▶31.「距離」
30.「泣かないで」人形の瞳
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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この国が高度な文明で栄えていた頃、街道整備にも力を入れていた。
空から見下ろす術があれば、首都から伸びる街道によって国全体がカッティングされた宝石のように見えたことだろう。
✕✕✕は、東の辺境の地に向かって、やや北寄りに進路をとって歩いている。
その目的は人間への偽装が難しい冬の間、人と会わないようにするためである。距離の割には小さい目的であるが、寒さが厳しくなるには時間的に余裕があるし、冬山に入るのを見咎められるこ可能性を思えば人の少ない地域に行くほうがいい。
この国においては隣合う二つの町の間はおおよそ一宿二野宿。町をつなぐ道の途中に村が一つか二つあり、そこに加えて二回ほど野宿しながら歩けば次の町に着く。
人やモノが都市に集約されていた弊害だが技術を失い道も廃れて久しい。この国の人間は「そういうもの」として受け入れ、かろうじて残った轍を辿り明日へと繋いでいた。
人形も今夜は宿のある村まではたどり着けないため野宿だ。
しかしまだ日が傾くまでは時間がある。
今は人間と同じように先人たちの歩いた道を行くばかりである。
▶30.「泣かないで」人形の瞳
29.「冬のはじまり」
28.「終わらせないで」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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人間の瞳に似せて作られた人形のそれ。
人形にとって正しく目であり、また肺であり、そして口である。
まるで剥き出しの球関節のように✕✕✕の眼窩に収まり、
接触型の視覚情報の収集器官であると共に光エネルギーの吸収器官でもある。
もし無くなってしまえば人形は2日と持たず機能を停止するだろう。
光を取り込みやすくするために黒目がちにデザインされており、
人間のように液体で覆われてはいない。
したがって泣くという行為は、✕✕✕にはできない。
しかし人形に感情の発露は無く、
異物排除も眼窩に専用の窪みがあるため人前では問題ない。
微弱な信号で動く瞳は、乾いたまま。
今日も人形に人間を見せ景色を見せ、
エネルギーを体内へと送り込んでいる。
書けました。
▶29.「冬のはじまり」
28.「終わらせないで」
27.「愛情」人形は夢を見る
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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足の修復に付き合ってくれた仕入れ屋シブと別れ、
人形は町を出ることにした。
山で冬ごもりをするためである。
「娘、世話になった。旅のともに、あの蝋燭を何本か欲しい。在庫に響かない程度でいい」
「5本ならすぐに出せます。こちらこそ贔屓にしてくださりありがとうございました」
宿屋にも蝋燭を包んでもらい別れを告げた。
✕✕✕は市場に足を向けつつ、思案していた。
シブから街道について情報は得ているものの、
あの場で冬ごもりに適した山のことなど聞けない。
また、入山する所を人間に見られるのも厄介だ。
自然、答えは絞られた。
東に位置する辺境の地。隣国との境にある山岳地帯。
人が減れば余所者である人形は目につきやすくなるが、
町や村に入らなければ問題ない。
ひとまず厚めで頑丈な手袋を新調した。
杭や縄など登山で必要なものは、道すがら買い揃えていく方がいい。
人形は、次の町へ向かった。
▶28.「終わらせないで」
27.「愛情」人形は夢を見る
26.「微熱」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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足の修復が終わり、人形は休止状態から復帰した。
体を起こすと、シブもそれに気づいたようだ。
「やっとお目覚めか」
「ああ、助かった」
「いい。元はと言えば俺の責任だ」
それでだ、とシブはさっそく切り出した。
「結局お前は何なんだ?✕✕✕さんよ」
人形とか言ってたけどよ、
1人になって考えてみりゃさっぱり分かんねぇよ。
洗いざらい話してもらおうか?
