▶32. 「光と闇の狭間で」
31.「距離」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
日が傾きはじめ、人形は野営の準備を始めた。
充分に薪を集めてから火を起こす。
ごくたまに人が通りがかることもあるため偽装と消火用を兼ねて、
水を汲んだポットも近くに置いておく。
人形の体は冷えても動作に支障が出ないし、今夜は人間と一緒にいるわけでもないから放熱の必要がない。だんだんと気温が下がり、焚き火に近い前部の温度はさほど変わらないが、背部の温度は少しずつ下がっていく。
(あの夜は、背中に温度を感じた。状況的にシブだったのだろうが)
なぜそうしたのかは分からないし尋ねてもいない。
太陽の光が沈んで消え、夜の闇が近づいてくる。
その摂理に抗うように火を焚く。
人形も同じようなものだろうか
人間が生まれて死んでいく、その狭間で延々と動き続ける。
仕入れ屋に人形であることが知られた影響か。
ゆらり、ゆらりと揺れる炎を見つめながら、
具体性のない問いに思考が流れていく。
✕✕✕は、そのような自分を止めなかった。
光と闇は繋がっている
生と死も繋がっている
✕✕✕は薄闇を孤独に羽ばたく鳥を見た気がした。
生きるものも年取らぬ人形も等しく闇が覆い、夜は更けていく。
12/3/2024, 6:48:43 AM