないとな」

あちこちから笑いがこぼれる。
ここは、対フランタ技術局。
戦いの中で奪取あるいは鹵獲した兵器はイレフスト国内で解析されていたが、
仕組みは分かっても特に回路に関しては同様の品質を再現出来ずにいた。
その原因に気候の違いがあると考えて山をくり抜き作られたのが、この技術局であった。

イレフスト国とフランタ国の境は山岳地帯となっており、イレフスト国は積雪が多く湿度が高いのに対し、フランタ国は山に遮られ、適度に乾燥しているのだ。
特に吹き下ろしの風が吹く山中や麓に軍事施設があることが調査で分かっている。

その恩恵に、こっそりあずかろうというわけだ。

「外には出られるが、ここは既に敵地であると心得よ」
「はっ」
異口同音に返事の声が聞こえた。
「お、やる気は十分なようだな。よろしく頼むよ、では解散」

ひとまず私室で荷物の整理をしようと、ぞろぞろ引き上げていく。
「____、顔色悪いな。大丈夫か?」
「あ、ああ…緊張して眠れなかったんだ、大丈夫だよ」
「はは、無理もないな。しばらく休めばいい」
「そうさせてもらうよ、ありがとう」

長い共同生活を強いられる技術局では、プライベートを確保するために1人1つずつ私室が与えられている。狭い部屋ではあるが、____にとっては貴重な空間であった。

「緊張、ね…我ながらスラスラと嘘がつけるものだ」

あながち嘘ではない。でも本当ではない。
こっそり『ワルツ』に細工をしていたのだ。
しかも、要ともいえる共鳴石に。
複数の術具や機械を対として認識させるのに必要なのが共鳴石だ。
今回の『ワルツ』は3国の王を一箇所に集めるのに共鳴石の波長を利用している。

チャンスは1度きりで失敗は許されない。
結果が出るのは、来年の冬。
なぜ1年も猶予を置いたのか、あの粘着質な王のことだ。
自分にも相手にも揺さぶりをかけて愉しみたいんだろう。


「もう置いてきたんだ。忘れよう…」
少し、少しの間だけ。そう自分に言い聞かせて、浅い眠りについた。


この最先端ともいえる施設には、王宮からひっきりなしに注文が入った。
____はもちろん局長も、それに応えるために必死であった。


技術開発競走は、いたちごっこも同然だった。出し抜いたと思っても、すぐに追いつかれ、またそれ以上の結果を見せつけてくる。
____たちは、次第に疲弊していった。
瞬く間に一年が過ぎていった。

(この冬で終わる、やっと)

長く続いている戦乱は、年の終わりに差し掛かると休戦して、それぞれの軍は引き上げていく。それぞれの根城に引っ込んだ、そのタイミングを狙って『ワルツ』は発動するのだ。どんな結果であれ、終わる。そのことを望みにかけて____は日々をなんとかこなしていた。


ところがある日、雰囲気の暗くなっていた局内がにわかに活気づいた。しかし、理由を誰も教えてくれない。
(どういうことだ?まさか『ワルツ』の存在が明るみに出たのか)
何日も続くそれに、不安に駆られ、どうしようもなくなった____は、こっそり局長たちの隠し事を暴くことにした。
そこにあったのは…。

「これは、私に…?」
作られていた小さなメカ。そして隠された手紙。

「まさか、誕生日とはな」
覚えられているとは思っていなかった。____は気恥ずかしさから、腹いせにメカへ小さな細工を施した。

「これで良し。みんな、どんな反応をするだろうな」
メカの他国流出を防ぐために付けられた制限、年1回のオリャンの摂取。
その名前を____の故郷の発音に置き換えたのだ。

また会えたら。こっそり隠された手紙に気づいて貰えたら。
その時は、真っ正直に全てを打ち明けよう。

「もし受け入れてもらえたら、故郷の人形づくりを教えたいな」
あの人たちなら、きっと喜んでもらえる。

メカと手紙を元通りに戻し、____は部屋に戻った。

2/2/2025, 9:44:00 AM

▶93.「バイバイ」
92.「旅の途中」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜人形たちの知らない物語〜

____が王宮の仕事に就いて幾日も過ぎたある日。

技術開発課F16室に辞令が下った。
それは新しい技術局の立ち上げ。
フランタ国にギリギリ入った所にガワだけ完成したらしい。
今後はメンバーを立ち上げ組と居残り組とに分けて仕事にあたるそうだ。

