▶65.「幸せとは」
64.「日の出」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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✕✕✕とナナホシは翌日のサボウム国への出発に備え、
自身のメンテナンスをしながら、太陽の位置変化を見たり、
とるべき進路について話したりしている。
「旅の中で、イレフスト国とフランタ国、それとサボウム国の位置関係は、
両目と口になぞらえて説明される事が多い」
人形は背負い袋の中を整理しながら、ナナホシは知ってるかもしれないがと前置きしつつ、話し始めた。
「イレフスト国が左目でフランタ国が右目、間には鼻のように山岳地帯が続く。
それらの南、顔で言えば口にあたる位置に、サボウム国が小さく弧を描くように存在している」
「ウン。僕ノ知ッテル通リダ」
ナナホシは脚を器用に動かして体のあちこちを触っている。
時々ぐいぐい引っぱっている。
ナナホシは元々主人となる一人の人間の寿命だけ活動する前提で設計されている。また創作者も異なり、人形と違って自己修復機能は備わっていない。
「戦乱以前は3国の首都はお互い近いところにあり、交流も活発だったらしいが、
現在はそれぞれから離れるように遷移され、国レベルの交流は途絶えているようだ。…どこか引っかかるのか?」
「問題ナイ」
「そうか」
夜は星の位置を確認しながら動力確保に努め、
翌日予定通りに出発した。
まずは下山し、その後は南へ向かって山沿いに進み、
サボウム国の中央に出る予定である。
人形はナナホシを定位置のひとつである肩に乗せて、進んでいく。
無言の時間が続いたあと、ナナホシが話しかけてきた。
「ネェ、何カ話ソウ」
「何か、というからには、この旅路以外のことなんだろうな」
「ソウ」
「では、人間の自由について、でいいか」
「イイヨ」
「私は、フランタ国のみではあるが、色々な人間を見てきた。過ごしてきた時間も一人ひとり違ければ、好むものも違った。だから人間にとっての自由が何であるか、私には分からないんだ。ナナホシは分かるか?」
「幸セ」
「幸せ……幸せとは何だ?」
「オキシトシン、ドーパミン、他ニモ色々。人間ノ体内デ作ラレル成分」
「そうか…それは私には無いものだな。ナナホシはあるのか?」
「僕ハ、人間ノ友トシテ作ラレタ。
世話ガ楽シクナルヨウニ、擬似的ナ機能ガ付イテル」
「確かにプレゼントだったものな。どういう時に幸せを感じる?」
「アッタカイ時」
「なるほど…結局、人間全体で考えるのは無理があるのだろうな。一人ひとりの違いが大きすぎる」
「博士ハ?」
「博士にとっての自由、幸せとは…か」
人形は、目覚めてからの一年半程度の博士と過した日々を、
特に博士の表情や声音について、思考領域の一部で検索していく。
「分からないな。嘘は言っていないのだと思う。ただ他の人間と比べて、思慕や望みといったものがひどく読み取りづらい」
「博士ハ、不思議ナ人ダネ」
「そうだな」
1/5/2025, 9:57:41 AM