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遠い約束


『ねぇ、いつか、俺をここから連れ出してね』


それはそれは、叶えられるはずのない、無謀な約束。

幼い、俺と君の、遠い約束。


もうどれぐらい時が過ぎただろう。
ベッドから、眺める景色が何度も春夏秋冬、過ぎて行って。
変化にも、何も感じなくなってきた、この頃。

君の顔さえ、思い出してみても、何も感じない。
最初の頃は、悲しくて、嬉しくて、涙が溢れていたのに。

……でも、きっと、これで、良いんだ。

君には、俺のことなんて忘れて、自由に生きてほしいから。

だから、これで良い、のに。

「……っ、何、泣きそうになってんの、俺」

涙なんて、もうとっくに枯れちゃったと思ってたのに。

何も感じないなんて、ほんとは嘘だ。

ほんとは。

「……一人は寂しいよ、迎えに来てよ」

そう、俺が思わず、感情を吐き出した時のこと。

ずっと、開かなかったドアが開いて。

反射的に、俺がそっちを見れば。

「約束、果たしに来た。俺とここを出よう?」

なんて。
俺の目の前には、ずっと待ち続けてきた、君がいて。
目を見開いて、固まる俺をそっと抱きしめてくるから。

俺は泣いた。
こんなに、大声を上げて泣いたのは、君とあの約束をした日以来だった。


End

4/9/2025, 10:48:01 AM