「長く国から離れることになるが、ついてきてくれるか?もちろん、ここに残っても構わない」

____は、少し考えさせて欲しいと答えた。
そしてサボウム国の仲間、密入国の際荷馬車で引き入れてくれたニーシャとすり変わって先行潜入していたセナに相談しに行ったのだが。


「実は俺たちな、『身支度』の期間がもうすぐ終わるんだ。さすがに素顔で王側のやつに見つかるのはやべーからな。ここでバイバイだ」
「そうなのか?私と同時期に受けたのではないのか」
「時期はな。施術を受ける時間がなかったから簡易版なんだ」
「そうだったのか…」

「俺たちのことよりさ。新参なのに、もうそんなに信頼されているんだな。せっかくの機会じゃないか、行ってこいよ」
「ただ、あんまり入れ込むなよ?あとで辛くなるぞ。お前の『身支度』も、いずれ剥がれるんだからな」
「ああ、そうだな。ありがとう、お前らも無事でな」

「じゃ、俺呼ばれてるから」
「セナ、どこに?」
「前にレプリカ渡した反抗グループだよ」



「これ、やっぱり返す」

呼び出してきたリーダーの手にあったのは、『ワルツ』のレプリカ。
「他人からもらった力でカタつけるのって、何か違う気がして。それでも力が必要な時はあると思うけどさ。でも今は、おれたちはおれたちなりのやり方でがんばるよ」
「そうか、そんじゃこれはバイバイだな」

セナは内ポケットから工具を取り出して、受け取ったレプリカを無理やり開ける。
開封通知が脳内に響くが無視した。

「え?あ、おい!そんなことして…空?」
リーダーが慌てているのをいいことに素早くヘッドロックをかけて引き寄せる。
「いいか、よく聞け」

ーこれは、俺からのリークだ。
○○月○○日に王宮で変事が起こる。その日は絶対近寄るな。

「え?」

雑に解放したせいでよろめくのが視界に入るが、構わず背を向ける。
「死にたくなきゃ覚えとけ。いいな」
「あ、ちょっと」

「じゃあな」

拠点を後にして、歩き出す。
国が違っても路地裏の雰囲気が薄暗いのは変わらない。


「セナ、終わったか」
「来てたのか、ニーシャ。ああ、この通りな」
チラッと『ワルツ』のレプリカの残骸を見せる。
「優しいな」
「ニーシャほどじゃないさ。さて、サボウムまで戻るか」
「おう」



コトン。
王宮に戻ってきた____は、
日陰の倉庫と呼ばれるガラクタ置き場に『ワルツ』のレプリカをそっと隠し置いた。これはレプリカと言ってもセナの持っていたような空っぽではなく、王の作った機構を完全に再現した、いわば贋作である。

サボウム国とイレフスト国、さらにフランタ国の3国で発動すれば、
それぞれの根城にいる王たちは、思考を失って猛る獣と化しお互い潰し合うだろう。
城にいる人たちも巻き添えにして。

(本当にそれでいいのか?)
ぐるぐると思考が回る。

何か、手はないのだろうか。
目標を達成できても更なる悲しみを生むような、
ひどい物語とバイバイできるような、
救いの手が。

2/1/2025, 9:23:14 AM

▶92.「旅の途中」
以下、更新しました。
▶91.「まだ知らない君」
▶90.「日陰」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「入国目的は?」
「色々見て回りたい。観光だ」
「イレフスト国は初めてか?サボウム国の前はどこにいた?」
「ああ、初めてだ。前はフランタ国にいた」
「収入源は何だ」
「手紙の配達と、薬草採取をしている」

ここは、サボウム国とイレフスト国の国境地帯。
人形は入国審査を受けているのだが、質問は細かく、じろじろ見られている。
ナナホシは荷物の中に隠れている。

「典型的すぎるほど典型的な旅人だな。ようこそ、イレフスト国へ」

ぞろぞろと道行く人間たちについて行けば、最初の街が見えてきた。

イレフスト国には、今までの2国、特にサボウム国とは対称的な、
戦乱前の街並みが数多く残っている。
使われていない設備も多いものの、姿かたちはそのままに、国民と共存している。

