友だちの思い出
引越しの準備をしていたら。
クローゼットの奥から懐かしいアルバムが出てきた。
「あ、これ、こんなとこにあったんだ」
うわぁ、懐かしいなぁ、なんて。
俺がアルバムを捲り始めると。
隣の部屋の物を整理していた彼が、こっちにやってきて。
「へぇ、懐かしいじゃん」
俺にも見せて、と。
彼が俺の隣に座った。
そして、一緒にページを捲り。
俺と彼は、学生時代を振り返った。
「あ、これ、修学旅行の時のだよな?」
そう、彼が指差したのは。
自由時間を一緒に行動したグループでの写真で。
その中で、俺と彼は特にピッタリとくっついて写っているから。
「この時って、俺達まだ友達だったよね」
「あぁー、そうだよ。確か、この日の夜に、俺がお前に告白したんだし」
「そっかぁ。それじゃ、この写真が友達だった時の最後の写真だったんだね」
「まぁな。けど、こんだけくっついてりゃ、今と変わんないけどな」
確かに、それはそうだ。
友達にしては、距離が近過ぎるもんな。
なんて、俺が笑ってしまうと。
「なぁに、笑ってんだよ」
と、彼に緩んだ頬を指で摘まれる。
「んー?俺達って、友達の頃と距離感変わらないんだなぁって思ってさ」
「そうかぁ?それはちょっと違うんじゃない?」
え?なんて。
さっきは彼からそう言っていた筈なのに、と。
俺が首を傾げて、彼を見つめると。
ニヤリと笑った彼の顔が近づいてきたかと思ったら。
ちゅっと、俺の唇にキスを落とした。
そして。
「友達じゃ、こんなことしないだろ?」
と、真っ赤になった俺の顔を見て。
満足そうに、彼は笑った。
End
星空
「あぁー、なぁんも見えねぇーじゃん」
田舎から都会に出てきて、始めての夜。
俺は小さなベランダに出て、一人缶チューハイ片手に、空を見上げる。
だけど、夜空は真っ黒で、星は一つも見当たらない。
でも、真っ暗じゃなくて。
街灯やらネオンの看板やらの光で、明るいから。
その賑やかな輝きが、今の俺にはちょっとだけ寂しい。
いつかは、この景色に慣れてくんのかな。
田舎に居た時だって、星が夜空一面に見えるなんてことは無かったけれど。
でも、人工的な明かりの無い夜に、星がぽつぽつと見えた、あの夜空が恋しいような。
そんな気分になってくるから。
俺は寂しさを流し込むように、缶チューハイを煽った。
でも、酔いが回ってくると。
一人なのが、もっと寂しい。
普段一人でお酒なんて飲まないし、飲む時はいつも、アイツが一緒だった。
……声、聞きてぇ。
田舎ではいつも一緒だった彼へと、電話をすれば。
直ぐに繋がって。
『どした?まさか、もうホームシックになってんの?』
「……んー、別にそういうんじゃねぇしー」
『お前酒飲んでんな?そんな強くねぇーんだから程々にしとけよ』
お前がしんどくなっても、俺、面倒見てやれねぇーんだからさ。
なんて、そんな寂しいことを彼が言うから。
俺が思わず黙り込めば。
『どしたー?もしかして寝ちゃった?』
「……寝てねぇし。ちょっとしんみりしてただけだし」
そんな、俺の不貞腐れた言い方に。
彼が、ぶはっと吹き出す様に笑って。
『あははっ。やっぱ、お前ホームシックになってんじゃん、はやくね?』
「うっせ。違うんだよ……帰りたいとかじゃなくてさ、お前の顔見てぇーなって思ってただけっ!」
なんて。
俺が正直な気持ちを口にしてみると。
今度は、彼の方が黙って。
電話越しに、息を呑んだのが伝わってきた。
そして。
『バーカ。んなの、俺もだよ』
だから、お前からの電話だって直ぐに出たし、と。
少し照れながら、彼もそんなことを打ち明けてくれるから。
一緒かよ、って。
二人して笑い合う。
今度、田舎に帰ったら。
彼と二人で夜空を見上げて、お酒を飲むのも悪くなさそうだ。
そんなことを想像すれば、不思議と寂しさは消えていた。
End
神様だけが知っている
僕は天使だ。
神様だけが知っている、人間達の寿命。
その寿命が尽きる人を天界へと導く為に、人間の世界に迎えに行くのが、僕ら天使の使命で。
今夜も、僕は神様に告げられた人間を迎えに行った帰りなのだが。
「ねぇ、君って天使みたいだな」
俺を迎えに来たんだろ?
