崩壊するまで設定足し算

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12/13/2024, 9:01:40 AM

▶42.「心と心」
41.「何でもないフリ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「はぁーあ、きっともう✕‬‪✕‬‪✕‬は山小屋に着いたわね」
気だるい雰囲気漂う昼下がり。
子猫は窓枠に頬杖をつき、ため息をひとつ零した。

少なくとも寒さが緩むまでは会えない。
いつ会えるかなんて確かな約束をしたこともないくせに、
会えないと分かるだけで、こんなにも面白くない。

面白くない、と自覚すれば目線も下がって、
そのままもう一つため息をついたら、
下ろした髪がサラサラと顔の方に落ちてきた。

小さい頃は不吉と虐められた黒髪。
それでも負けずに手入れを頑張って、今じゃ専売特許。

そのきっかけをくれた私のお人形さんは、今は遠い。

ここは花街、夢を売る場所。

心と心、ぶつかっても決して混じり合わぬ場所。
客は私たちに一夜の夢を見る。
私たちは客に一生の夢を見る。

「ほんと、どこにいるのかしらね」

私の心と、あるのか分からないけど‪✕‬‪✕‬‪✕‬の心も、
付き合いは長いけど、きっとどこか噛み合ってない。


「あ、雪」
小さい頃は雪が好きだった。
白くて、きれいで。全てを覆い隠してくれる気がして。

「もう冬なんて大嫌いよぉ。いー、だ」
早く下りてきて、また話を聞かせて、お人形さん。

12/12/2024, 9:25:51 AM

▶41.「何でもないフリ」
39.「手を繋いで」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「ねぇ、あなた。ちょっといいかしら?」
「なんだ、もう寝たんじゃなかったのか」

晩酌をちびりちびりとやっていると、
妻のクロアが寝室から出てきた。

「明日は店、早いんだろう。どうしたんだ」
「ええ…でも気になっちゃって。あなた、この町で浮気してないわよね?」
「ごふっ」

しばらく噎せが止まらなかった。

「この町で、って…どこでもしてねぇよ。なんだ急に」
「だってあなた、森に行ってから考え事ばっかりしてるじゃない」

ハッと反応しそうになる体を抑え、何でもないフリはしたものの。
私なりに色々な理由を考えてみたのよ、だけど…と言い募る妻の言葉が動揺から耳を滑っていく。

「怪我もなく遅れて帰ってくるなんて、本当に浮気じゃないなら何なのよ…シブ?」

だめだ、立て直さねぇと。

「…本当に何でもねぇ。一緒に行った奴が森でコケたから、余計に休ませてから帰った。それだけだ」

じっと俺を見ていたクロアの表情から、
ふっと毒気のようなものが抜けて、

「わかったわ、あなたを信じる」
もう寝るわね、と寝室に戻っていった。

すまねぇな、クロア。
こればっかりは、お前が相手でも話すわけにはいかねぇんだ。

残った酒を干したら、やたらと苦い。
変だよな、ついさっきまで飲んでたのによ。

12/11/2024, 9:23:49 AM

▶40.「仲間」
39.「手を繋いで」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
冬に祈る祭りの翌日。

「世話になったよ」
「ああ、気をつけて」
戦時中に使われていた施設が残っていると噂を聞いた人形は村を出た。
辺境から出ると見せかけて数日かけて迂回し山に向かう。

東の辺境は、その大半が山々で占められた山岳地帯だ。
人々は、その裾に沿ってまばらに村をつくり細々と暮らしている。

(山中にも村があるのだろうか)

(念の為、山に入る前に様子を見た方がいいだろうか)

未知の領域を前に人形は歩きながら思案を重ねていた。
時折強く風が吹くので、外套を手で抑えなければならない。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、手を繋いで祈りを捧げていた村のことを思った。

