▶31.「距離」
30.「泣かないで」人形の瞳
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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この国が高度な文明で栄えていた頃、街道整備にも力を入れていた。
空から見下ろす術があれば、首都から伸びる街道によって国全体がカッティングされた宝石のように見えたことだろう。
✕✕✕は、東の辺境の地に向かって、やや北寄りに進路をとって歩いている。
その目的は人間への偽装が難しい冬の間、人と会わないようにするためである。距離の割には小さい目的であるが、寒さが厳しくなるには時間的に余裕があるし、冬山に入るのを見咎められるこ可能性を思えば人の少ない地域に行くほうがいい。
この国においては隣合う二つの町の間はおおよそ一宿二野宿。町をつなぐ道の途中に村が一つか二つあり、そこに加えて二回ほど野宿しながら歩けば次の町に着く。
人やモノが都市に集約されていた弊害だが技術を失い道も廃れて久しい。この国の人間は「そういうもの」として受け入れ、かろうじて残った轍を辿り明日へと繋いでいた。
人形も今夜は宿のある村まではたどり着けないため野宿だ。
しかしまだ日が傾くまでは時間がある。
今は人間と同じように先人たちの歩いた道を行くばかりである。
12/2/2024, 9:07:29 AM