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12/30/2024, 7:23:02 AM

▶59.「みかん」
58.「冬休み」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「そろそろ石が温まった頃だ」
人形は燃やさずにおいた枝を使って、焚き火の中に入れていた小さな石を取り出した。
人間が持つならば大きいものの方が良いだろうが、
ナナホシには小さいもので十分だ。
それを手ぶくろの中へ転がし入れて、さらに指先の方へ押し込む。

「できたぞ」
「ヤッタ」

簡易湯たんぽ付き寝ぶくろの完成だ。

「どうだ?」
「暖カイ…トテモイイ」
「そうか」
「ア、入口閉メテ」

そそくさと潜り込んだナナホシが専用の寝ぶくろの中から答えた。
人形は、そっと手袋を押さえて窄めた後、
石を取り出す際に動いた枝の調整を始めた。
瞳に炎が映り込み、揺らめく。

「ナナホシの動力になるものは熱だけか?」
「実ハ、モウ1ツ」
「それは何だ」
「みかん」
「なんだと?」
「ダカラ、みかん」
「すまない、うまく聞き取れないようだ」
「イレフスト国ニ自生スル柑橘ノ1種。1年ニ1度ノ摂取ガ必要」
「できないと、どうなるんだ」
「他国ノ人間ニ渡ッタト判断シテ、爆発スル」

パチン、と焚き火から破裂音が響いた。

「それを話してしまったら、誰でも取りに向かうのではないか」
「他国ノ人間ニハ言エナイ、ソウイウ設計。デモ‪✕‬‪✕‬‪✕‬人間ジャナイ。言エル」
「抜け穴か」
「マァネ」
「…私たちには、まだ解き明かされていないことが多いようだな」
「ウン」

12/29/2024, 9:14:09 AM

▶58.「冬休み」
57.「手ぶくろ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「石が増えてきた。もうすぐ見つかるだろう」

「ガンバッテ」
手ぶくろの中から少しくぐもった声がする。
併せて規則的な動きも感じる。

手の温度が上がり、活動しやすくなったようだ。


「あったぞ」
しばらく歩くと、鉱山の入り口が見つかった。
村人の口ぶりから予想はしていたが、
既に閉山して塞がれている。

「先に温石に使えるものを探そう。ナナホシも手伝ってくれ」
「ウン」

日は傾きかけている。
石を温めるには火を起こす必要があるが、
不用意にすると人間に見つかる恐れがある。
また、暗くなってしまっては素材の見極めが難しい。

「アッタ」
「こちらにもあった。複数あった方が良いだろう。火起こしは…少し前に、ほら穴が見えた。そこまで戻る」
「手ブクロ…」
「入っていい。ほら」
人形が手を差し向けると、気が変わらぬ内にとでも言うように、
ナナホシは手袋の中へ、せかせかと入り込んだ。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬がほら穴まで歩き、ナナホシが偵察に入る。
冬眠中の獣でもいるかと思われたが、何もいなかった。
仮にいたとしても、気にもされないが。
生き物らしい匂いがないせいかもしれない。

人形は火を起こし、先ほど拾った石を隅の方に突っ込む。
ナナホシは近くから、その様子をじっと見ていた。

「火の中に入りたいのか?」
「僕?入ッタラ焼ケチャウヨ?」
「そうだな」

少し火の調整をして、やることは終わった。

「ナナホシは、80年前までのデータしかないんだったな」
「ウン。‪逆二✕‬‪✕‬‪✕‬ハ、古イデータヲ持ッテイナイ」
「そうだ。博士の記憶をデータとして持っているが、抜けが大きく資料としては不適格だ。あとは私自身の設計と、旅に必要な知識、目覚めて以降の約37年分の人間学習データだ」

バチン、と焚き火から大きく爆ぜる音がした。
くべた枝が乾ききっていなかったようだ。

「僕ト‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノ、空白期間ハ、40年ヲ超エル」
「そういうことになる。その間に、この国に当時あった先進技術は喪失し、3国による戦乱は終わった。…たった40年にしては技術破壊が徹底的すぎる」

くるりとナナホシが回り、尻を火に向けた。
小さな頭部を傾げ、人形に問う。

「知リタイ?何ガアッタカ」

「分からない。私には感情や欲求が備わっていないから。だが今、この国の歴史を知らなければ、私の探しているものには辿り着かないだろうと考えている」

「ソウ。僕モ手伝ウ」
「ありがとう」

ナナホシが再び火に向き直り、
しばらく無言の時間が続いた。

火にあたっていると、人形の体があたためられていく。
光と熱が動力に変換され満たされていく。

「ここまで長く人間から離れたのは初めてだ」
「僕ハマダ人間ヲ見テナイ」

「そうだな。私を人形と知っている人間もいるが、その人間の周りはそうでは無いから、常に人間らしくする必要があった」
「ソウダネ」

「人間らしさを再現することは、私の平均的な動力取得量からすると、かなりの動力が必要だ」
「ウン」
「それをやめると、動力のやりくりが必要ないほどに節約できることが分かった」

「ソレジャ今、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ハ冬休ミ、ダネ」
「冬休み…そうだな。私の冬休みだ」

12/28/2024, 8:51:40 AM

▶57.「手ぶくろ」
56.「変わらないものはない」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
フランタ国 東の辺境 とある山中にて。

