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7/27/2024, 4:42:08 AM

誰かのためになるならば


「みんなのためになるなら、俺は喜んで死ぬよ」

なんて。
微笑む君はそう、あっさりと言ってみせる。

僕達の住む世界は、謎のウイルスに支配され。
毎日大勢の人々が死んでいっている。
そんな絶望的な状況の中。
何故か、そのウイルスに免疫があるらしい君が。
世界の唯一の希望で。
君はその期待に応えたいと考えているみたいだけれど。

……そんなの、僕は納得がいかない。

医者や学者が君の体の中を調べる手術をするらしく。
何が起こるかわからないし、場合によっては彼は命を落とすことになるかもしれないのだと聞かされた。

それでも、世界のために。
明日、君はその手術を受ける。

でも、僕は絶対に嫌だ、君が死ぬなんて。

だから。

「君の言うみんなに、僕は入ってないんだね」

「どうしてそんなことを言うの?俺の体を調べれば、君だってウイルスに怯えて暮らさなくて済むようになるかもしれないのに」

さっきはみんな、なんて言ったけど、俺が一番助けたいのは君なんだよ?
わかってよ、と。

真剣な表情の君に。
僕も真剣な顔をして、静かに首を左右に振った。

「それで君がいなくなるなら、僕は君が生きてる今の世界のままの方が幸せだよ」

だから、どうか、お願い。

「みんなのためじゃなく、僕だけのために行動して」

そう言って、僕は戸惑う君へと、手を差し出した。

「僕とここから逃げよう」

君をみんなのためになんて死なせない。

僕だけのために生きてほしいんだ。

そんな僕の思いが伝わったのか。
君はゆっくりと、でもしっかりと僕の手を握った。


                    End

7/15/2024, 1:26:35 AM

手を取り合って


俺達が信じられるのは、お互いだけ。
だから、これからも手を取り合って。
この厳しい現実を生きていく。

「なぁ、今日、暑くね?」

「ほい、水盗ってきたぞ。これ飲んで元気出せ」

なんて、太陽が照りつける、暑い日も。

「あぁー、今日はさみーじゃん」

「そんじゃ、こっち来いよ。俺が温めてやる」

なんて、凍える風の吹く、寒い日も。

隣にはいつも、お前がいて。
こんな状況をつい嘆いてしまう、俺に。
お前はいつだって笑って。
手を握ってくれるんだ。

だから、俺だって、お前に何か返したいから。

「なぁ、お前は俺にしてほしいことってある?」

水盗って来ようか?
それとも、毛布?
あ、雨降ってきたし、傘か。

なんて。
俺が、彼の力になりたくて。
あれこれと必死で言葉を並べるけど。

お前はそれに、悲しげに笑って。
首を左右に振る。

そして。

「お前は何も盗って来なくて良いよ。俺みたいなことしなくて良い」

「っ、けど、それじゃあ、俺ばっか助けられてる」

俺はお前と支え合って生きていく、って決めたのに。

「そんなこと無いよ。お前が傍にいてくれるだけでさ……お前の存在に助けられてっから」

