崩壊するまで設定足し算

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▶58.「冬休み」
57.「手ぶくろ」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「石が増えてきた。もうすぐ見つかるだろう」

「ガンバッテ」
手ぶくろの中から少しくぐもった声がする。
併せて規則的な動きも感じる。

手の温度が上がり、活動しやすくなったようだ。


「あったぞ」
しばらく歩くと、鉱山の入り口が見つかった。
村人の口ぶりから予想はしていたが、
既に閉山して塞がれている。

「先に温石に使えるものを探そう。ナナホシも手伝ってくれ」
「ウン」

日は傾きかけている。
石を温めるには火を起こす必要があるが、
不用意にすると人間に見つかる恐れがある。
また、暗くなってしまっては素材の見極めが難しい。

「アッタ」
「こちらにもあった。複数あった方が良いだろう。火起こしは…少し前に、ほら穴が見えた。そこまで戻る」
「手ブクロ…」
「入っていい。ほら」
人形が手を差し向けると、気が変わらぬ内にとでも言うように、
ナナホシは手袋の中へ、せかせかと入り込んだ。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬がほら穴まで歩き、ナナホシが偵察に入る。
冬眠中の獣でもいるかと思われたが、何もいなかった。
仮にいたとしても、気にもされないが。
生き物らしい匂いがないせいかもしれない。

人形は火を起こし、先ほど拾った石を隅の方に突っ込む。
ナナホシは近くから、その様子をじっと見ていた。

「火の中に入りたいのか?」
「僕?入ッタラ焼ケチャウヨ?」
「そうだな」

少し火の調整をして、やることは終わった。

「ナナホシは、80年前までのデータしかないんだったな」
「ウン。‪逆二✕‬‪✕‬‪✕‬ハ、古イデータヲ持ッテイナイ」
「そうだ。博士の記憶をデータとして持っているが、抜けが大きく資料としては不適格だ。あとは私自身の設計と、旅に必要な知識、目覚めて以降の約37年分の人間学習データだ」

バチン、と焚き火から大きく爆ぜる音がした。
くべた枝が乾ききっていなかったようだ。

「僕ト‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノ、空白期間ハ、40年ヲ超エル」
「そういうことになる。その間に、この国に当時あった先進技術は喪失し、3国による戦乱は終わった。…たった40年にしては技術破壊が徹底的すぎる」

くるりとナナホシが回り、尻を火に向けた。
小さな頭部を傾げ、人形に問う。

「知リタイ?何ガアッタカ」

「分からない。私には感情や欲求が備わっていないから。だが今、この国の歴史を知らなければ、私の探しているものには辿り着かないだろうと考えている」

「ソウ。僕モ手伝ウ」
「ありがとう」

ナナホシが再び火に向き直り、
しばらく無言の時間が続いた。

火にあたっていると、人形の体があたためられていく。
光と熱が動力に変換され満たされていく。

「ここまで長く人間から離れたのは初めてだ」
「僕ハマダ人間ヲ見テナイ」

「そうだな。私を人形と知っている人間もいるが、その人間の周りはそうでは無いから、常に人間らしくする必要があった」
「ソウダネ」

「人間らしさを再現することは、私の平均的な動力取得量からすると、かなりの動力が必要だ」
「ウン」
「それをやめると、動力のやりくりが必要ないほどに節約できることが分かった」

「ソレジャ今、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ハ冬休ミ、ダネ」
「冬休み…そうだな。私の冬休みだ」

12/29/2024, 9:14:09 AM