とある恋人たちの日常。

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5/16/2025, 11:27:16 AM

 
 どうしよう……と悩むこと一週間。
 俺ひとりで決められることじゃないから、こんなに悩んでも仕方がないんだけれどさ。
 
 悩んでいるのは家のこと。
 
 先日、奥さんが新しい命を授かり、家族が増えると言う最高の幸せを噛み締めていた。
 
 そうなると、家が手狭に感じてしまう。
 その理由も簡単で、今住んでいる家はワンLDKの狭い部屋だ。普段は居間にいることが多いから寝室があれば十分なんだよね。
 
 子供ができたとなると今の家だと厳しいのはお察しなんだけど、今の家に思い出があってどうしても手放す気になれない。
 彼女もそれがあるから、家のことを話してこないのだと思う。でも妊婦さんに引越しをさせるのは大変だから、本当に急がなきゃダメだ。
 
 そんなことを考えながら、今日は家に帰ったら彼女に相談しようと思った。
 
 
 
おわり
 
 
 
三六五、手放す勇気

5/15/2025, 1:21:33 PM

 
 今日の仕事はとても疲れた。
 
 家に帰って恋人に癒してもらったけれど、身体はそうはいかなかった。
 俺は何故か暗闇の中で手を動かそうとしたけれど、重苦しくて動かせない。
 
 なんだろう。
 ここは……どこなんだろう。
 身体も上手く動かせないし、泥沼の中に沈んでいるみたいだ。かき分けても身体は重くなるばかりで……。
 もがいてももがいても暗闇に飲まれていく。
 
 ぱしんっと手を握られたと思ったら、身体を引き上げられたような感覚になった。
 
「大丈夫ですか!?」
 
 明確に俺を心配する声が耳に入り、光が差し込んで恋人の顔が視界いっぱいに広がる。
 不安そうな表情が俺をとらえて……安心したように笑顔になってから俺を抱きしめてくれた。
 
 暖かな体温に安心して俺も抱きしめ返す。
 
「大丈夫ですか?」
「……うん」
「うなされてました」
「……そう、かも」
 
 彼女は身体を離してから、再び柔らかいほほ笑みを俺に向けてくれた。
 
 俺は手を伸ばして彼女の頬に手を触れる。彼女は俺の手に自分の手を重ねて擦り寄せてくれた。
 愛おしい人の感触が手に広がって、俺の心に穏やかな光が灯る。
 
「起こしてくれて、ありがとう」
 
 それだけ伝えて、もう一度彼女を抱きしめた。
 
 
 
おわり
 
 
 
三六四、光輝け、暗闇で

5/14/2025, 12:22:36 PM

 
 仕事に追われて余裕がなくなってくる。冷静にならなきゃダメなのに、それが難しくなってきていた。
 出動の連絡が入る。
 俺は着替えて準備を行い、出動した。
 
 そんな感じで今日の仕事は中々休憩が取れないうえ、残業してようやく落ち着いたから家に帰る。
 
 体力的には余裕はあっても、なんというか息苦しい。身体も足も重いからより窮屈感があった。
 
「ただいまぁ……」
 
 家の玄関を開けて小さくそう言うと、奥から恋人がすっ飛んで来て、俺の胸に飛び込んでくる。
 
「おかえりなさいっ! 心配しました!!」
 
 心配?
 あ。
 俺はスマホを取りだすと、画面に通知があった。
 
『遅くなりますか?』
『なにかありましたか?』
『電話ください』
 
「あああああ、ごめん。仕事が忙しくて余裕なくて見てなかった」
 
 彼女は俺の身体を力強くぎゅうううっと抱きつく。
 
「いいです、無事なら。おかえりなさい」
 
 力を抜いてから俺を見上げ、ふわりと笑ってくれる彼女を見ていると内側から込み上げてきて、俺も彼女を抱きしめて顔を埋めた。
 
「ただいま」
「うふふ。おかえりなさい」
 
 今度は優しく抱きしめてから、俺の背中をポンポンと軽い力で叩いてくれる。
 彼女の温もりを身体で感じていると心が軽くなって、澄んだ空気が身体に入り込んだ。
 
 力を抜いて、改めて彼女の顔を見ると、嬉しそうに微笑んでくれた。
 
 ああ、癒される。
 
 
 
おわり

 
 
三六三、酸素

5/13/2025, 1:27:44 PM

 
「そういえばさ、いつから俺のこと好きになったの?」
「ふえ!?」
 
 ソファに座って彼女に質問をすると、飛び跳ねるくらいにびっくりしていた。
 
「え、そんなに驚く?」
「いや、だっていきなり言うんだもん……」
「あ、ごめん。いきなりじゃなくてね」
 
 俺はデジタルフォトフレームを指した。
 
「帰ってくる前にフォトフレームの写真を見ていたんだけど古いのがあってさ。付き合うかなり前のイベントのやつ。俺、あのイベントに君が居たの知らなかったからビックリしちゃって」
「イベント……?」
 
 彼女は眉間に皺を寄せて思考をめぐらせている。そしてなにかに思いついたようだった。
 
「あの写真、入ってたんてすか?」
「え、入れたんじゃないの?」
「違います、抜き忘れました!!」
 
 それ、俺に言っていいのかな?
 
 慌てる彼女を横目にそんなことを思った。
 彼女はスマホを取り出してデジタルフォトフレームの写真を確認し始める。指でスライドしまくっていた。
 横からスマホの画面を覗くと大量の写真が流れている。
 
 凄いな。
 まるで俺たちの記憶の海みたいだった。
 
 
 
おわり
 
 
 
三六二、記憶の海

5/12/2025, 11:18:39 AM

 
 うーん。
 少しだけ胃がムカムカするというか……。
 
 俺は病院の裏にある公園でひとり座っていた。
 都会の喧騒の中でひとりで天を仰ぐ。眩い光が差し込んで暖かいけれど、心の中にあるトゲが身体を冷やしていた。
 
 そうだな。
 俺は今、怒っているんだ。
 
 目を閉じて深くため息を着く。
 脳裏に浮かぶのは、想いを寄せる彼女のなんとも言えない顔だった。
 呆れたような、悔しそうな顔。
 
 いつもキラキラとした笑顔を見せてくれる彼女。
 先日、悩みを聞いたら想像より重い相談が来て驚いた。あの時も悲痛な表情を初めて見て胸が締め付けられた。
 
 今回は、同期の友人が何度も何度も人に迷惑をかけていて……。公正して欲しくて手を差し出していたのに、彼女の友人はそれを無碍にしていた。
 
 その事を知ったのはたまたま見かけて話を聞いた時に、その友人について相談されたからなんだけれど……。
 
 ダメだな。
 時間が経てば経つほど腹が立ってくる。
 
 本当に彼女を面倒なことに巻き込まないで欲しい。
 
 医者としてじゃなく、ひとりの人間として思う。
 俺は彼女に笑って欲しいのに。
 
 ただ彼女だけには――
 
 
 
おわり
 
 
 
三六一、ただ君だけ

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