星空
「あぁー、なぁんも見えねぇーじゃん」
田舎から都会に出てきて、始めての夜。
俺は小さなベランダに出て、一人缶チューハイ片手に、空を見上げる。
だけど、夜空は真っ黒で、星は一つも見当たらない。
でも、真っ暗じゃなくて。
街灯やらネオンの看板やらの光で、明るいから。
その賑やかな輝きが、今の俺にはちょっとだけ寂しい。
いつかは、この景色に慣れてくんのかな。
田舎に居た時だって、星が夜空一面に見えるなんてことは無かったけれど。
でも、人工的な明かりの無い夜に、星がぽつぽつと見えた、あの夜空が恋しいような。
そんな気分になってくるから。
俺は寂しさを流し込むように、缶チューハイを煽った。
でも、酔いが回ってくると。
一人なのが、もっと寂しい。
普段一人でお酒なんて飲まないし、飲む時はいつも、アイツが一緒だった。
……声、聞きてぇ。
田舎ではいつも一緒だった彼へと、電話をすれば。
直ぐに繋がって。
『どした?まさか、もうホームシックになってんの?』
「……んー、別にそういうんじゃねぇしー」
『お前酒飲んでんな?そんな強くねぇーんだから程々にしとけよ』
お前がしんどくなっても、俺、面倒見てやれねぇーんだからさ。
なんて、そんな寂しいことを彼が言うから。
俺が思わず黙り込めば。
『どしたー?もしかして寝ちゃった?』
「……寝てねぇし。ちょっとしんみりしてただけだし」
そんな、俺の不貞腐れた言い方に。
彼が、ぶはっと吹き出す様に笑って。
『あははっ。やっぱ、お前ホームシックになってんじゃん、はやくね?』
「うっせ。違うんだよ……帰りたいとかじゃなくてさ、お前の顔見てぇーなって思ってただけっ!」
なんて。
俺が正直な気持ちを口にしてみると。
今度は、彼の方が黙って。
電話越しに、息を呑んだのが伝わってきた。
そして。
『バーカ。んなの、俺もだよ』
だから、お前からの電話だって直ぐに出たし、と。
少し照れながら、彼もそんなことを打ち明けてくれるから。
一緒かよ、って。
二人して笑い合う。
今度、田舎に帰ったら。
彼と二人で夜空を見上げて、お酒を飲むのも悪くなさそうだ。
そんなことを想像すれば、不思議と寂しさは消えていた。
End
7/6/2024, 2:41:44 AM