崩壊するまで設定足し算

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12/8/2024, 8:08:29 AM

▶37.「部屋の片隅で」
▶36.「逆さま」
35.「眠れないほど」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
太陽が完全に沈み、月と星が空を飾る夜。
いくつかの村や町を過ぎ、だんだん東の辺境に近づいてきている。
✕‬‪✕‬‪✕‬は今夜も焚き火をしながら、じっと座っていた。

人間では徹夜しながら旅を続けることも、
何時間も動かず何もせず過ごすことも難しい。

対して人形は火を焚いていれば動力は問題ないし、
暇や退屈という感覚もない。
だから野宿の時は安全のため、こうして夜通し眠らずに過ごしている。


今の状況ならどのように振る舞えば人間らしいか?
自身と人間とを比較しながら、✕‬‪✕‬‪✕‬は案を考えていた。

(そういえば星と星とを結んでモチーフを描く遊びがあった)
人形は地面に寝転び、夜空に広がる星々を見た。

平衡器官がちょっとした誤作動を起こし、一瞬どちらが上か分からなくなる。
人形の、数少ないバグである。

星空を見上げているはずなのに、
逆さまに、星空を見下ろしているような感覚。

すぐに無くなるそれは、
長い旅路に立つ前に過ごした博士との日々の短さを表すようで。

(逆さまだったら)

もし、という言葉は人形には相応しくない。
目の前に広がる世界が、事実だ。

◇◇◇

博士の研究室

大がかりな実験器具
コポコポと液体の泡立つ音
そこかしこに資料が置かれて
広げられた紙には書きなぐった計算やメモ
壁につけられた棚には雑多に物が詰められている

そんな部屋の片隅に

人間が入るくらいの大きさの箱
何本もチューブがのびて
どこかに繋がっている
その中に眠るのは

永遠と思うほど長く
ただ主の願いのために動く
今はまだもの知らぬ人形
憐れな人形

12/6/2024, 6:09:22 AM

▶35.「眠れないほど」
34.「夢と現実」それぞれが望むもの
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
あの人、どうしたのかしら。そこの森に行ってから変よ。
考え込んでる時間が明らかに増えたもの。

帰りが1日遅くなったことと関係があるのかしら?

…遠くなら知らんぷりできても、こんな近くでなんて嫌だわ。
でも朝になってすぐ肉屋のミランダにも魚屋のフィーナにも八百屋のベルにも聞いたけど何も無かったわ。本当に帰ってきていなかった。

怪我をしたというのでもないし、何なのかしら。心配だわ。
考えてたら眠れなくなっちゃったわ。

「ねえ、あなた。ちょっといいかしら?」

12/5/2024, 8:24:37 AM

▶34.「夢と現実」それぞれが望むもの
33.「さよならは言わないで」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
時系列不明
花街にて

「見てー、私の爪キレイでしょ」
いつものように寝床に腰掛けていると、
子猫が両手の甲をパッと‪✕‬‪✕‬‪✕‬の前に向けて翳した。

「私に美醜の判断はできないが、どの指の爪も均等に整えられ、色もムラなく塗られているのは分かる。また、濃い色に染めるのは技術が必要だろう」

そう人形が応えると手を引っ込め、口角を上げた。

「そうよ、よく分かってるじゃない。合格をあげるわ。ふふ、これでお客さんをいーっぱい夢中にさせるんだから」

「子猫は外に出たいと言っていた」
「うん。いっぱい稼いで、自分で自分を買って、外に出たい。私、花街から出たことないから」

うーん、と子猫は窓に向かって伸びをした。その横顔は年相応の少女に見える。

「ま、それまで元気でいられるか分からないけどね。ね、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は?夢ってあるの?」
「私は…人形だ。夢という曖昧な希望を持つことはしない」

