とある恋人たちの日常。

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 ドキドキした。
 やっと、やっと自分の気持ちを認めて、それを言葉にしたんだ。
 
 表情を強ばらせていた彼女の瞳がきらりと光り、涙が溢れ落ちた。
 
 その姿に背中から冷や汗が流れる。
 
 俺の気持ちは迷惑だったのかな。
 普段なら彼女に自分の気持ちを押し付けるようなことはしたくなかった。
 でも、彼女を本気で狙う人が増えて、自分の気持ちを自覚した俺にとってその痛みに耐えられそうにない。
 だから、申し訳ない気持ちはあれど勇気を振り絞ったんだ。
 
 溢れる涙を拭うこともなく、彼女は優しく笑ってくれた。
 その瞬間、彼女の背中から風が通り抜けて髪の毛を揺らす。短いけれど柔らかい髪がふわりと踊り、胸が高鳴った。
 
「私も、大好き」
 
 誰よりもキレイだと思った。
 この笑顔も、この涙も。
 全部がキレイで、俺の心を捉えて離してくれそうもない。
 
 彼女の身体が俺の胸の中に収まる。彼女の腕が背中に回され、彼女の温もりが安心感を与えてくれた。だから、俺も彼女を抱き締めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
四五〇、風を感じて

8/9/2025, 2:06:41 PM