スマホやタブレットが当たり前のご時世だけれど、これだけは紙媒体でも残したいんだよね。
俺は手を伸ばしてアルバムを取り出してページをめくる。
古いものから、ぱらぱらとめくっていると足元にドンと衝撃がかかってよろけそうになった。
「う?」
声の方に目線を下ろすと愛しい天使が俺の足にしがみついていた。
俺はすぐにアルバムを戻して天使を抱き上げる。
「どうしたー?」
「わー、ごめんなさい!」
愛しい奥さんが天使が近場のものを口に入れないよう、後片付けをしながら追いかけてきていた。
天使は愛らしさ満載で笑っているけれど、これは破壊神してきたな。
「見てくれて、ありがとう。俺が見るね」
「うう……すみません」
天使は曇りなき眼で俺を見つめてくる。
「もう、ママを困らせたらめーだぞ」
「う?」
まだ分からないからね。仕方がない。
この無垢な天使を見ていると俺も彼女も自然と微笑んでしまっていた。
こうやって、またアルバムのページを増やせたらいいな。
おわり
四七四、ページをめくる
ソファでぼんやり天井を見上げていると、恋人が炭酸水を持ってきてくれた。
「もう九月ですねぇ」
「まだ暑いけど夏も終わっちゃうんだねぇ」
彼女から渡された炭酸水を口に含みながら、彼女の言葉に返事をする。
そういえば、今年は暑さで仕事が忙しく、夏休みになーんにもしてないって思い出した。
お医者さんは人が休みの時ほど忙しいんだよね。
夜の皆さんは熱中症に気をつけて欲しいところです。
目だけを彼女に向けると、隣に座った彼女は同じように炭酸水を飲んでいた。
夏の思い出がない訳じゃないんだけど……。
「ねえ。今度有給取って遊びに行かない?」
「え、いいんですか。と言うか、大丈夫ですか?」
ま、まあ時間が取れるか取れないかと言えば俺の方が取れないからね。その心配はあるよね。
「さすがにそろそろ休めるでしょ」
まあ、実際に休み返上している日もあるから、許されるとは思うんだ。
彼女はパァっと花開くような笑顔を俺に向けてくれる。
「やったー、嬉しいです!!」
彼女が俺の腕に手を絡めてぎゅうっと抱きついてくれる。
「遅くなったけれど、残っている夏を探しに行こうか!」
おわり
四七三、夏の忘れ物を探しに
「早いもんだね」
「明日で九月ですよぉ」
「涼しくならないね」
「セミの音は聞こえなくなりましたけどねぇ」
強い熱を持った太陽の光にウンザリした俺と恋人はダレた声で言い合う。
じっとりとした湿度の高い風にも嫌気がさすね。
そんなことしていると、ちょうど音楽が鳴り響いた。
そうか、もうそんな時間か。
決まった時間に鳴り響く音楽。
少し前まではギラギラした太陽が痛いくらいの光を刺してきたのに、今はそうじゃない。
ああ、しっかりと日は傾いているんだな。
「日が短くなったねぇ」
そう、俺がつぶやくと隣に座っていた彼女が立ち上がって俺に手を差し出した。
「帰って夕飯作りましょ!」
おわり
四七二、八月三十一日、午後五時
「ただいま帰りましたぁ」
リビングのソファに座っていると、玄関の方から愛らしい声が響き渡る。
俺は彼女を迎えに玄関へ足を向けると、俺の姿に気がついた恋人は嬉しそうな顔で俺に飛びついてきた。
「おかえり」
「たたいまです〜」
「疲れた?」
「疲れました〜」
そう言いながら頭をグリグリしてくるのが本当に可愛い。
一緒に暮らし初めて数日。
遠慮が少しずつ減ってきて、ようやく〝ふたりの生活〟を過ごせるようになってきた。と、思う。
初日は〝ただいまのハグ〟も少し遠慮がちだった。彼女からハグしたいって言ってきたんだけれどな。
彼女がどういう意図で〝ただいまのハグ〟を希望したのかは分からないんだけど、数日やっていて俺が感じたのは安心感だった。
だから、俺自身もこのハグに対して遠慮しなくなってきていた。
「えへへ〜」
嬉しそうにぎゅっと抱き締めてくれる。今日はいつもより長いから、もしかして疲れているのかな?
そんなことを考えながら、俺も彼女を強く抱き締める。
こういう日々を積み重ねて、当たり前にして行けたら嬉しいな。
おわり
四七一、ふたり
ぎゅっと締め付けられて息苦しい。
実際に息ができないわけじゃないけど、呼吸が浅くて辛いんだ。
視線の先に光るものが見える。
それでここが暗い場所なんだと気がつけた。
重い足を奮い立たせて光の方へ歩いていく。
息も絶え絶えになってきたけど、近づきつつある光を希望に前へ進んでいた。
どれくらい時間が経ったか分からない。
終わる気がしなかったけれど、ちょっとずつ歩いて行ってなんとか光にたどり着いた。
思ったより小さい光なのに強い。
その光に手を伸ばして指先が触れると中に心情が浮かぶ。
守りたい子がいるんだ。
その子の表情がクルクル変わっていて目を奪われる。なにより彼女の笑顔が頭から離れない。
見ないようにしていたのに。
気が付かないようにしていたのに。
俺はその『光』から目が離せなくなった。
もう、気が付かないようにするのなんて無理だ。
俺は彼女が好きなんだ。
そうやって認めてしまうと、簡単で。
光が広がって、世界に彩りがよみがえっていく。
空気も変わり、重かった身体も心も軽くなっていった。
――
目を覚ますといつもの天井で。
ゆっくりと身体を起こすと、さっきまでのことが夢だったと理解した。
夢で気がついた気持ちを思い出し、彼女の笑顔を脳裏に浮かべると胸が温かいんだ。
おわり
四七〇、心の中の風景は