人形の‪✕‬‪✕‬‪✕‬と虫型メカのナナホシは、地面と上空の二手に分かれて昔の鉱山もしくは軍事施設を探していた。
遭難が問題にならないので、ずんずん進んでいたのだが。

「寒イ」
そう言ってナナホシが‪✕‬‪✕‬‪✕‬の所に降りてきた。
人形は手を差しのべて迎えた。
「どうした?」
「僕、動クノニ熱ガ必要」
「ナナホシの動力は光ではなかったのだな。それは確認不足だった」

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬モ冷タイ…」

ナナホシは人形の手の上で丸まってしまった。
普段の人形は人間の体温を再現するために意図的に放熱を起こしているにすぎず、そして周りに人間がいない今は放熱を停止している。
ひとまず両手でナナホシを覆い隠し、手だけ温度を上げながら思案する。
今まで熱供給なしに動いていたのだから、常に温める必要はないはずだ。
少しすると、ナナホシが動き出した。
「暖カイ。モット欲シイ」
「少し待て」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬はナナホシを一旦頭に乗せてから、
背負袋から手ぶくろを出して片手にはめた。
ただし、手首部分を締めるボタンを外したまま。
「応急処置だが、ここに入れ」
「ウン」
ナナホシがそろそろと歩き、手ぶくろと手の隙間に収まった。
潰さぬよう、そっと保持する。
辺境に来る前に新調した手ぶくろが厚手でちょうど良かった。
「鉱山が見つかれば、温石に使えるものもあるだろう」

温めるのを止めたもう片方の手は、あっという間に冷えていった。

12/27/2024, 8:55:18 AM

▶56.「変わらないものはない」
55.「クリスマスの過ごし方」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
資料のアーカイブが終わり、
地下通路も、局長からのメッセージで隣国に繋がっていることが分かった。

再度施設内を捜索したが、
やはり年数が経ちすぎていたために劣化が激しく、
それ以上の収穫はなかった。


そして今。
人形は、大型機器の前に立っていた。
目線は開始ボタンに向けられている。
ナナホシは人形の肩に乗っている。

「押すぞ」
「ウン」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は手をのばし、
しかしボタンに触れる直前で下ろした。

「ドウシタノ?」
「今の私は隣国に行くつもりはないが、この先に何があるか分からない。選択肢は多い方がいい」
「壊サナイノ?」
「ああ。電源を落として、見つからないように穴も塞ごう」
「ソウシヨウ」

人形とナナホシは一旦施設から出た。
「飛べるか?」
「デキル」

指先から羽を広げ空へと飛んでいく。
施設の動力源を探すためだ。

出入りに使っていた穴のある岩の上に、レンズ状の突起物があった。
人形と同じように日光を取り込んでいるとみていいだろう。

岩は側面から登るのは難しく、人間には上から見る手段もない。
人形が投げた布をナナホシが広げ、取り込み装置に被せた。

「僕、フンコロガシ違ウ」
重りとなる石も同じようにして乗せた。
人形には、ナナホシの言う言葉が理解できなかった。
聞こうとしたが、嫌がる素振りを見せたために止めた。

施設に戻って、崩れた家具をひとまとめにしながら
機器の電源が動力切れで落ちるのを待ち、

触っても起動しないことを確認してから施設を出た。
岩の穴には外から大きい石を置いて塞いだ。

「変わらないものはない、と人間はよく言うが」
「ウン」
人形は岩に背を向け、歩き出した。
ナナホシは肩から首を伝って頭の上に移動した。

「それは本当だった。人間と離れるだけの予定だったのだが」
「僕モ、変ワッタ。コレカラ、ドコ行ク?」
ナナホシは触覚の手入れをしながら聞いてきた。

「フランタ国の村人によると、この山に鉱山か武器製造所か残っているようだ。それを探すのはどうだろう」
「探ソウ」

12/26/2024, 5:59:23 AM

▶55.「クリスマスの過ごし方」
54.「イブの夜」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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人形は、研究施設の資料を次々とデータ化して取り込みながら、ナナホシに質問した。

「フランタ国には、クリスマスという文化はないのだが、どういうものだ?」
「クリ・ス・マス。イレフスト国ノ建国記念日。庶民ハ日頃ノ感謝ヲ込メテ贈リ物シ合ウ、ソシテ建国記念ヲ祝ッテ、オイシイモノ食ベル」

ナナホシも崩れた木材に乗って上から取り込んでいる。ただ、資料のページをめくれないので、そこは代わりに人形がやっている。
お互い機械だからこそ出来る無言の連携技だ。

「初代王様ガ側近3人ヲ労ッテ贈リ物シタ。ソレガ始マリ」
「ではクリ・ス・マスの語源は側近達の名前か?」
「違ウ」
「ではなんだ?」
「本当ノ由来、王様ノ好キナモノ。クリスタル・ストロベリー・マス(math:算数)。忙シイ王様ノ休日ダッタ。デモ側近二贈リ物シタ、ソレモ本当。」
「本当の由来、ということは一般には広まっていないんだろう。どうして知っているんだ?」
「局長ガ、研究所ヲ作ルノニ必要ト言ッテ、全テノ資料閲覧許可モギトッタ。ソノ時二取得シタ情報」

「ナナホシは知識のデータが豊富なんだな」
「ウン」
「ここの資料は入ってないのか?」
「入ッテナイ」
「そうか」

それからしばらくの間、紙をめくる音だけが続いた。

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