「これがナナホシを創った人間の国か」
「機械、タクサン」
「稼働はしていないようだがな。音がしない」

国境警備は厳しかったが、街の出入りは制限がなかった。
広く開かれた街を歩いていく。

「まずは市場の果物屋だな」
「みかん、みかん」
「なぜ聞き取れないのだろうな」

名前が分からなくとも柑橘であることには間違いない。
『みかん』を探す旅の途中である人形たちは市場をくまなく探した。

「ないな…」
しばらく考えた人形は、ふと閃いた。
「日持ちしないか、季節違いかもしれない。保存食を見てみよう」

しかし、目的のものは見つからなかった。

「特定の地域にしかないものなのか?ナナホシ、何か情報はないか」
「ナイ」
「そうか…」

今はイレフスト国のほぼ南端にいるため、それほど寒さも厳しくはない。
だが、北上すればするほど人形たちにとって活動は困難になる。

流し歩いていると、洗濯屋が見えてきた。

「あの洗濯屋、店内に柑橘が置かれている」
「本当ダ。籠ニ山盛リ」
「聞いてみよう」

「ああ、これ?オリャンだよ。知らないの?」
「オリャンというのか。私は、今日はじめてイレフスト国に来たんだ。今まで見たことがなかった」
「ええー、これ他の国にないの?これねナトミ村で作られてるんだけど、石鹸と一緒に使うと汚れが落ちやすいんだよ。いい匂いもうつるし」
「食べたりは?」
「しないしない!すっごいすっぱいんだから!」
「そのナトミ村というのはどこに?」
「この国の南東に位置していて、ここからだとほぼ東にまっすぐ行ったところにある村だよ。村っていうか、もう街だけどね。オリャンの木がいっぱいあるからすぐ分かるんだ」
「そうか。教えてくれてありがとう」

チリンチリン、と鐘を鳴らして人形たちは店を出た。

「一気に近づいたな」
「ビックリ?」
「驚く…そうかもしれないな。今ならまだ出発してもおかしくない時間だ。ナトミ村に向かおう」


一方、同国の対フランタ技術局にて

「やれやれ、やっと明るくなったわい」
「この数日間でかなり夜目が鍛えられた気がします」

『瞳』が開いて数日。まだ軍の応援は来ないが、動力は必要分取り込めたらしい、勝手に明かりがついた。

「む、何かあるぞ」
壁から離れていたため気づけなかった小さな柱状の機械。
手型があり、『愛を注いで』と書かれている。

「とりあえず試してみるかの」
手を置いてみると、

『すでに受け取り済みです』
という音声が流れた。下でパカッと扉が開いたが、確かに中は空だ。

「なんじゃこれは」
「空ですね」

どっこいしょ、と覗き込んだ姿勢を戻した時、
前にある大型機器から光線が出てきた。

「うわっ!」
後ろで驚く部下の声がした。
光線はやがて、像を結び男の姿になった。

「はっはっはっ、再び愛を注いでくれてありがとう。まだ居たのかね。プレゼントは喜んでくれたかい?
もしかして説明をもう一度聞きたかったか?それは君が自分で試し探していくことだ。ここを本当に廃棄するつもりなら開始ボタンを長押しだ、忘れないように。君はまだ若く健康で、人生という名の旅の途中だ。幸多からんことを」

「なんじゃこれは」
呆気に取られたわしは、もう一度同じことを呟いた。


「課長〜!!無事ですか〜!?」
「恨むとか言ってすみませんでしたー!!」
遠く小さく、戻ってきた部下の声が聞こえた。

1/31/2025, 9:21:51 AM

▶91.「まだ知らない君」
90.「日陰」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
サボウム国の新首都を出発して北上し、
イレフスト国に近づいてきた人形たち。
街道を通って国境付近まで行った場合、人形たちにとって都合の悪いことがあっても、そこから外れるのも不審がられるため、動きが取れなくなる。
そのため夜のうちに身を隠しておき、遠くから様子を見ることにした。

「ここは2国よりも国境警備が厳重に管理されているな」
街道には関所があり、入国したい人たちが行列を作っている。
サボウム国は観光事業をしているため解放的であったし、
フランタ国は牧歌的なところがあるせいか、のんびりとしたものだった。

