▶39.「手を繋いで」
38.「ありがとう、ごめんね」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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山小屋を借りて冬ごもりをしようと東の辺境まで来た人形だったが。
厳しい気候と排他的な住人たち。
余所者が冬に行く場所ではなかった。
この辺りは村や集落同士の距離が離れている。期限としては、あと一つ二つ。その後は気温が下がりすぎて表面温度を保てないだろう。
✕✕✕はフラフラとした若者を装い、
「適当に旅をしていたら着いた」として山の裾野にある村に入った。
そこは、今まで見てきた中で一段と色味の鮮やかな装いを身につけている住人たちの村。
夕方なのに足取りも軽く雰囲気も今までより緩んでいる。
人形は広場の隅に立つ青年に声をかけてみた。
「今まで見てきたのと装いが違うな」
「お兄ちゃん旅人だな。今日はどこもそうだと思う。お祭りなんだ」
「へぇ。どんな祭りなんだ?」
「冬始めの夜にみんなで手を繋いで祈る。そして、たんまりご馳走を食べるんだよ。冬を無事に越せますようにってな」
オレ、あの丸焼きがいいなぁ。目線を追えば火に炙られる丸々とした家畜が、料理や酒が並ぶテーブルの奥に見えた。
「祈る相手は?神?」
「神様かもしれないけどね。星や月、土にも山にも祈るんだ。特に山は大事だって大人はみんな言ってるよ」
「確かにすごい山だよなぁ」
「うん、でもそれだけじゃなくてさ」
戦争してたとき、
あの山に穴あけて武器の材料取ってて、人も沢山いて栄えてたんだって。
でもそのせいでひどく攻められて、全部無くなった。
それは山を大事にしなかったからバチが当たったってことらしいよ。
「そうなのか…僕も祈りの輪に入れてもらえるかな」
「あー…それならオレの隣でやれば大丈夫だろ。ついて来なよ」
青年は住人たちが形成しつつあった大きな円に加わった。✕✕✕も続く。
「あ、そういえば。山に入るのは大人たちが禁止してるんだけどさ」
青年が少し顔を人形に近づけ声を潜める。
「その時の穴や建物が未だに残ってるせいだって噂だぜ」
「本当だったらすごいな…だけど、ここからじゃ分からないな」
✕✕✕も合わせて小さく応えた。
「なんせ昔だからな。あっても埋もれちまってるのさ。さ、繋ごうぜ」
住人たちが勢揃いし、手を繋いで輪になる。
手の温かさを感じながら過ごす静寂の時間。
人形も周りに合わせて目を閉じた。
12/10/2024, 9:43:50 AM