部屋がいつも以上に広く感じる。
というのも、今日は恋人が会社の友人たちと旅行に行ってしまった。
元々決まっていた予定だから特に何か思うことじゃないのだけれど……。
「さみしいー……」
俺は小さく呟きながらソファにゴロンと寝転がる。
俺が出張している時にも寂しさはあったんだけど、普段ふたりで過ごす家に独りで居るのは寂しさを加速させた。
それどころか、彼女の体温を欲してしまい、人恋しさ極まってる。
彼女は彼女で楽しい時間を過ごしているのは分かっているけど……。
「あー、会いたいー……」
毎日会ってる。
毎日抱きしめあってる。
それだけに会えないことが、こんなに心が冷えるとは思わなかった。
俺は身体を起こして立ち上がって外を見つめると夜空が広がる。星がきらきらと煌めいて、その輝きが彼女の嬉しそうに笑う時の瞳を思い出した。やっぱりきらきらしていて……それが愛おしい。
きらきらきらきら。
ポコン。
スマホから音が鳴る。そのままスマホを覗くと彼女からのメッセージが届いていた。
『今夜は星がきれいですよ!』
そのメッセージを見て笑ってしまった。
どんなに離れていても同じ星空を見ているんだな。
俺はスマホのメッセージを返す。
「奇遇だね、俺も見てたよ。会いたいねっと」
送信した後、もう一度ソファに座って瞳を閉じた。
帰ってきたら離れていた分の補給をさせてもらおう。
おわり
三四五、どんなに離れていても
先日、想い人とようやくお付き合いができるようになって、少し舞い上がっていた。
ああ、彼女に会いたいな。
とはいえ、彼女は俺の事情を考えてしまい、わがままを言わないタイプ。俺が彼女に惹かれたところでもあるんだけど、もう少しわがまま言って欲しい気持ちがある。だから先日、そう伝えた。
そう言えば、今週は会えていないなぁ……。
……会いたいな。
そんなことを考えているとスマホが震える。咄嗟にスマホを見ると彼女からの電話だった。
「どうしたの?」
『あ、おはようございます』
「うん。おはよ」
『声が聞きたくなって……電話かけちゃいました!』
誇らしく言い切る彼女なんだけど、その内容があまりにも大したことないと言うか、些細と言うか、規模が小さくて顔がにやけてしまう。
それが彼女の精一杯だと言うのも分かるから吹き出さないよう必死でこらえた。
『私、頑張ってわがまま言ってみました!』
電話越しでもドヤァッと胸張って鼻高々としている彼女の姿が想像ついて口を抑えた。そうしないと吹き出しちゃう。
「嬉しいよ」
『えへへ、私も声が聞けて嬉しいです』
胸が暖かくなる。
本当に大したことないのに、これすら彼女の全力のわがままなのだから愛しさが込み上げる。
「ねえ、声だけでいいの?」
『え!?』
「俺に会いたくないの?」
『あ……えっと……会いたいです!』
即答できないのが実に彼女らしい。でも決めたら言い切るもんだから口角が上がる。
「会いに来てよ」
『え!?』
「会いたい」
俺もわがままを言ってみる。俺もこれくらいのわがまま言うんだから、彼女にも言って欲しい。
その思いが伝わったのか、電話越しに彼女も少し考えている。
『……えっと。こ、こっちに来てください』
おっと?
躊躇いながらもわがままを言ってくれて、俺は嬉しくなる。
「分かった」
『え!?』
ほら、人の良さが出ちゃってる。
「なんで、驚くの?」
『だって……迷惑じゃ……』
「俺に会いたくないの?」
『会いたいです!』
「ブハッ!」
『え、なんですか!?』
もう笑いを耐えられずに笑ってしまった。
「ううん、嬉しいよ。今から会いに行くね」
『……はい』
「じゃ、また後で」
『はい……あの!』
「うん、どうしたの?」
躊躇いながらも息を飲みハッキリと言葉にしてくれた。
『気をつけて、来てくださいね』
精一杯のわがままだけれど、本当の心配の気持ちを俺に伝えてくれる。
「……ありがとう、すぐ行くね」
『はい、待ってます』
俺はタイミングを見て許可をもらい、彼女のいる職場にバイクを走らせた。
おわり
三四四、「こっちへ恋」「愛にきて」
今思うと「縁」って間違いなくあったと思うんだ。
救急隊に入って、先輩から色々教えて貰っている時に助けたのが彼女だった。
おっちょこちょいなのか、不幸体質なのか。彼女はよく怪我をして俺が当番の時に病院に来て話をするようになった。
彼女の職場にはちょっと怖い人も来るから、少し心配になって話しかけていくうちに、彼女と好きなものや、好きな色が同じで嬉しくなった。
何度も何度も巡り逢ううちに、彼女に惹かれていく自分に気がつく。
接客業の彼女は他の異性とも話す機会が多くて。その屈託のない笑顔は、たくさんの人の心を掴んでいっているのは知っていた。
それと同時に胸に刺さる痛みも。
こんな感情を持つなんて思わなかった。
自分の気持ちに戸惑いながらも、俺は彼女との距離を詰めたいのに、彼女の迷惑にもなりたくなくて距離を取った。
そうすればそうするほど、蓋をしていた気持ちが溢れてしまう。
そしてまた。
偶然、君と巡り逢ってしまうんだ。
ねえ。
俺は君に、手を伸ばしても……いい?
