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▶94.「隠された手紙」
▶93.「バイバイ」※加筆修正済みです。
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜


____がサボウム国からの仲間と別れてから、10日ほど経った。

「では、今日から私は室長ではなく局長だ。皆も、そう呼んでくれ。多少メンバーが分かれただけで変わり映えしないから、名前だけでも変えないとな」

あちこちから笑いがこぼれる。
ここは、対フランタ技術局。
戦いの中で奪取あるいは鹵獲した兵器はイレフスト国内で解析されていたが、
仕組みは分かっても特に回路に関しては同様の品質を再現出来ずにいた。
その原因に気候の違いがあると考えて山をくり抜き作られたのが、この技術局であった。

イレフスト国とフランタ国の境は山岳地帯となっており、イレフスト国は積雪が多く湿度が高いのに対し、フランタ国は山に遮られ、適度に乾燥しているのだ。
特に吹き下ろしの風が吹く山中や麓に軍事施設があることが調査で分かっている。

その恩恵に、こっそりあずかろうというわけだ。

「外には出られるが、ここは既に敵地であると心得よ」
「はっ」
異口同音に返事の声が聞こえた。
「お、やる気は十分なようだな。よろしく頼むよ、では解散」

ひとまず私室で荷物の整理をしようと、ぞろぞろ引き上げていく。
「____、顔色悪いな。大丈夫か?」
「あ、ああ…緊張して眠れなかったんだ、大丈夫だよ」
「はは、無理もないな。しばらく休めばいい」
「そうさせてもらうよ、ありがとう」

長い共同生活を強いられる技術局では、プライベートを確保するために1人1つずつ私室が与えられている。狭い部屋ではあるが、____にとっては貴重な空間であった。

「緊張、ね…我ながらスラスラと嘘がつけるものだ」

あながち嘘ではない。でも本当ではない。
こっそり『ワルツ』に細工をしていたのだ。
しかも、要ともいえる共鳴石に。
複数の術具や機械を対として認識させるのに必要なのが共鳴石だ。
今回の『ワルツ』は3国の王を一箇所に集めるのに共鳴石の波長を利用している。

チャンスは1度きりで失敗は許されない。
結果が出るのは、来年の冬。
なぜ1年も猶予を置いたのか、あの粘着質な王のことだ。
自分にも相手にも揺さぶりをかけて愉しみたいんだろう。


「もう置いてきたんだ。忘れよう…」
少し、少しの間だけ。そう自分に言い聞かせて、浅い眠りについた。


この最先端ともいえる施設には、王宮からひっきりなしに注文が入った。
____はもちろん局長も、それに応えるために必死であった。


技術開発競走は、いたちごっこも同然だった。出し抜いたと思っても、すぐに追いつかれ、またそれ以上の結果を見せつけてくる。
____たちは、次第に疲弊していった。
瞬く間に一年が過ぎていった。

(この冬で終わる、やっと)

長く続いている戦乱は、年の終わりに差し掛かると休戦して、それぞれの軍は引き上げていく。それぞれの根城に引っ込んだ、そのタイミングを狙って『ワルツ』は発動するのだ。どんな結果であれ、終わる。そのことを望みにかけて____は日々をなんとかこなしていた。


ところがある日、雰囲気の暗くなっていた局内がにわかに活気づいた。しかし、理由を誰も教えてくれない。
(どういうことだ?まさか『ワルツ』の存在が明るみに出たのか)
何日も続くそれに、不安に駆られ、どうしようもなくなった____は、こっそり局長たちの隠し事を暴くことにした。
そこにあったのは…。

「これは、私に…?」
作られていた小さなメカ。そして隠された手紙。

「まさか、誕生日とはな」
覚えられているとは思っていなかった。____は気恥ずかしさから、腹いせにメカへ小さな細工を施した。

「これで良し。みんな、どんな反応をするだろうな」
メカの他国流出を防ぐために付けられた制限、年1回のオリャンの摂取。
その名前を____の故郷の発音に置き換えたのだ。

また会えたら。こっそり隠された手紙に気づいて貰えたら。
その時は、真っ正直に全てを打ち明けよう。

「もし受け入れてもらえたら、故郷の人形づくりを教えたいな」
あの人たちなら、きっと喜んでもらえる。

メカと手紙を元通りに戻し、____は部屋に戻った。

2/3/2025, 8:52:32 AM