▶33.「さよならは言わないで」
32. 「光と闇の狭間で」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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「はぁ…あのやろう」
-✕✕✕さんですか?もうお発ちになりました-
(✕✕✕め、挨拶もしねぇで行きやがった。おかげで恥かいたぞ)
森から帰還した翌日。もっと根掘り葉掘り聞いてやろうと宿を訪ねたが、✕✕✕はもう出立したあとだった。シブは行き場のない遣る瀬無さをボヤきに変えて、仕方なく家にとんぼ返りしていた。
森の奥に連れて行って✕✕✕の薬草採取に幅を持たせてやろう、
それでついでに誰かが助かれば言うことない。
ただそれだけのつもりだったのに。
「帰ったぞ」
「おかえりなさい、やけに早いわね。もしかして会えなかった?」
「ああ、もう行っちまった後だった」
「そう、きっと急ぎの旅なのね。なのに予定より長く連れ回したということ?」
シブが油断したせいで✕✕✕は穴に落ちて足を負傷した。
しかもその傷から人間ではなかったことが分かってしまった。
幸い短い期間で復活したものの、それでも元々の予定より1日延びての帰還。
妻には大層心配され、だからと言って全て話す訳にもいかない。
「勘弁してくれよ。そりゃ同意の上に決まってるだろう」
「もう、どうだか怪しいものね。先輩風はだめよ?」
「へぇへぇ、分かってるよ」
足早に仕事道具を置いている部屋へ入る。
考え事をするにはここが一番だと、シブは思っている。
隅に置いた椅子に深く腰掛けたら、勝手に大きなため息が出てきた。
日常の空間に戻ってきたからこそ、あの場の異常さが際立ってシブの心にのしかかる。
(✕✕✕に同行者がいる様子はなかったな)
自由を求めていた博士という奴はどうしたのだろうか。あんなことを成し遂げられるなら、そこそこ年齢はいってるはず。そこから30年以上経つなら、この国の人間なら死んでいてもおかしくない。
もし、そうなら。
(せっかく理想的な自由の形を見つけられても、報告する相手がいねえ)
しかも何だ、理想的な自由のカタチって。
薄ら寒くなった腕をさすりながら、
そんなものに縛られ続ける✕✕✕をシブは哀れに思った。
(傲慢かもしれねぇが、お前は必要ないと言うかもしれねぇが)
さよならは言わないでおいてやるよ。
会えたら仲良くやろうぜ。
12/4/2024, 6:10:11 AM