「暑いねぇ」
「暑いですねぇ」
仕事帰りにデートがてら夕飯の買い物に出掛けていた。
本当は彼女と手を繋ぎたいし、くっつきたい気持ちはあるけれど、この暑さじゃ無理。
彼女にも迷惑だ。
彼女は嫌がるとは思わないけれど、さすがにね。この暑さでくっつかれたらシンドイでしょ。
ふと足元を見ていると、普段青々としている夏草がくすんだ色でグッタリしていた。
俺の視線が気になったのか、彼女も同じ草に目線を向けた。
「この暑さで枯れてるね」
「この暑さですからねぇ……」
自然の暑さとは言え、草木も枯れる暑さなんだから俺たちも気をつけなきゃね。
「早く帰って涼みましょう」
「大賛成!」
ふたりで視線を合わせてから、車へ足早に歩いていった。
おわり
四六九、夏草
先日、仕事の先輩から〝安心感が増えた〟と言われるようになった。
俺自身に何か変わったことはないけど、まあ心当たりがないとは言わない。
先日、恋人と同棲を開始した。
俺自身が救急隊と言う時間に都合の付きにくい仕事をしていて、恋人との時間が中々取れないのでイライラしてしまった。
でも一緒に暮らし始めて、恋人の体温を気軽に感じられる生活。彼女を後ろから抱きしめて眠るといつもより早く眠りに落ちるんだ。
朝まで目を覚まさなくて、目を覚ますと頭がスッキリしていることが多い。
朝ごはんをどちらかが作って、ふたりで食べてから仕事に向かう。
そんな日々を過ごして、先輩に言われたのが件の話しだった。
確かに少しだけ変わったのかもしれない。
俺は恋人の笑顔を思い出す。
家に帰ってから俺を抱きしめてくれる彼女の温もりが愛おしくて、心の波が落ち着いて行く。
彼女からもらった強さが確かにここにあるんだ。
おわり
四六八、ここにある
居間に向かうと恋人がソファに横になっていて、座ると言うより寝転がってスマホをいじっている。
部屋着はパンダの着ぐるみのようなふわふわなパーカーに同じふわふわの生地の黒いショートパンツ。
真っ白な素足がスラリとのびていて、俺としては目が惹かれて仕方がない。
いや、いいんだよ。
家だし、俺恋人だし。
それでも無防備過ぎて色々心配になっちゃう。
俺は座る場所のないソファの前に膝を立てて座り、彼女のお腹辺りに寄りかかる。
彼女はスマホから視線を外して、俺を見つめてふわりと笑ってくれた。そして俺の頭を優しく撫でてくれる。
うーん、極楽です。
「どうしましたかー?」
「かまって欲しいのとー」
「のと?」
くすくす笑いながら彼女が膝を立てるから、頭から伝わる彼女の体温の面積が広がって……やっぱり幸せです。
俺は彼女の足の方に視線を送ると、彼女もそれに習ったみたい。
「素足がまぶしいです」
キョトンとしているけれど、人畜無害に見えるウサギだってオオカミになるんだと、もう少し理解して欲しいです。
おわり
四六七、素足のままで
少しずつ、心に違和感があったんだ。
ひとり寂しくなった時に笑顔で来てくれた姿が忘れられない。
彼女の笑顔を見ていると嬉しい。でも俺に背中を向けられると寂しくて。
俺じゃない男と話していると鋭い痛みが突き刺さる。
その気持ちが何かについては耳を塞いで、それでも彼女の心に触れたいと願う。
ねえ、俺は君に手を伸ばしていい?
あと、もう一歩だけ……。
君に近づきたい。
おわり
四六六、もう一歩だけ、
目を覚ますと見覚えのない天井。
ここはどこだろうと身体を起こして周りを見回すと状況を思い出せた。
昨日、〝新しい街〟に足を踏み入れた。
空港に辿り着くと、知っている空気と匂いが違っていて、知らない場所に来たと理解させる。
この場所は新しい自分の部屋。この街で俺が与えられた自分の空間だ。
俺はベッドから立ち上がって簡単にストレッチをする。そして最後に深呼吸。
やっぱり知らない空気だ。
俺はカーテンを開けて窓の外を覗くと見知らぬ街の景色が広がっていた。
そうだ。
俺はここに新しい経験をしたくて来たんだ。
新しい人と出会いたい。
家族のように大切な人にも出会えたら嬉しい。
内側から来るワクワクを止められなくて自然と笑顔になる。
この空気を〝当たり前〟にして、俺はこの街の人間になるんだ!
俺は着替えて玄関のドアを開く。
「よし、行こう。新しい街へ!」
おわり
四六五、見知らぬ街