そんなの……俺だって、おんなじだ。

俺だって、お前が傍にいてくれることが、一番の支えになってるんだよ。

だから。
俺は、そんな思いを込めて。
彼へと手を差し出すと。
お前は柔らかく微笑んで。
俺の手を取った。

そして。
本格的に降り出した雨から、逃げる様に。
俺と彼は手を繋いで、走る。

二人で休める場所を探して。


                    End

7/13/2024, 11:40:44 PM

優越感、劣等感


優越感


「お前は良いよなぁ。勉強もスポーツも出来て。背は高いし、顔も良いとか」

人生勝ち組じゃん?
なんて、お前が俺に羨望の眼差しを向けてくるのが。
俺は嬉しくて堪らない。

お前に褒めらると、顔がニヤけそうになる。

正直に話すと、彼以外にも俺を羨ましがるヤツは大勢いて。
みんな、俺を羨ましいと言ってくるんだけど。

そんな時は何とも思わないどころか。
ちょっと煩わしささえ感じる。

でも、お前の言葉だけは他と違って、嬉しくなる。

これは、親友のお前に、俺が優越感を感じてるからだと思ったりもしてたんだけど。
どうやら、違うらしい。

「俺、好きな子いるんだけど。その子さ、お前のことが好きらしいんだよなぁ」

この前、話してたら、お前の連絡先知りたいっぽかったし。
と、肩を落とす彼に。

俺は何だかイライラしたんだ。

お前に好きな子がいることも。
その子が俺を好きらしいのも。

だって、お前が俺を羨ましがるのは。
その子に好かれたいからなんでしょ。

……そんなの、何かムカつく。

と、この時、俺は気がついてしまった。

俺がお前に褒められて嬉しいのは、優越感からじゃなくて。

俺が、お前のことを好きだからだ。

好きな子に褒められて、嬉しくない男なんていない。

……でも、そんなの意味ねぇーじゃん。

好きな子に振り向いてもらえないなら、全然、人生勝ち組じゃねぇーし。

そう思うと、隣で肩を落とす彼がやっぱり腹立たしくて。

「バーカ。俺の連絡先、勝手に教えたりすんなよ?」

と、彼の頭を、手でクシャクシャにしてやれば。

「ちょっ、何すんだよっ?今日、髪のセット良い感じにキマったと思ってたのによぉ」

「そんなの知らねぇーし」

お前が、俺の気持ちを知らないのが悪いんだから。



劣等感


俺と並んで歩く彼は。
誰が見ても振り返るような、長身イケメン。

対して、俺はというと。
チビで、顔は別に普通。

そんな俺達が並んで歩いていれば。
俺はお前の引き立て役か、って。
当然、劣等感が湧いてくるんだけど。

でも、それでも、俺が彼の隣にいるのは。
気が合うし、一緒にいて楽しいからだ。

勉強もスポーツも何でも出来る彼は。
意外と子供っぽくて。

俺もスポーツは得意だから、勝負をすれば勝てる時も、たまにあるって。
一度や二度の負けぐらい、諦めたら良いのに。
俺に負けた時は決まって、直ぐに再戦を申し込んでくるところなんかは、負けず嫌いで。
完璧な彼の可愛らしいところだし。
俺も負けず嫌いだから、おんなじだな、って嬉しくなる。

