未来図
君の描く未来図に、僕はいるのかな。
願わくば、どんな形であってもかまわないから、君を見守らせてほしいんだ。
頑張り屋で、涙脆くて、おっちょこちょいで、いつも優しい君だから。
頑張り過ぎてないかな?
今、泣いてないかな?
怪我とかしてないかな?
自分でも気が付かない内に、我慢しちゃってないかな?
とか、君のことを考えると、心配事にキリがなくて。
だから、どうか、君の未来に、僕をいさせてほしい。
そして、我儘が許されるのなら、君の幸せそうな笑顔を、いつまでも眺めさせてほしいんだ。
それが、僕の描く、幸福な未来図だから。
End
ひとひら
ひとひらの花びらが、目の前を歩く、俺よりだいぶ身長の低い彼の頭に落ちるから。
あ、と気が付くなり、俺は彼の頭に手を伸ばしていて。
そのまま、そっと、頭の上の花びらを掴めば。
彼がくるりと、振り返って。
「なんだよ、チビだってバカにしてんのか?」
あぁ?なんて、凄んでみせてくるけど。
俺からすれば、小型犬が可愛く吠えているようにしか見えないから。
堪らず、彼の頭をくしゃくしゃと撫でてしまう。
それに、益々、小さな彼はぶつくさと文句を言ってくる。
顔を真っ赤にした彼が、やっぱり可愛くて。
俺の心に、ひとひらの淡い気持ちが募った。
End
元気かな
お前は最近どうかな?
元気でやってる?
俺は元気でやってるよ。
仕事が忙しくて、毎日があっという間なんだ。
お前の方はどう?
お前の方こそ、俺なんかより忙しくしてるんだろうな。
無理はするなよ、お前は人一倍責任感が強いんだからさ。
俺のことは心配しなくても、大丈夫。
俺はさ、お前と違って、いいかげんだからさ。
てきとーになんとかやってるよ。
……って、ごめん、ちょっと嘘吐いた。
毎日、忙しいし、あっという間なんだけど、一人の夜は長く感じるよ。
お前はどう?
元気でやっててほしいけど、お前もちょっとぐらい、俺と同じ気持ちだったら良いんだけどな。
End
遠い約束
『ねぇ、いつか、俺をここから連れ出してね』
それはそれは、叶えられるはずのない、無謀な約束。
幼い、俺と君の、遠い約束。
もうどれぐらい時が過ぎただろう。
ベッドから、眺める景色が何度も春夏秋冬、過ぎて行って。
変化にも、何も感じなくなってきた、この頃。
君の顔さえ、思い出してみても、何も感じない。
最初の頃は、悲しくて、嬉しくて、涙が溢れていたのに。
……でも、きっと、これで、良いんだ。
君には、俺のことなんて忘れて、自由に生きてほしいから。
だから、これで良い、のに。
「……っ、何、泣きそうになってんの、俺」
涙なんて、もうとっくに枯れちゃったと思ってたのに。
何も感じないなんて、ほんとは嘘だ。
ほんとは。
「……一人は寂しいよ、迎えに来てよ」
そう、俺が思わず、感情を吐き出した時のこと。
ずっと、開かなかったドアが開いて。
反射的に、俺がそっちを見れば。
「約束、果たしに来た。俺とここを出よう?」
なんて。
俺の目の前には、ずっと待ち続けてきた、君がいて。
目を見開いて、固まる俺をそっと抱きしめてくるから。
俺は泣いた。
こんなに、大声を上げて泣いたのは、君とあの約束をした日以来だった。
End
またね!
またね!
君は軽快に笑って、僕へと手を振って、駆けて行く。
それが、君からの僕への最後の言葉になるなんて、知らずに。
君は死んでしまった。
事故だった。
もし、時間が巻き戻せるなら。
あの時に戻って、絶対に君を行かせたりしないんだ。
だから、どうか……。
「またね!」
君の軽快な声に、はっとする僕。
……何が、どうなってるん、だ?
「何、キョトンとしてるんだよ?」
そんな可愛い顔してたら、ちゅーしちゃうぞ?
と、目の前の彼が、顔を近づけてくるから。
状況が読み込めない僕は、固まったまま。
すると、益々彼の顔が近づいて。
ちゅっ、と。
僕の唇にキスを落とした。
その感触が、ひどく鮮明で。
僕はわけがわからないまま、涙を流した。
「……ねぇ、もっとして?」
そして、どうか。
もう、僕を置いていったりしないで。
End