12/4/2024, 6:10:11 AM

▶33.「さよならは言わないで」

32. 「光と闇の狭間で」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

---

「はぁ…あのやろう」

-✕‬‪✕‬‪✕‬さんですか?もうお発ちになりました-

(‪✕‬‪✕‬‪✕‬め、挨拶もしねぇで行きやがった。おかげで恥かいたぞ)

森から帰還した翌日。もっと根掘り葉掘り聞いてやろうと宿を訪ねたが、‪✕‬‪✕‬‪✕‬はもう出立したあとだった。シブは行き場のない遣る瀬無さをボヤきに変えて、仕方なく家にとんぼ返りしていた。

森の奥に連れて行って‪✕‬‪✕‬‪✕‬の薬草採取に幅を持たせてやろう、
それでついでに誰かが助かれば言うことない。
ただそれだけのつもりだったのに。

「帰ったぞ」
「おかえりなさい、やけに早いわね。もしかして会えなかった?」
「ああ、もう行っちまった後だった」
「そう、きっと急ぎの旅なのね。なのに予定より長く連れ回したということ?」

シブが油断したせいで‪✕‬‪✕‬‪✕‬は穴に落ちて足を負傷した。
しかもその傷から人間ではなかったことが分かってしまった。
幸い短い期間で復活したものの、それでも元々の予定より1日延びての帰還。
妻には大層心配され、だからと言って全て話す訳にもいかない。

「勘弁してくれよ。そりゃ同意の上に決まってるだろう」
「もう、どうだか怪しいものね。先輩風はだめよ?」
「へぇへぇ、分かってるよ」

足早に仕事道具を置いている部屋へ入る。
考え事をするにはここが一番だと、シブは思っている。

隅に置いた椅子に深く腰掛けたら、勝手に大きなため息が出てきた。
日常の空間に戻ってきたからこそ、あの場の異常さが際立ってシブの心にのしかかる。

(‪✕‬‪✕‬‪✕‬に同行者がいる様子はなかったな)

自由を求めていた博士という奴はどうしたのだろうか。あんなことを成し遂げられるなら、そこそこ年齢はいってるはず。そこから30年以上経つなら、この国の人間なら死んでいてもおかしくない。

もし、そうなら。

(せっかく理想的な自由の形を見つけられても、報告する相手がいねえ)

しかも何だ、理想的な自由のカタチって。
薄ら寒くなった腕をさすりながら、
そんなものに縛られ続ける‪✕‬‪✕‬‪✕‬をシブは哀れに思った。

(傲慢かもしれねぇが、お前は必要ないと言うかもしれねぇが)

さよならは言わないでおいてやるよ。
会えたら仲良くやろうぜ。

12/3/2024, 6:48:43 AM

▶32. 「光と闇の狭間で」

31.「距離」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

---

日が傾きはじめ、人形は野営の準備を始めた。
‪充分に薪を集めてから火を起こす。

ごくたまに人が通りがかることもあるため偽装と消火用を兼ねて、
水を汲んだポットも近くに置いておく。

人形の体は冷えても動作に支障が出ないし、今夜は人間と一緒にいるわけでもないから放熱の必要がない。だんだんと気温が下がり、焚き火に近い前部の温度はさほど変わらないが、背部の温度は少しずつ下がっていく。

(あの夜は、背中に温度を感じた。状況的にシブだったのだろうが)

なぜそうしたのかは分からないし尋ねてもいない。


太陽の光が沈んで消え、夜の闇が近づいてくる。
‪その摂理に抗うように火を焚く。

人形も同じようなものだろうか
人間が生まれて死んでいく、その狭間で延々と動き続ける。

仕入れ屋に人形であることが知られた影響か。
ゆらり、ゆらりと揺れる炎を見つめながら、
具体性のない問いに思考が流れていく。
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、そのような自分を止めなかった。


光と闇は繋がっている

生と死も繋がっている

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は薄闇を孤独に羽ばたく鳥を見た気がした。

生きるものも年取らぬ人形も等しく闇が覆い、夜は更けていく。

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