そんな感じで、彼といるのは劣等感を感じることも多いけど。
楽しくて、嬉しいこともいっぱいあるから。

俺は彼と過ごす時間が好きだ。

まぁ、目の前で女の子に呼び出されて、告白されに行く彼を見送るのは。
正直、複雑な気分になるんだけど。

それは、彼ばっかモテて、羨ましいからだと思ってた。
でも、どうやら違うっぽい。

だって。
前から好きだと思っていた、女の子に。
彼の連絡先を知りたい、みたいな話をされて。
俺はもちろん、ショックだった。

でも、それは。
俺の気持ちが、その子に届かないとわかったからじゃない。
彼を、その子に渡したくないと思ってしまったから。

その気持ちに気がついて、俺はショックを受けたのだ。

……俺って、アイツのことが好きなんかな。

けど、そんな気持ちは受け取ってもらえないに決まってる。

アイツは人生勝ち組なんだから、相手は選びたい放題なんだし。
俺はチビで、勉強はさっぱりで……何より可愛い女の子じゃないから。

俺ががっくりと肩を落とす。

そうしたら、隣の彼がバーカ、なんて。
頭をクシャクシャにしてくる。

頭に触られた瞬間、彼の手の大きさと温もりに、ドキドキして。

……こんな惨めな気持ち、早く忘れなきゃ。

慌てて、彼によって乱れた髪を直すと同時に。
煩く騒ぐ心臓を落ち着かせるのに、必死になるのだった。


                   End

7/13/2024, 9:49:56 AM

これまでずっと


これまでずっと、君の幸せだけを願って、見守ってきた。

でも、君は泣いてばかりだね。
君を泣かせてばかりのあんな男より、俺を選んでよ。

俺なら絶対に、君を悲しませたりしないから。

……って、言えたなら良いのに、な。

でも、言えない。
だって、君はそれでも、君を泣かせてばかりの男のことが好きで。

君にとって、俺は何でも話せる相談相手で親友なんだ。
だから、そんな親友から告白されたら。
優しい君は、返事に困ってしまうでしょ。

悲しむ君を見たくない俺は、当然、困らせたりもしたくないから。

俺の君への気持ちは、今日も言えない。

「どうかしたの?」

……え。

「今日は君の方が泣きそうな顔してるよ」

なんて。
いつものように、彼の最低な恋人の相談に乗っている最中に。
君が俺に、心配そうな目を向けて見つめてくる。

「そうかな。大丈夫だよ、気のせいじゃない?」

そう、俺が慌てて作り笑いを浮かべてみせるけど。
目の前の君は、静かに首を左右に振って。

「僕、君のこといつも見てるからわかるよ。今、無理して笑ってる」

……なんで、そんなこと言うの?
いつも見てるなら、俺の気持ちにも気がついてよ。

そう言ってしまいたかった。
けど、絶対にそんなことはしない。

俺だけは、君にとって居心地の良い存在で有りたいから。

だから、俺は。

「俺のことは良いから。それより、今は君と彼の話だろ?」

これからもずっと、これまでと変わらず。
君を見守り続けるんだ。


                    End

7/11/2024, 11:18:56 PM

一件のLINE


『お前の恋人、無防備すぎ』

なんて。
幼馴染からの一件のLINE。
しかも、写真付き。

送られてきた写真は、俺の恋人が幸せそうな笑顔で、幼馴染に抱きついているところで。
それを自撮りして送ってきたみたいだった。

俺の恋人と俺の幼馴染と、俺の三人は同じ高校の同級生で。
今は俺だけが違う大学に通っていて。

恋人と幼馴染は今日、大学のサークルの飲み会だったらしく。
完全に酔っている恋人が、幼馴染に絡んだのだろうけど。

当然、そんなの面白くない。

俺以外の男に簡単に触れさせないでほしい。

なんて、無防備な恋人に対しては心配になるし。
見せびらかすようなLINEを送ってきた、幼馴染には苛立ちが募って。

俺は。

『どこにいるの?すぐ、そっち行く』

と、幼馴染に飲み会の場所を聞き出し。
急いで、恋人を向かえに行く。

「あ、やっとホンモノが来てくれたぁ」

なんて。
俺が行くと、酔った恋人の彼がふにゃりと笑って。
俺へと両手を広げてくるから。

「もう、飲み過ぎだよ。君、お酒強くないんだから」

本当はもっと、注意したい気持ちがあったけど。
ご機嫌で笑う彼が可愛くて、俺は思わず抱きしめてしまう。

「おっせぇーぞ。ホンモノの彼氏サン」

こいつ、ずっとお前の名前呼んでたんだぜ。
何かムカついたから、写真送ってやったんだ。
と、幼馴染がお酒片手に言う。

どうやら、あの写真も、酔った恋人が幼馴染と俺を間違えて抱きついてのことらしい。

……そうか、てことは写真の、彼のあの幸せそうな笑顔は、俺に向けられたものだったのか。

「顔、ニヤけてるぞ」

キモい、なんて。
幼馴染に冷めた視線を浴びせられるけど。

嬉しいんだから、しょーがないだろ。

今もニコニコとご機嫌で、俺の腕に自分の腕を絡めて離さない、可愛い恋人。

そんな彼の頭を撫でて、俺は。

「帰ろっか、俺達の家に」

すると、ニコニコの彼はもっと顔を輝かせて。

「うん!帰ろっ!」

抱っこして、と。
俺に甘えてくるのも、可愛い。

だから、俺は彼を背中におぶると。

「相変わらず、仲がよろしいことで」

そう言って、酒を煽る幼馴染に。

「ヤケ酒は程々にしとけよな」

「……うっせ。言われなくてもわかってるっつの。てか、俺は酒弱くねぇーから」

「まぁ、それもそうだな。でも無茶な飲み方はするなよ」

なんて。
俺は知っているから。

幼馴染も、俺の恋人である彼のことが好きだったことを。

だからきっと、俺と彼の関係を見て、傷付いているに違いない。

どうか、早く幼馴染にも素敵な恋人が出来ますように。


                    End

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