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▶90.「日陰」
89.「帽子かぶって」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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~人形たちの知らない物語~

____が配属されたF16室は、もう1つの敵国フランタ国の技術の研究と解析を行っている場所だった。

「ここではフランタ国にある自律思考回路を専門にやっている。私は室長のドッジだ。よろしく」
「____です。お世話になります」
「早速だが、君の腕を見たい。それから詳しく説明しよう」

イレフスト国の技術研究者たちには、切迫感や悲壮感のような雰囲気がない。市井に住む国民は税金によって家計を苦しめられているのだが、こちらはのびのびとやっているようだ。
そんな現状を無視すれば、サボウム国の仲間たちが夢見ていたような空間が、そこにはあった。

(同じ戦いの最中にあっても、国によって違うんだな)

____は、指示された作業に集中を向けた。


そんなふうに仕事に打ち込みながら、____は職場に、ひいては王宮の構造に慣れるためと称して何日かに分けて王宮内を巡り歩いた。王の私室など立ち入り禁止の部分はあれど、それでも問題なく入れる範囲は広い。その中で____は早くも『ワルツ』の隠し場所に最適な場所を見つけた。
それは、通称『日陰の倉庫』と技術者や研究者の間で呼ばれている、使われなくなった実験道具や試作品などをしまっている倉庫だ。
イレフスト国では技術転用が多く、もう使わないと決めてもしばらくの間は保管していることが多い。そのようなものを入れておく場所だ。大抵は、二度と使われず忘れ去られてしまう。ゴチャゴチャした空間では、小さな機械ひとつ紛れていても変化には気づけないだろう。



「フランタ国は、思考回路の精密さも素晴らしいが、すごいのはコレだ」
奥の部屋に案内され、見たものは大きなレンズのようなものだった。
透明な球体にも近いが、中に黒い球体が入っていて巨大な目にも見える。

「この瞳のようなものは、日光を動力として取り込むことができる。それと同時にわれわれの目と同じように視覚の機能も有しているのだ」

うまく繋げば屋内にいながら、外の様子を見られるだろうな。

ワクワクした様子で室長は続けて、そう話している。
「だが、私はこう考えている。日光は明るいだけじゃない。何か分かるか?」
「なんでしょう…あたたかさですかね」
「その通りだ。この熱も動力に変えられたら、より良い効率性能を生み出せるのではないかと考えているんだ。どうだね?君、やってみないかね」

____は一瞬のような短い時間を悩んだ。
こんな場所を取り戻したいと願う仲間たちが日陰の存在となっているのに、と。

「はい、やってみたいです」
だが、ここにいるのは自分だけだ。
一種の諦めのようなものを抱えて、____は返事をした。

1/30/2025, 9:14:48 AM