とある恋人たちの日常。

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 ああ、心臓がうるさい。
 ずっとドキドキ言ってる。
 
 偶然出会ったのは、よく怪我をして困っているから助けてあげる彼女。
 おっちょこちょいなのか、不幸体質なのか。いつも変なことに巻き込まれて怪我をしている子。
 はかなさもあるけれど、人懐っこいのに仕事は真面目で、そんなふうに見えないけれど気遣い屋さん。
 
 気がついたら視線を向けるようになっていた彼女だから、やっぱり些細な偶然も掴み取りたくて話しかけた。
 
 いつもと違って表情が硬いから、なにか困っていることがないかと聞いてみると話をはぐらかされた。
 
 自然に笑っている……つもりなんだろうな。
 でも表情は少し暗い。
 話をはぐらかされた時に、俺じゃ役に立てないと思ったんだ。
 
 それは、ちょっとだけ淋しかった。
 
 その後、彼女が聞いてきたのは最近仕事でよく話す女性のこと。
 悪ふざけもできて、面白い人だから最近よくふざけ合っていたんだけど、それを見ていたらしい。
 
 〝あまり見た事ない楽しそうな顔をしていたから驚いちゃって……〟
 
 そう言われて俺の方も固まってしまった。
 だって俺と彼女は、そんなに沢山会っている訳じゃない。接点があるかどうかといえば、あまりないから偶然出会うのがチャンスなんだよ。
 だから今もそのチャンスを掴んで話しているんだよ。
 
 だから、俺のことをよく見ているんだなって気がついちゃった。
 
 それに気がついたら頬が緩んで顔がニヤついてしまう。
 このまま彼女に〝なんでニヤついているか〟聞かれたら返答に困る。
 
 だから咄嗟に用事があると逃げてしまった。
 
 本当はもっと話していたい。
 今も心臓はうるさいまま、俺は彼女から遠ざかる。
 
 もっと一緒にいたい。
 
 そんな気持ちが溢れて止まらない。
 俺の心の羅針盤は狂ってしまい、どうしても彼女に向いてしまう。
 
 ダメだ。
 自分じゃ止められそうにない。
 
 
 
おわり
 
 
 
四四八、心の羅針盤

8/7/2025, 1:17:42 PM