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4/25/2025, 11:45:15 AM

巡り逢い


「あの、傘忘れてますよ」

仕事帰り、電車を降りる寸前、そう声を掛けられて。
僕が振り返れば、1人の青年が。

なんだろう、見たことあるような……。

あ、と彼について、ふと思い出した瞬間、思わず声が出てしまった僕に。

「……この前は、ありがとうございました」

と、僕に傘を差し出し、頭を下げる彼。

彼と会ったのは、2回目で。
最初に会った時、電車内に、傘を忘れそうになっていた彼に、僕が声をかけたのだった。

で、今度は、僕が傘を忘れそうになるなんて。

そんな偶然があるのか、と。
驚いて、戸惑いながらも、僕もお礼を言って。
彼から傘を受け取る。

お互いに、電車を降りての遣り取り。

僕達が乗っていた、電車の扉が閉まる。

あ、と彼の方が焦った声を上げた。
どうやら、彼はここで降りるつもりは無かったらしい。

気まずい沈黙が流れて。

そして。

「もし良かったら、なんだけど。次の電車が来るまで話でもしようよ」

自販機ので申し訳ないけど、コーヒーでもどう?
と、何故か、彼に提案してしまう僕。

彼はそれに黙って、視線を彷徨わせるから。

断られるかな、と思いきや。

「嬉しいです。俺、ずっと、貴方と話してみたかったので」

なんて、熱っぽい視線を向けられた。

そう、これが、僕と彼の始まり。


End

4/21/2025, 6:51:39 AM

星明かり


星明かりに照らされて、君は静かに笑って言う。

僕、もうすぐ、あっちに行くよ、と。

突然の言葉に意味がわからなくて、俺が無言のまま、君を見つめていれば。

君はすっと、腕を伸ばして、夜空を指差した。

「……まさか、死ぬ、気とか、じゃないだろうーな?」

変なこと考えんじゃねぇーぞ、落ち着けよ、と。

俺の方が焦って、しどろもどろになっていると。

案の定。

「それを言うなら、お前の方が落ち着きなよ」

大丈夫、死ぬわけじゃないから、なんて。
可笑しそうに笑う君は、十数年間幼なじみとして過ごしてきた中では、見たことない顔をしているから。

俺は何が何だかわからなくなって、息を呑むしか出来ない。

そんな俺に、君は。

「死ぬんじゃない、帰るんだよ」

僕の生まれた、本当の故郷に。

そんな、耳を疑う、彼の言葉で。
俺達の幼なじみとしての、十数年間が音を立てて、崩れていく気がした。

「……お前は僕がいなくなるのは、寂しい?」

寂しいよ、そんなの寂しいに決まってるだろ。

そんな俺の気持ちを見透かした様に。

「じゃあ、僕と一緒に来る?」

なんて、甘い誘惑のような言葉に。

俺は何も考えること無く、一瞬の躊躇いも無く。
静かに決意を込めて、頷くのだった。


End

4/18/2025, 6:52:25 AM

静かな情熱


あ、コイツ、また僕の上に名前がある。

なんて、廊下に張り出された、成績表の順位を見て。僕はなんとなく、モヤモヤとした感情に支配される。

成績表が張り出されて、僕の名前を見つければ、自然と目に入る、彼の名前に。

隣のクラスのヤツだな。
どんなヤツなんだろう?

僕は自慢する程でもないけど、頭は良い方で。
そんな僕より、一つ上の成績の彼は、当然、僕よりも頭が良いワケだ。

やっぱり、真面目そうなヤツなのかな?

で、クラスでは中の下ぐらいの友達とつるんでる感じ、とか?

てか、これで、陽キャの、クラスで上位のヤツらと仲良くしてるようなヤツだったら、なんかムカつく。

……だって、僕が冴えない陰キャだから。
だからって、別に友達が居ないとかではないんだけど。

そんな風なことを考えて、成績表を見つめていたら。ふいに、今僕の頭を支配している、彼の名前がどこかから呼ばれるから。

僕が慌てて、その声の方へと振り向けば。

爽やかな香水の香りが鼻をくすぐって。
その香りに導かれる様に、視線を送ると。

その彼が、呼ばれた声に返事をしているから。

……コイツが、僕の一つ上の成績のヤツなのか。

なんて。
僕は軽く衝撃を受けた。

だって、ヤツは香水なんてつけて、髪も染めてて、どう考えたって、陰キャじゃない!

めちゃくちゃ、陽キャじゃん!

……なんか、めっちゃ負けた気分。
いや、成績ではもう負けてるんだけど。

がっくりと、肩を落とす僕。

そんな僕に、ふとある考えが浮かんだ。

次のテストでは、絶対、ヤツに勝ってやる。

きっと、陽キャのヤツは、僕なんて眼中にないんだろうけど。

でも、このまま負けっぱなしなのは、僕の気が済まないから。

もし、次のテストで、彼の名前の上に、僕の名前があったなら。
陽キャの彼は、少しでも、僕の存在を認識してくれるのかな。

そんな、淡い期待の様な気持ちには、気が付いてないフリをして。
僕は、ただただ、静かに闘志を燃やすのだった。


End

4/17/2025, 3:43:43 AM

遠くの声


なぁ、なんで泣いてんだよ?

そんなに泣くんじゃねぇーよ、男だろーが、お前は。


なぁ、そんなに名前呼ばなくて良いって。

今だって、お前の傍に居るし、声だって、ちゃんと聞こえてるから。


なぁ、いつまで、俺の写真抱きしめてんの?

そんなことされたら、俺だって、お前のこと抱きしめたくなんだろーが。
……まぁ、そんなの、もうどんなに願っても無理だってのは、わかってんだけど。


なぁ、もう良いよ、俺のことは忘れてくれて。

俺はお前に悲しんでほしいワケじゃねぇーし。
……まぁ、寂しい気もしなくはねぇーけどな。
でも、良いんだよ、お前には幸せになってほしいからさ。


なぁ、だから、もう泣くなって。
俺は、お前の笑顔が一番好きなんだよ。
だから、その顔が見られたら、俺はお前の傍から、旅立っていける気がすんだ。



End

4/16/2025, 3:51:38 AM

春恋


「ねぇ、君、この辺の中学出身なの?」

春風吹くみたいな、軽やかな声と。
ぱっと花が咲くみたいな、眩しい微笑みに。

僕は、一瞬で恋に落ちたんだ。

それからの僕は、君を直視出来なくて。
せっかくの会話も、目を逸らしての、たどたどしい感じになってしまう。

でも、春風の彼は、そんな様子を気にした風もなく、明るく話を振ってくれるから。

嬉しくて、胸が熱くなる。
思わず、胸を押さえて、俯いてしまう僕に。

「大丈夫?具合悪い?」

それに、大丈夫、と答えるので精一杯な僕を、君がじっと見つめてきているのが、気配でわかって。
僕はドキドキして、益々、顔が上げられない。

「ねぇー?顔見たいな、見せてよ」

なんて、君からのお願いに。
僕は躊躇うけど、そうしたら、顔を覗き込もうとしてくるから。
顔の近さに驚いて、僕は顔を上げた。

ぱちっ、と。
春風の彼と、僕の目が合う。

緊張で固まる僕に、何故か目を見開く君。

そして。

「俺、君のこと、もっと知りたいかも」

なんて、熱っぽい彼の声と表情に。
僕はただ、ドキドキしていた。


End

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