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巡り逢い


「あの、傘忘れてますよ」

仕事帰り、電車を降りる寸前、そう声を掛けられて。
僕が振り返れば、1人の青年が。

なんだろう、見たことあるような……。

あ、と彼について、ふと思い出した瞬間、思わず声が出てしまった僕に。

「……この前は、ありがとうございました」

と、僕に傘を差し出し、頭を下げる彼。

彼と会ったのは、2回目で。
最初に会った時、電車内に、傘を忘れそうになっていた彼に、僕が声をかけたのだった。

で、今度は、僕が傘を忘れそうになるなんて。

そんな偶然があるのか、と。
驚いて、戸惑いながらも、僕もお礼を言って。
彼から傘を受け取る。

お互いに、電車を降りての遣り取り。

僕達が乗っていた、電車の扉が閉まる。

あ、と彼の方が焦った声を上げた。
どうやら、彼はここで降りるつもりは無かったらしい。

気まずい沈黙が流れて。

そして。

「もし良かったら、なんだけど。次の電車が来るまで話でもしようよ」

自販機ので申し訳ないけど、コーヒーでもどう?
と、何故か、彼に提案してしまう僕。

彼はそれに黙って、視線を彷徨わせるから。

断られるかな、と思いきや。

「嬉しいです。俺、ずっと、貴方と話してみたかったので」

なんて、熱っぽい視線を向けられた。

そう、これが、僕と彼の始まり。


End

4/25/2025, 11:45:15 AM