「どうでしょう?」
ハロウィン用のコスプレ衣装を身にまとった恋人が俺の前でクルンと一周回る。
ふわりと動く短いスカートが俺の目には眩しい。
「可愛いですか?」
「可愛いけれどスカート短過ぎ!」
「えー、可愛いじゃないですかー?」
「可愛いよ。可愛いけれど、素足にその短いスカートはダメー!」
そもそもとして色素の薄い彼女が、更に白をイメージした衣装。ふわっとした柔らかそうな布の短いスカートは俺にとっては大変目に潤いを与えてくれる。
彼女は再びクルンと一回りするとスカートと一緒に羽根も揺れる。
いや、この時期とはいえ、スカートは勿論だけれど根本的に露出高いんだよな。
幼さが残る顔なのに、プロポーションはとても良いからこんな格好したら他の男共の視線も集めちゃうじゃん。
「でもなんでハロウィンに天使なの?」
「え、みんなで可愛いからこれにしよって」
うっ。
〝みんなで〟と言われてしまうとダメと言いにくくなるじゃん。
「衣装は同じで色違いにして、他の部分はみんな変えているんです。羽根とか、靴とか」
楽しそうにそう言ってくれるんだけれど、俺としては許容しにくい。
「ダメですか?」
眉を八の字にして、悲しそうな表情で見上げる。
ズルいですよ、その顔は。
俺は両手を上げる。
「わかった。せめて素足はやめて。あとスパッツ履いて」
俺ができる最大の譲歩を提示する。
さて、ここから駆け引き開始だ。
おわり
五二七、揺れる羽根
俺は自分のズボンのポッケをさすると、ポッケの片隅にそっと入れてある秘密の箱。
と言っても俺にとっては秘密でもなんでもない。でも、かけがえのないほど大切なもの。
細かいことは事前に聞いていたから問題ないんだ。
色々と特別に話し合って依頼して、ようやく届いた特別なもの。
帰ったら恋人に渡そうと思っているけれど、喜んで……くれるよね?
彼女が受け取ってくれた時、どんな表情をするのか少し怖い。嫌な顔されたり、そもそも受けとってくれなかったらどうしよう。
少しだけ胸がドキドキして冷や汗が出るけど深呼吸して心をおちつけると静かな時間が流れた。
「ただいま帰りましたー!!」
玄関から愛しい彼女の声が響き渡る。
心臓が飛び出そうなほどびっくりしたけど、満面の笑顔で飛び込んでくる彼女に嬉しくて抱きしめてしまった。
「ふふふー」
「おかえり、お仕事お疲れ様」
ご機嫌な彼女。
さぁ、どのタイミングで彼女に秘密の箱を渡そうか。
おわり
五二六、秘密の箱
「無人島に行くならば、どうしたい?」
ソファに座りながら、そんな質問を恋人にしてみた。
彼女は人差し指を口元に当て、ふーむと視線を上に向ける。
少し口を尖らせているのが、とても可愛らしい。
でも少しだけ寂しそうな顔をして俺を見つめる。
「ひとりなら行くのヤです」
彼女は俺の正面に座ってゆっくりと首元に腕が絡まったかと思うと、きゅっと強く抱き締めてくれる。
「あなたと一緒がいい」
鼻が詰まったような声が、俺の耳元で囁かれた。
おわり
五二五、無人島に行くならば
つい数日前までは夏の暑さを感じていた。
ようやく秋の風を感じていたと思っていたんだけれどな……。
「寒いー!!」
恋人が空気の入れ替えのために窓を開けると、あまりの外気の寒さにピシャリと扉を閉めて叫んでいた。
「秋、どこ行っんでしょうか……」
しょんぼりした表情は、動物だったら耳がぺしょりとタレ落ちたみたい。
「過ごしやすい季節だからねぇ」
俺は彼女の手を取って指を絡める。彼女は驚きつつ俺を見つめてくれた。
「こうやって手を繋いでも暑くないからね」
少し目を丸くするけれど、満面の笑みを向けてくれる。
「そうですね!」
きゅっと俺の手を握り返してくれた。
おわり
五二四、秋風
俺には気になる人がいる。
怪我をしたのをきっかけに出会った彼女で、見た目通りにおっちょこちょいだからしょっちゅう病院に来ていてさ。俺が当直のタイミングで来るから顔を覚えちゃったんだ。
自然と挨拶するようになったし、本当によく怪我してくるから心配になって彼女を追うようになっていた。
そして、少しづつ強くなって行く彼女を見守ることになる。怪我も減って病院に来なくなり、この都市にも慣れて友達が増えていく彼女に寂しさを覚えたんだ。
俺が、見守っていたのに……。
心の中に寂しさと一緒にトゲのようなものが抜けなくて、ずっと引っかかる。
それは何かに落ちる予感をさせていた。
おわり
五二三、予感