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星明かり


星明かりに照らされて、君は静かに笑って言う。

僕、もうすぐ、あっちに行くよ、と。

突然の言葉に意味がわからなくて、俺が無言のまま、君を見つめていれば。

君はすっと、腕を伸ばして、夜空を指差した。

「……まさか、死ぬ、気とか、じゃないだろうーな?」

変なこと考えんじゃねぇーぞ、落ち着けよ、と。

俺の方が焦って、しどろもどろになっていると。

案の定。

「それを言うなら、お前の方が落ち着きなよ」

大丈夫、死ぬわけじゃないから、なんて。
可笑しそうに笑う君は、十数年間幼なじみとして過ごしてきた中では、見たことない顔をしているから。

俺は何が何だかわからなくなって、息を呑むしか出来ない。

そんな俺に、君は。

「死ぬんじゃない、帰るんだよ」

僕の生まれた、本当の故郷に。

そんな、耳を疑う、彼の言葉で。
俺達の幼なじみとしての、十数年間が音を立てて、崩れていく気がした。

「……お前は僕がいなくなるのは、寂しい?」

寂しいよ、そんなの寂しいに決まってるだろ。

そんな俺の気持ちを見透かした様に。

「じゃあ、僕と一緒に来る?」

なんて、甘い誘惑のような言葉に。

俺は何も考えること無く、一瞬の躊躇いも無く。
静かに決意を込めて、頷くのだった。


End

4/21/2025, 6:51:39 AM