部屋から見上げる空は青くて、私と恋人の好きな色が視界いっぱいに広がっていた。
「いい天気だなぁ」
私が小さくこぼすと、それを聞いていた彼が同じような角度に見えるように近くに来て空を見上げていた。
「本当だね。ドライブでも行く?」
「行きたい!」
ぽつりと呟いた彼の言葉にめちゃくちゃ反応して振り返ってしまった。
だってデートになるもん。
それに青空は私と彼を結びつけてくれたものの一つが〝好きな色〟だから、こんな空色を前より好きになったの。
私はもう一度空を見上げる。
遠くまで見える夏らしい爽やかな青空はとてもキレイで、思わず見惚れてしまった。
おわり
四五七、遠くの空へ
好きって思う感情はようやく分かって。
ああ、恋に落ちたんだって理解したんだ。
俺自身はそんな気持ちを持つなんて思わなかった。
俺と彼女の縁ってほとんど偶然だから、会いたいけれど気軽に会えない。
客商売で、誰にでも屈託のない笑顔で対応するし、幼さが残るのに気遣いができて一緒にいると心地いい。
「会いたいなぁ」
小さくこぼす本当の気持ちと一緒に寂しさが溢れ出して止まらなかった。
「わ!」
「わー!!!」
背中に優しくなにかが当って弾かれる。ぼんやりとしていたから、心臓がとび出そうなほど驚いて振り返る。
そこには会いたいと願っていた彼女がいたから違う意味でも心臓が跳ねた。
「あはは、こんにちは!」
バックバックと心臓の音がうるさくて、笑顔だった彼女が怪訝な顔をする。
「ご、ごめんなさい。おどかしすぎましたか?」
「いや、本当にビックリしたけど大丈夫だよ」
彼女にも俺の鼓動が聞こえるんじゃないと思うほどバクバクしている。けど、彼女の顔を見ていたらさっきまでの寂しい気持ちが吹き飛んで、もっと違う暖かい感情が溢れ出していた。
「見かけたから声掛けちゃいました」
綿毛のような柔らかい髪の毛が揺れ、ふわりと微笑んだ彼女を見て更に気持ちがこぼれ出ていた。
自然と笑顔になる。
だって会えたんだもん。
「声掛けてくれて、嬉しいよ」
そう彼女に言うと、嬉しそうに笑ってくれた。
会いたかったんだ。
どうやって会おうか悩んでたんだ。
見かけたら声かけようと思ったんだ。
普段は声掛けてくれないの知っているから、彼女が声をかけてくれたのは驚き一緒に、色んな感情が溢れ出るのを止められなかった。
おわり
四五六、!マークじゃ足りない感情
出張修理の帰り、バイクを走らせていた。
日差しが肌に刺さって痛くて、この季節にバイクで行くのは失敗だったなーなんて考えながら角を曲がる。
ビルの合間から真っ青な空が拡がっていた。そして真ん中に縦に長い三角形の雲が立ち上っている。
私はこれに似た風景を見たことがあった。
私は思わず端っこにバイクを止めてスマホのフォトアルバムを見ていく。
確か、去年……同じくらいの季節だと思う。
そうやって月ごとのフォルダから〝すべて〟を選択してスワイプを続けていく。
「あった」
それは去年、六月頃に彼からもらった写真。
「これだ……」
雲の形が同じゃないけど、でも同じ場所から彼が見た景色と一緒だった。
「こんな景色だったんだね」
自然と口角が上がってしまう。そして思い出す。
あれは入道雲だ。
そうだ、思い出した。
あの時の彼は雨が降る前に迎えに来てくれたんだ!
私は慌ててスマホを掲げて写真を撮って、すぐにスマホをポケットにしまいバイクは走らせた。
後で彼に送ろう。
おわり
四五五、君が見た景色
熱帯夜が続く日々。
熱中症対策に冷房を付けて眠っている。
こっそり恋人の温もりを感じたくて、ほんの少しだけ下げさせてもらってる。もちろん本当に寒くなるほど下げてはいないけれどね。
眠っている彼女を後ろから抱きしめる。
すやすやと眠っていて、俺が抱きしめても反応せず、呼吸に合わせて身体を上下させていた。
起こしたくないから、これ以上変なことはしないけれど彼女の体温はどうしようもなく安心感を覚える。
「ん……」
彼女が俺の腕を掴んでぎゅうっと抱きしめてから、また眠りに落ちた。
胸の奥から熱いものが溢れて、どうにも言葉にできなかった。
おわり
四五四、言葉にならないもの
ジリジリと熱が差し込み、汗が流れ落ちる。
暑いのは嫌いじゃないけれど、嫌な季節だ。
俺の恋人は幼さの残る表情、屈託のない人懐っこい性格と合わさってとても愛らしい。
客商売をしているから割と本気で片思いしている人もいた。なんなら付き合った時に「彼女を泣かせたら許さない」と怖い人たちに囲まれたこともある。
いや、泣かせる気は無いよ。
積み重なった想いを消せなくなって、ようやく付き合えたんだよ。
でもさ、ノースリーブだったり、水着だったり、薄手の白いシャツを着るのは本当にやめて欲しい。
暑ければ暑いほど薄着になり、彼女へ不謹慎な視線が向けられているの知っているし、追っ払ったことだって何度もあるんだ。
あー、どこかに閉じ込めたいー。
そんな真夏の記憶。
おわり
四五三、真夏の記憶