24

Open App

▶93.「バイバイ」
92.「旅の途中」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜人形たちの知らない物語〜

____が王宮の仕事に就いて幾日も過ぎたある日。

技術開発課F16室に辞令が下った。
それは新しい技術局の立ち上げ。
フランタ国にギリギリ入った所にガワだけ完成したらしい。
今後はメンバーを立ち上げ組と居残り組とに分けて仕事にあたるそうだ。

「長く国から離れることになるが、ついてきてくれるか?もちろん、ここに残っても構わない」

____は、少し考えさせて欲しいと答えた。
そしてサボウム国の仲間、密入国の際荷馬車で引き入れてくれたニーシャとすり変わって先行潜入していたセナに相談しに行ったのだが。


「実は俺たちな、『身支度』の期間がもうすぐ終わるんだ。さすがに素顔で王側のやつに見つかるのはやべーからな。ここでバイバイだ」
「そうなのか?私と同時期に受けたのではないのか」
「時期はな。施術を受ける時間がなかったから簡易版なんだ」
「そうだったのか…」

「俺たちのことよりさ。新参なのに、もうそんなに信頼されているんだな。せっかくの機会じゃないか、行ってこいよ」
「ただ、あんまり入れ込むなよ?あとで辛くなるぞ。お前の『身支度』も、いずれ剥がれるんだからな」
「ああ、そうだな。ありがとう、お前らも無事でな」

「じゃ、俺呼ばれてるから」
「セナ、どこに?」
「前にレプリカ渡した反抗グループだよ」



「これ、やっぱり返す」

呼び出してきたリーダーの手にあったのは、『ワルツ』のレプリカ。
「他人からもらった力でカタつけるのって、何か違う気がして。それでも力が必要な時はあると思うけどさ。でも今は、おれたちはおれたちなりのやり方でがんばるよ」
「そうか、そんじゃこれはバイバイだな」

セナは内ポケットから工具を取り出して、受け取ったレプリカを無理やり開ける。
開封通知が脳内に響くが無視した。

「え?あ、おい!そんなことして…空?」
リーダーが慌てているのをいいことに素早くヘッドロックをかけて引き寄せる。
「いいか、よく聞け」

ーこれは、俺からのリークだ。
○○月○○日に王宮で変事が起こる。その日は絶対近寄るな。

「え?」

雑に解放したせいでよろめくのが視界に入るが、構わず背を向ける。
「死にたくなきゃ覚えとけ。いいな」
「あ、ちょっと」

「じゃあな」

拠点を後にして、歩き出す。
国が違っても路地裏の雰囲気が薄暗いのは変わらない。


「セナ、終わったか」
「来てたのか、ニーシャ。ああ、この通りな」
チラッと『ワルツ』のレプリカの残骸を見せる。
「優しいな」
「ニーシャほどじゃないさ。さて、サボウムまで戻るか」
「おう」



コトン。
王宮に戻ってきた____は、
日陰の倉庫と呼ばれるガラクタ置き場に『ワルツ』のレプリカをそっと隠し置いた。これはレプリカと言ってもセナの持っていたような空っぽではなく、王の作った機構を完全に再現した、いわば贋作である。

サボウム国とイレフスト国、さらにフランタ国の3国で発動すれば、
それぞれの根城にいる王たちは、思考を失って猛る獣と化しお互い潰し合うだろう。
城にいる人たちも巻き添えにして。

(本当にそれでいいのか?)
ぐるぐると思考が回る。

何か、手はないのだろうか。
目標を達成できても更なる悲しみを生むような、
ひどい物語とバイバイできるような、
救いの手が。

2/2/2025, 9:44:00 AM