手を繋ぐことで肌が触れ合えば、
親しみが生まれ村内の団結が強まる。

しっかり食事から栄養をとれれば、
厳しい寒さにも耐えられるようになるだろう。

同じ対象に祈りを捧げることは、
思想の統一に繋がる。

多少排他的な態度も、
歴史的経緯もあるだろうが、
新参者による余計な不和や軋轢を避ける結果になっている。

この土地を生き抜き、
仲間同士支え合う。
そのための知恵。


博士によって作られた
この世にたった一体だけの
人間のフリをしているだけの人形

‪✕‬‪✕‬‪✕‬には祈りも仲間も無ければ、
欲しいと思ったことも無い。

12/10/2024, 9:43:50 AM

▶39.「手を繋いで」
38.「ありがとう、ごめんね」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
山小屋を借りて冬ごもりをしようと東の辺境まで来た人形だったが。

厳しい気候と排他的な住人たち。
余所者が冬に行く場所ではなかった。

この辺りは村や集落同士の距離が離れている。期限としては、あと一つ二つ。その後は気温が下がりすぎて表面温度を保てないだろう。
✕‬‪✕‬‪✕‬はフラフラとした若者を装い、
「適当に旅をしていたら着いた」として山の裾野にある村に入った。

そこは、今まで見てきた中で一段と色味の鮮やかな装いを身につけている住人たちの村。
夕方なのに足取りも軽く雰囲気も今までより緩んでいる。
人形は広場の隅に立つ青年に声をかけてみた。
「今まで見てきたのと装いが違うな」
「お兄ちゃん旅人だな。今日はどこもそうだと思う。お祭りなんだ」
「へぇ。どんな祭りなんだ?」

「冬始めの夜にみんなで手を繋いで祈る。そして、たんまりご馳走を食べるんだよ。冬を無事に越せますようにってな」
オレ、あの丸焼きがいいなぁ。目線を追えば火に炙られる丸々とした家畜が、料理や酒が並ぶテーブルの奥に見えた。

「祈る相手は?神?」
「神様かもしれないけどね。星や月、土にも山にも祈るんだ。特に山は大事だって大人はみんな言ってるよ」
「確かにすごい山だよなぁ」
「うん、でもそれだけじゃなくてさ」

戦争してたとき、
あの山に穴あけて武器の材料取ってて、人も沢山いて栄えてたんだって。
でもそのせいでひどく攻められて、全部無くなった。
それは山を大事にしなかったからバチが当たったってことらしいよ。

「そうなのか…僕も祈りの輪に入れてもらえるかな」
「あー…それならオレの隣でやれば大丈夫だろ。ついて来なよ」

青年は住人たちが形成しつつあった大きな円に加わった。‪✕‬‪✕‬‪✕‬も続く。

「あ、そういえば。山に入るのは大人たちが禁止してるんだけどさ」
青年が少し顔を人形に近づけ声を潜める。

「その時の穴や建物が未だに残ってるせいだって噂だぜ」
「本当だったらすごいな…だけど、ここからじゃ分からないな」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬も合わせて小さく応えた。

「なんせ昔だからな。あっても埋もれちまってるのさ。さ、繋ごうぜ」

住人たちが勢揃いし、手を繋いで輪になる。
手の温かさを感じながら過ごす静寂の時間。

人形も周りに合わせて目を閉じた。

12/9/2024, 6:05:06 AM

▶38.「ありがとう、ごめんね」
37.「部屋の片隅で」36.「逆さま」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

東の辺境に入った人形は今までの土地との違いに気づいた。

ただ他の地域よりも少し、
風が強く吹くだけ
雨が少ないだけ
土が痩せているだけ
昔の戦いが激しかっただけ

(それが人間にとっては、こんなにも大きな違いとなるのか)

木を隠すなら森と言われるように、この国の平均的な相貌で作られている人形でも人の多い地域にいることが多かった。
荷物、特に食物による旅程制限がない人形は、ほとぼり冷めるまで隠れているのも簡単で、のんびりと旅を続けていた。

だから、余所者が分かりやすいような、人の少ない地域に赴くことは殆ど無かったのだ。

「ありがとう、ごめんね」

幼い子どもが水汲みをしていた。量からしてかなり重たい。
手伝おうかと申し出たところ、

「あなた、余所から来たんでしょ?優しそうだもん。」

このように断られた。
幼い子どもでも自分たちが排他的な態度を取っていると知っている。
そうさせるだけの理由がある土地なのだ。

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