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1/9/2025, 4:52:13 AM

▶69.「Ring Ring ...」
68.「追い風」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
少し時を遡って。
深夜のイレフスト国内、王宮にて


「いくら戦乱を生き残った機械って言ったって、使う人間がいなきゃなぁ」
「まぁそう言うなよ。おかげで楽して給料が貰えるんだからさ」

「そりゃ違いない」

笑い合う当直たち。
寝ずの番は辛いが、その分給料はいい。
異変あれば報告、それだけの仕事だ。

整備点検をするでもなく、ただ物言わぬ機械たちを見て回るだけ。

今夜も、その通りになるはずだった。


Ring Ring ...


「どうした?急に静かになっちまって」

相方が、『静かに』というジェスチャーをしつつ答える。
「何か聞こえないか?」


Ring Ring ...


二人同時に音の聞こえる方へ駆け出した。

「はぁ、ここだ、F16号室か」
「開けるぞ」
「ああ」

部屋の中では
普段は沈黙を保っている機械が、

Ring Ring ...

寝静まった深夜を切り裂くように
けたたましく音を鳴らして
ここだと言うように、
1箇所、赤く点滅させている。

Ring Ring ...

「ほ、報告だー!!」
「お、お前頼む!足速いだろ!」
「よし行ってくる!」

主張するように鳴り響く音は、しばらくして止まったが、
赤い点滅は数日続いた。

1/8/2025, 5:49:33 AM

▶68.「追い風」
67.「君と一緒に」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
それは、‪✕‬‪✕‬‪✕‬が、自身の頭の上に乗っていたナナホシに、
風が強くなってきたから下りろと声をかけようとした、
その時に起こった。

「アッ」

追い風が襲いかかり、ナナホシを攫っていく。
人形もできる限り手を伸ばしたが、あと少し届かずに遠のいていく。

山も低くまばらになり、そろそろサボウム国の国境付近に差し掛かろうかという頃であった。山の間を吹き抜ける風が、強く吹いたのであった。

「アァーレェー」
ナナホシの悲鳴のような声も間延びして聞こえる。
「羽を広げて風に乗るんだ!ナナホシ!」

ウワーン…

と、肯定のような泣き言のような声が聞こえたのを最後に、
人形は、ナナホシを見失った。

「どこまで飛ばされたか。それが問題だが、ナナホシは自律思考型メカだ。当然こういった主人と…私は主人ではないが、はぐれる事態も想定されているはずだ。つまり私は闇雲に探すよりも、そのまま歩いていけばいい」

繰り返し名を呼びながら、人形は歩いていく。

しばらくして、自身の動力の残量が普段より少ないことに気づいた。

(なぜだ?)

疑問に思い、一度立ち止まろうとした所で原因に気がついた。

(早く歩き過ぎたのだ、落ち着かなくては…落ち着く?私は焦っているのか?)

今は自問自答している場合ではない、と普段通りの歩くスピードに戻し、
再び、ナナホシの名を呼ぶ。

そんなことを数度繰り返したところで、小さい声が聞こえてきた。

「助ケテー、✕‬‪✕‬‪✕‬、助ケテー」
「ナナホシ!」

人形が急いで声の方へ駆け寄れば、そこには茂みになっている低木があった。
掻き分けると、枝に挟まって動けずに足をバタバタさせているナナホシを見つけた。片手で枝を広げながら、もう片方の手で転げたナナホシを受け止める。

「見つかって良かった」
「スゴク、飛ンダヨ…‪✕‬‪✕‬‪✕‬、来ルノ早カッタネ」
「心配した、のかもしれない」
「僕ヲ?…ソッカ、アリガトウ」
「ああ。では行くか」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、ナナホシを手に乗せたまま歩き出した。
ナナホシも、何も言わなかった。

1/7/2025, 7:02:29 AM

▶67.「君と一緒に」
66.「冬晴れ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

それは人形たちの知らない物語


とある部屋の中。
豪奢な椅子に座る男が、
その前に跪いている男に向かって話し始めた。


「さて、____よ。私はねぇ、君と一緒にワルツを踊りたくなったんだよ。誘いを受けてくれるかね?」

「はい」

「従順なのは良い事だなぁ。イレフストとフランタにも参加してもらうつもりだ。ま、最後まで立っているのは私だがね。君は」


この仕事が最後だ。

言われた____は、体も心も固くして反応を見せないようにした。

「従順すぎるのもつまらんのぅ。まぁよい、出発は半月後。この国には戻らぬつもりで一切を処理せよ。支度の者が迎えに来る。そのまま待っておれ」

椅子に座っていた男は、やがて去っていった。
残された方は、迎えのものに腕を取られるまで跪いていた。

1/6/2025, 7:51:20 AM

▶66.「冬晴れ」
65.「幸せとは」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
人形とナナホシは、あれからも何度か似たような問答を、
思考学習のようなものを繰り返しながら南へ、南へと向かっていた。