「ただ、フランタ国については、今回そもそも国境付近に寄らなかった。だから情報としては古いかもしれないが」
「ドウスル?」

さすがに国境すべてが警備されているわけではないから、人形たちが通り抜けることはできる。
ただ行列を作り待ってでも正規の入国をするのには、何らかの理由があるかもしれない。
「出てきた人間に話を聞いてみるか」

「入国待ちの行列?あれは、ごく最近できるようになったんだよ」
荷車をゴロゴロ引いている老女に話しかけると、すぐに話に乗ってきた。
後ろから押しつつ、さらに話を聞いていく。

「兵隊たちがね、急に真面目になったのよ。わたしゃ国を往復して商売してるんだけどね、こんなこと初めてだよ。体も引き締まってるようだし、ありゃ娘っ子にモテるよォ。わたしが知ってるのはこんなもんだね。もうここまででいいよ、ありがとさん」
ヒィッヒッヒッと笑いながら、老女はゴロゴロ去っていった。

「ふむ。真面目、か」
「決マッタ?」
「ああ、正面から行こう。まだ知らない君の柑橘を探すのに不都合が出ては困る」


一方、イレフスト国軍の執務室にて

「将軍、国境警備の強化は順調ですが、入国希望者に対する隊員の審査が長くなり、苦情が出始めています」

「ふむ、最初のうちは仕方あるまい。さじ加減は経験で覚えていくものだ。だが、そうだな…我が国への印象が悪くなっては困るな。隊員に温かい汁物を配らせて交流を図らせろ」
「かしこまりました」

「まだ知らない君の正体は、オレの軍が暴いてみせる」

1/30/2025, 9:14:48 AM

▶90.「日陰」
89.「帽子かぶって」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
~人形たちの知らない物語~

____が配属されたF16室は、もう1つの敵国フランタ国の技術の研究と解析を行っている場所だった。

「ここではフランタ国にある自律思考回路を専門にやっている。私は室長のドッジだ。よろしく」
「____です。お世話になります」
「早速だが、君の腕を見たい。それから詳しく説明しよう」

イレフスト国の技術研究者たちには、切迫感や悲壮感のような雰囲気がない。市井に住む国民は税金によって家計を苦しめられているのだが、こちらはのびのびとやっているようだ。
そんな現状を無視すれば、サボウム国の仲間たちが夢見ていたような空間が、そこにはあった。

(同じ戦いの最中にあっても、国によって違うんだな)

____は、指示された作業に集中を向けた。


そんなふうに仕事に打ち込みながら、____は職場に、ひいては王宮の構造に慣れるためと称して何日かに分けて王宮内を巡り歩いた。王の私室など立ち入り禁止の部分はあれど、それでも問題なく入れる範囲は広い。その中で____は早くも『ワルツ』の隠し場所に最適な場所を見つけた。
それは、通称『日陰の倉庫』と技術者や研究者の間で呼ばれている、使われなくなった実験道具や試作品などをしまっている倉庫だ。
イレフスト国では技術転用が多く、もう使わないと決めてもしばらくの間は保管していることが多い。そのようなものを入れておく場所だ。大抵は、二度と使われず忘れ去られてしまう。ゴチャゴチャした空間では、小さな機械ひとつ紛れていても変化には気づけないだろう。



「フランタ国は、思考回路の精密さも素晴らしいが、すごいのはコレだ」
奥の部屋に案内され、見たものは大きなレンズのようなものだった。
透明な球体にも近いが、中に黒い球体が入っていて巨大な目にも見える。

「この瞳のようなものは、日光を動力として取り込むことができる。それと同時にわれわれの目と同じように視覚の機能も有しているのだ」

うまく繋げば屋内にいながら、外の様子を見られるだろうな。

ワクワクした様子で室長は続けて、そう話している。
「だが、私はこう考えている。日光は明るいだけじゃない。何か分かるか?」
「なんでしょう…あたたかさですかね」
「その通りだ。この熱も動力に変えられたら、より良い効率性能を生み出せるのではないかと考えているんだ。どうだね?君、やってみないかね」

____は一瞬のような短い時間を悩んだ。
こんな場所を取り戻したいと願う仲間たちが日陰の存在となっているのに、と。

「はい、やってみたいです」
だが、ここにいるのは自分だけだ。
一種の諦めのようなものを抱えて、____は返事をした。

Next