そう言ってシブは覚悟を決めた目で、人形を見つめた。
「お前、どこから来たんだ?」
✕✕✕は、目覚めたら人形にまつわることを聞かれる可能性が高いと考えてはいた。だが、自分が眠っている間に壊される可能性も、
目覚めた途端に別れて二度と会わない可能性もあると想定していた。
「それを話すことは構わない。だが他の人間には」
「言わねぇよ。✕✕✕に危害を加えるつもりはない。人間で言うところのケジメってやつだ。分かるか?」
あの情報収集と称して話しかけた夜から始まった縁。
シブは、それを終わらせないで続けるつもりのようだ。
「分かる。人間は知りたがりだ」
「お前もだろう。散々人の家庭のこと質問攻めにしやがって」
「わかった。だが、シブの顔には疲労が見える。日を改めた方が良いのではないか?」
「あー…まぁ町には帰らねぇとな」
「帰りながらでも話はできる。撤収を勧める」
「そうするか」
✕✕✕とシブは野営の撤収作業に取り掛かった。
「✕✕✕を作ったってぇ博士は誰なんだ?」
「博士の詳しい素性や出身地は博士の記憶データには入力されていないので分からない。私が知っているのは博士が遠い国から来たこと、そこでは人形作りが盛んだったこと。そして、この国にあったという技術が私を作り上げる要素になったと」
「技術?何もねぇよ。全部戦争で焼けちまったじゃねぇか」
「そのようだな」
「最初に会った時、旅の目的は世界を見るためって言ってたな。それは本当なのか」
「半分はそうだ。博士は本当の自由が何か知ることを求めていた。私はそれを探すために旅をしている。といっても私が初めて目覚めた時からこの国にいるが」
「それで世界たぁ…ハッ、大きく言ったな」
「そのとおりだな」
「ところでお前、何年この国にいるんだ?」
「目覚めてから35年ほどになる」
「人間にバレたのは俺で何人目だ」
「2人目だ」
「意外と少ないんだな。よっぽど慎重だったか。」
「荷物は全て片付いた。町に戻ろう」
「ああ」
書き終わりました。なう(2024/11/28 20:15:37)
▶27.「愛情」人形は夢を見る
26.「微熱」
25.「太陽の下で」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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俺たちは街道から遠ざかるように森の入り口から端に沿って移動した。
陽のあたる場所に腰を下ろす。
「それで、だ。聞きたいことはたんまりあるが後回しだ。✕✕✕、お前寝るんだよな?その間俺は夜に火を燃やし続ける。他にやって欲しいことはあるか。それと時間はどのくらい必要だ」
「私は目から光を、熱は体全体から取り込んでいる。なので日のあるうちは、それに合わせて私を動かして欲しい。火の大きさや距離は通常の野宿と同じでいい。期間は2日といったところだろう。シブの都合で私から離れることは構わない」
「話が早くて助かるね」
「私もシブの理解が早くて助かる」
「そりゃプロでベテランの仕入れ屋だからな」
「私を起こす必要性が出てきた時は、先程のように強く叩いてくれ。攻撃されたと検知して覚醒する」
「おう…って叩いて悪かったな」
「問題ない。他にないようなら休止形態に移行する」
「ねぇよ。さっさと寝ろオヤスミ」
日光の向きを確認していた✕✕✕は俺の言葉にピクッと動きを止めた。
「それでは頼む。おやすみ」
表情も変えずに同じ言葉を返し、✕✕✕は太陽を見ながら横になった。
フツーのやつなら目なんか開けてられねぇはずなんだが。
「ピクリともしねぇ。パッと見死んでるな」
元々野営の準備はあるが、
長い2日間になりそうだ。
◇
太陽の光と熱をめいいっぱいに受けながら、人形はシステムを少し変えながら休止形態へと移行を進めていた。
死んでる、という言葉が微かに耳に入ったが、もう返事もままならない。
(修復機能を右足首に集中、眼瞼固定。
待機形態への自動移行停止。定期的な意識の浮上を設定)
✕✕✕は深い眠りにつき始めた。
意識が閉ざされていく中、人形はいつものように、これで良かったのか?と自分に問いかけた。
しかし答えが出る前に意識は眠りの中へ落ちていった。
一定の時間が過ぎ、✕✕✕の意識は少しだけ浮上した。
足の修復は進んでいるようだ。
目は開いているが画像処理を行っていないため、明るさや温かさが分かるのみ。暗闇の中に揺れる光を見たり。そのとき寒いはずの背中があたたかいこともあった。
ふわっと浮いた意識は、また沈む。その繰り返しの中で人形は夢を見た。
人形の記録にも博士の記憶データにもない、だから夢だ。
そこで✕✕✕は人間のように自然に感情を出すことができたし、
博士からの愛情を感じることができた。
笑い合い、対等で、通じ合う。
✕✕✕には、それが素晴らしいことに感じた。
2日後、人形は目が覚めた。
夢を見た自覚はあるものの、
その時に得たはずの感覚は何もわからなくなっていた。