人と会うことを目的にしなければ、
疲れることを知らない人形たちの移動速度はぐんと上がる。


何日か経った冬晴れの朝。

人形が日光浴をしていると、大きな鳥が飛んで行くのが見えた。

人間たちは、鳥が空を自由に飛んでいると考えたり、
自由の象徴のように扱ったりしている。

風に乗っているのだろう、
山をも超えるような高さで翼を広げたまま進んでいく。

実際は、数々の制限を乗り越えて飛行を実現している。
骨を変え消化機能すら落として身体を軽くし、
羽ばたきに必要な筋肉を付け、
その矛盾を解消するために高いエネルギーを欲する。

かつて人形は、自分と鳥が似ていると思ったことがある。

だが今は、小さくなっていく鳥の姿を見ながら、
花街の子猫を思い出していた。

自由に希望を持つ人間。

「あれは、春を待っているだろうな」
「ドウシタノ?」
「いや、何でもない。待たせたな、出発しよう」

1/5/2025, 9:57:41 AM

▶65.「幸せとは」
64.「日の出」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

‪✕‬‪✕‬‪✕‬とナナホシは翌日のサボウム国への出発に備え、
自身のメンテナンスをしながら、太陽の位置変化を見たり、
とるべき進路について話したりしている。

「旅の中で、イレフスト国とフランタ国、それとサボウム国の位置関係は、
両目と口になぞらえて説明される事が多い」

人形は背負い袋の中を整理しながら、ナナホシは知ってるかもしれないがと前置きしつつ、話し始めた。

「イレフスト国が左目でフランタ国が右目、間には鼻のように山岳地帯が続く。
それらの南、顔で言えば口にあたる位置に、サボウム国が小さく弧を描くように存在している」

「ウン。僕ノ知ッテル通リダ」

ナナホシは脚を器用に動かして体のあちこちを触っている。
時々ぐいぐい引っぱっている。
ナナホシは元々主人となる一人の人間の寿命だけ活動する前提で設計されている。また創作者も異なり、人形と違って自己修復機能は備わっていない。


「戦乱以前は3国の首都はお互い近いところにあり、交流も活発だったらしいが、
現在はそれぞれから離れるように遷移され、国レベルの交流は途絶えているようだ。…どこか引っかかるのか?」

「問題ナイ」
「そうか」

夜は星の位置を確認しながら動力確保に努め、
翌日予定通りに出発した。

まずは下山し、その後は南へ向かって山沿いに進み、
サボウム国の中央に出る予定である。


人形はナナホシを定位置のひとつである肩に乗せて、進んでいく。
無言の時間が続いたあと、ナナホシが話しかけてきた。

「ネェ、何カ話ソウ」
「何か、というからには、この旅路以外のことなんだろうな」
「ソウ」
「では、人間の自由について、でいいか」
「イイヨ」

「私は、フランタ国のみではあるが、色々な人間を見てきた。過ごしてきた時間も一人ひとり違ければ、好むものも違った。だから人間にとっての自由が何であるか、私には分からないんだ。ナナホシは分かるか?」

「幸セ」
「幸せ……幸せとは何だ?」

「オキシトシン、ドーパミン、他ニモ色々。人間ノ体内デ作ラレル成分」
「そうか…それは私には無いものだな。ナナホシはあるのか?」

「僕ハ、人間ノ友トシテ作ラレタ。
世話ガ楽シクナルヨウニ、擬似的ナ機能ガ付イテル」

「確かにプレゼントだったものな。どういう時に幸せを感じる?」
「アッタカイ時」

「なるほど…結局、人間全体で考えるのは無理があるのだろうな。一人ひとりの違いが大きすぎる」
「博士ハ?」
「博士にとっての自由、幸せとは…か」

人形は、目覚めてからの一年半程度の博士と過した日々を、
特に博士の表情や声音について、思考領域の一部で検索していく。

「分からないな。嘘は言っていないのだと思う。ただ他の人間と比べて、思慕や望みといったものがひどく読み取りづらい」

「博士ハ、不思議ナ人ダネ」
「そうだな」

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