おわり
三四三、巡り逢い
彼女が作ってくれた朝ごはんをしっかりいただいて、ソファに座った。もちろん彼女を腕に抱きしめながら。
「あの……」
「なに?」
「私……この状態でいいんですか?」
ソファに座った俺の上に、彼女を抱きあきげて、腰に腕を回して逃がさないようにしていた。
「うん」
「重く……ないですか?」
「全然。あ、離す気はないよ?」
食い気味で彼女にそう告げると、少し困った顔をしながらも俺の肩に頭を乗せてくれた。諦めて俺に体重を預けてくれたのは嬉しい。
昨日、心身共に疲れ切っていたようで、彼女を充電しないとダメなくらい疲労していた。彼女の温もり、香りが心地いい。
彼女は体重を心配していたけれど、そんなに心配するほど重たいわけじゃない。実際、彼女は平均的な体重だと思うんだよな。
彼女を抱きしめていると、彼女の手が俺の頭に置かれて撫でてくれる。
「いつも、お疲れ様です」
「ん……」
彼女の手が心地よくて、瞳をとじて意識を手放したくなる。やっぱり彼女と一緒にいるこういう時間が安心するんだ……。
穏やかな気持ちで眠気に襲われて、少し身を任せてしまった。
しばらく時間が経っただろうか。
かくんっと浮遊感に襲われて目が覚めた。
「ごめん、寝てた?」
「あ、はい。でも、ほんの一瞬ですよ?」
これはまずい。
思った以上に彼女の体温を欲してしまう。
俺は彼女を抱き上げて隣に座らせる。自分の身体を伸ばして上半身を動かした。
「どうしましたか?」
「いや、どこか行こう。今日は甘えきっちゃう」
彼女はきょとんとしたけれど、すぐに柔らかい微笑みをくれた。
「甘えてもいいんですよ?」
「……うん、夜に甘える」
俺はそう言いきって彼女に手を伸ばす。くすくすと笑いながら俺の手を取ってくれた。
「じゃあ、どこへ行きましょうか?」
おわり
三四二、どこへ行こう
「無理、しないでくださいね」
優しく耳元で囁かれるいとしい人の優しい声。
眠りの海から浮かびかけていた俺が目を覚ますのには十分な甘い言葉だった。
目を覚ますと、覗き込んでいた彼女と目が合う。俺が目を覚ましたことに彼女は驚いて目をぱちくりさせていた。
「おはようございます」
「ん……おはよ」
身体を起こす前に彼女に手を伸ばす。彼女に触れてから、抱き寄せてベッドにまた転がった。
「うわっ!!」
彼女を抱き潰して、恋人の体温、香りを堪能する。彼女の温もりを覚え、彼女が手元からなくなって時間が経っていた事を理解させた。
「結構離れてた?」
「朝ごはん作ってました。もうできましたよ」
「そんなに寝入ってたんだ」
眠る時に彼女から離れると不安になる。肌を重ねてからすぐにそれがあると思い知り、それ以降は彼女を抱き枕にさせてもらっていた。
それなのに、こんな離れていたことに気が付かないほど寝入っていたのは正直不覚だ。
「ごはん……食べない?」
腕の中であどけなさを残して首を傾げる彼女。こんな可愛い顔をされたら、食べないなんて選択肢、生まれるはずないよ。
もう少し彼女の温もりを堪能したかったけれど、俺は身体を起こすことに決めた。
「……食べる」
「良かったぁ」
ああ、ずるい。
ほっとした笑顔に愛しさを感じて、彼女の額に唇を乗せると、彼女も俺の身体をぎゅーっと抱きしめてくれた。
「起きようか」
「はい! 朝ごはん、しっかり食べてくださいね」
うん。
ご飯を食べた後に彼女の温もりを堪能させてもらおう。
そんなことを考えながら、彼女を解放し、ふたり揃ってダイニングに向かった。
おわり
三四一、big love!