元気かな
お前は最近どうかな?
元気でやってる?
俺は元気でやってるよ。
仕事が忙しくて、毎日があっという間なんだ。
お前の方はどう?
お前の方こそ、俺なんかより忙しくしてるんだろうな。
無理はするなよ、お前は人一倍責任感が強いんだからさ。
俺のことは心配しなくても、大丈夫。
俺はさ、お前と違って、いいかげんだからさ。
てきとーになんとかやってるよ。
……って、ごめん、ちょっと嘘吐いた。
毎日、忙しいし、あっという間なんだけど、一人の夜は長く感じるよ。
お前はどう?
元気でやっててほしいけど、お前もちょっとぐらい、俺と同じ気持ちだったら良いんだけどな。
End
遠い約束
『ねぇ、いつか、俺をここから連れ出してね』
それはそれは、叶えられるはずのない、無謀な約束。
幼い、俺と君の、遠い約束。
もうどれぐらい時が過ぎただろう。
ベッドから、眺める景色が何度も春夏秋冬、過ぎて行って。
変化にも、何も感じなくなってきた、この頃。
君の顔さえ、思い出してみても、何も感じない。
最初の頃は、悲しくて、嬉しくて、涙が溢れていたのに。
……でも、きっと、これで、良いんだ。
君には、俺のことなんて忘れて、自由に生きてほしいから。
だから、これで良い、のに。
「……っ、何、泣きそうになってんの、俺」
涙なんて、もうとっくに枯れちゃったと思ってたのに。
何も感じないなんて、ほんとは嘘だ。
ほんとは。
「……一人は寂しいよ、迎えに来てよ」
そう、俺が思わず、感情を吐き出した時のこと。
ずっと、開かなかったドアが開いて。
反射的に、俺がそっちを見れば。
「約束、果たしに来た。俺とここを出よう?」
なんて。
俺の目の前には、ずっと待ち続けてきた、君がいて。
目を見開いて、固まる俺をそっと抱きしめてくるから。
俺は泣いた。
こんなに、大声を上げて泣いたのは、君とあの約束をした日以来だった。
End
またね!
またね!
君は軽快に笑って、僕へと手を振って、駆けて行く。
それが、君からの僕への最後の言葉になるなんて、知らずに。
君は死んでしまった。
事故だった。
もし、時間が巻き戻せるなら。
あの時に戻って、絶対に君を行かせたりしないんだ。
だから、どうか……。
「またね!」
君の軽快な声に、はっとする僕。
……何が、どうなってるん、だ?
「何、キョトンとしてるんだよ?」
そんな可愛い顔してたら、ちゅーしちゃうぞ?
と、目の前の彼が、顔を近づけてくるから。
状況が読み込めない僕は、固まったまま。
すると、益々彼の顔が近づいて。
ちゅっ、と。
僕の唇にキスを落とした。
その感触が、ひどく鮮明で。
僕はわけがわからないまま、涙を流した。
「……ねぇ、もっとして?」
そして、どうか。
もう、僕を置いていったりしないで。
End
春風とともに
綺麗だな。
頭上の、満開の桜の花を眺めていたら。
突如、強い風が吹いて。
それは一瞬で、僕の全身をぶわっと呑み込んで。
かと思ったら、一瞬で去っていく。
咄嗟に目を瞑っていた僕が、目を開くと。
目の前には、さくらの花びらを手にした君がいて。
きょとんとしている僕に、君は。
「髪に着いてたよ、これ」
と、手にしていた、花びらを見せてくる。
でも、僕はというと、何だか信じられない気持ちで。
というのも、目の前の彼は、幼なじみで、僕の大切な人。
彼と一緒に過ごせるだけで、僕はいつだって幸せだった……のに。
去年の、丁度今頃。
君は、ボールを追いかけて車道に出てしまった子供を庇って亡くなってしまったんだ。
だから。
「な、なんで、君が、ここに?」
驚きを隠せない僕に、君はイタズラが成功して喜ぶ子供みたいに笑って。
「春風に乗って、お前に会いに来たんだよ」
なんて、彼の言葉と同時に、また風が吹く。
桜の花びらが舞う中、微笑む君が、僕の前に春を告げにやってきたのだった。
End
涙
僕はよく泣く。
悲しくても、嬉しくても。
特に君の言葉は、僕の胸を強く揺さぶるから。
君は、僕からすれば怖いくらい真っ直ぐでぶれない人だから。
そんな君の隣に、僕なんかがいても良いのかな、なんて。
いつも不安で、不安ばっかりの自分が嫌いだから。
君もこんな僕なんて、嫌いになるんじゃないかって。
だから、君といると、僕は泣く。
悲しくて、嬉しくて。
「もう、泣かなくても良いってば」
そう言って、涙が止まらない僕の頭をクシャクシャと撫でる君の声は、呆れ気味。
でも。
「そんなとこも、可愛いけどさ」
なんて、彼の言葉に俯いていた顔を上げれば、唇にそっと、キスを落としてくれるから。
やっぱり、僕は泣く。
嬉しくて、嬉しくてたまらなくて。
そして。
涙ながらに、僕は彼へと。
「っ、ありがと、うっ」
すると、満足そうに笑う彼は。
「うん。やっぱ、お前の笑顔はもっと可愛いよ」
と、また涙が溢れる僕の頭をワシャワシャと、撫でるのだった。
End