なんて、突然、一人の青年がベッドから、僕の方をしっかりと見て言うから。
「……君、僕のことが見えてるの?」
空を白い羽で飛ぶ僕を見ても、不思議そうにしない彼は。
自分の死期が近いことをわかっているみたいだ。
けど、それは間違いじゃなくて。
確かに、人間に僕ら天使が見える時というのは、天界から迎えが来た時や。
稀に、迎えが来る時期が迫っている者にも見える場合がある。
多分、彼は後者なんだろう。
だから、俺は彼へと笑ってみせる。
「それは神様だけが知ってるんだ」
どうか、彼がその時を安らかに受け入れられますように、と願って。
そんな俺の気持ちが伝わったのか。
彼も俺へと微笑むと。
「だとしたら、最後の時は君に迎えに来てもらいたいな」
「……それはどうして?」
「君みたいな綺麗な天使が迎えに来てくれたなら、きっと幸せな終わりになると思うからさ」
なんて。
どうしてかな、俺の顔が熱いし。
胸も苦しくなってきた気がする。
天使は病気にならない筈なのに。
これも、神様なら知ってるんだろうか。
End
この道の先に
学校帰り。
いつもの帰り道だけど俺の隣には、今日転校してきた彼がいて。
同じ方向だから、何となく一緒に帰る流れになったのだった。
「授業の進み具合とか、前の学校と違うかったりする?」
「ううん、そこまで違わないから助かったよ」
「そっか。移動教室の場所とかは?ちゃんと覚えられた?」
「それはちょっと自信ないかな。一人じゃ迷いそう」
「じゃあ、明日から移動する時、一緒に行こうか?」
「ほんとに?ありがとう、助かるよ」
なんて。
お互いに探り探りの会話が擽ったいけど。
不思議と嫌じゃないというか……寧ろ、何だか心地良いというか。
まぁ、そんな風に思ってるのは、僕だけかもしれないんだけど。
でも、今日初めて彼と会って、自分でもよくわからないけど。
彼と話してみたいって思っていたから。
だから、この時間がもう少しだけ長く続けば良いのに。
なんて、俺が思っていたら。
「あ、俺の家、この道の先を曲がった所なんだ」
「そっか。じゃあ、ここでバイバイだね」
「うん、また明日。一緒に帰れて楽しかったよ、ありがとう」
そんな彼の何気無い一言が、嬉しいから。
僕もだよ、と言いかけて。
でも、このまま別れるのは名残惜しくて。
「あ、明日からも一緒に帰らない?」
なんて、声が少し裏返ってしまったのが、恥ずかしいけれど。
……なんとか、言えた。
たったそれだけの一言に、緊張して。
まだ、心臓がドキドキしてる。
そんな俺とは、正反対に。
君はあっさりと。
「良いよ」
そうOKしてくれて。
「あ、ありがとう」
じゃあ、また明日、と。
俺が舞い上がって、手を振って帰ろうとした時だ。
待って、と君に呼び止められて。
「ちょっとだけ、俺の家寄ってかない?」
今日暑いし、お茶でも出すよ。
なんて、さっきまでの何でもなさそうな様子とは違って。
彼はちょっとだけ、頬を赤く染めて。
俺を見つめる目が緊張しているように見えたから。
……あぁ、もしかして、君も僕と仲良くなりたいって思ってくれてるのかな。
だとしたら、嬉しいな。
そう思うと、自然と笑顔になって。
俺は君の言葉に頷いた。
End
日差し
一日の始まりに、太陽の日差しを浴びるのが良いってよく聞くけど。
それはそうだ、って俺は毎朝実感してる。
まぁ、俺の太陽は。
「おはよう!朝だぞ、起きろー!」
なんて。
朝からはつらつとした笑顔が眩しい、彼なんだけど。
あぁ、今日も元気で可愛いな。
と思う気持ちを何とか抑えて。
まだ眠いフリをして、抱えていた掛け布団と一緒に寝返りを打ってみせた。
「……ん、まだ寝る」
「だーめ。これ以上寝てたら遅刻だぞ」
……ちょっと待て。
今の、『だーめ』可愛過ぎないか。
もう眠気なんてとっくに覚めていて。
彼への溢れる気持ちで、胸が高なっている。
けど、まだ起きるには、俺のときめきの日差しが足りないんだ。
だから。
俺が最後の抵抗とばかりに、抱き抱えていた掛け布団を頭から被れば。
起きろー、と彼が布団を剥がしてくる。
ほんとはここで起きても良いんだけど。
まだ、目を瞑っていれば。
「ったく、しょーがないなぁ。お前ってヤツは」
と、いつもだったら、ここで彼からの擽りの刑が始まる筈で。
でも、今朝は何故か、彼がフッと笑って。
「起きなきゃ、キスしちゃうぞ」
……え、えぇ?!
なんて。
まさかのびっくり発言に。
俺が思わず、目を開くと。
「よっしゃ、起こすの成功だな」
と、ニコニコ顔の、いつもの眩しい彼。
それでも、今はその笑顔が一段と輝いて見えて。
俺の中に、一日のやる気というか、エネルギーがチャージされるのを感じた。
……もし、あの時、直ぐに目を開けなかったら、彼は俺にキスしてくれたんだろうか。
明日の朝、試してみようかな。
End