しゅわしゅわしゅわしゅわと、緑色の炭酸が音を立ててぱちぱちと水が跳ねる。
恋人と私が大好きな飲み物をこれから作ります。
我が家には好きだからこそ、専用グラスに専用の細長いスプーンも用意してある。準備万端なのだ。
バニラアイスを乗せると出来上がる宝石のような飲みものが出来上がる。
アイスを乗せるのに少しだけ待たせただけなのに、グラスからは水滴が落ちていた。それがよりキラキラした宝石を思わせてくれた。
「おいしそうだねぇ!!」
「今日のはちょっとお高いバニラアイスを使いますよー!」
メロンソーダに浮かんだいくつかの氷の上にポンとバニラアイスを乗せてから、サクランボを添える。
「完成です、めしあがれー!」
「やったー!」
彼は両手を上げてはしゃぐ彼を見ていると、胸があったくなる。
彼はストローをさして、ひと口含む。
ストローの下から色が変わり、彼の唇に流れ喉が動いてそれがとてもセクシーだなと思ってしまう。
私の視線に気がついたのか、私を見つめて首を傾げた。
「どうしたの?」
「おいしかったかなって……」
「おいしいよ。あ、でもアイスを堪能するのはこれからだけどね」
話しながらスプーンでアイスをひとすくいしてパクリと味わう。パッと目が輝いているのがわかる。
そう。
今回のアイスは奮発したのです。
とは言え、先日会社で話題になってみんなで食べたアイス。それがとても美味しくて、彼に食べて欲しかったんだ。
「なにこれ、おいしいっ!」
「ですよね!」
アイスを少しだけ寄せてメロンソーダに軽く溶かしてから食べると身体を悶絶させていた。
「おいし……あ、もしかして、少しメロンシロップを濃くした?」
「あ、気が付きました? でも、少しだけですよ」
それを伝えると彼が太陽のような笑みを浮かべる。私の大好きな笑顔だからドキドキして自分のクリームソーダを勢いよくかき混ぜてしまった。
「あっ!」
「え?」
勢いがよ過ぎて、溶けたアイスがグラスからこぼれ落ちた。
まるで私のドキドキが溢れてしまったようだった。
おわり
四五二、こぼれたアイスクリーム
私の恋人はとにかく優しい人。
出会いのきっかけはお仕事だったけれど、その後に偶然会えて嬉しかったの。
見つけると、「こんにちは!」って声掛けてくれたり、私のうっかりを叱るのじゃなくて、注意してくれても「もー君なら許す!」って言ってくれたり。
そんなことを積み重ねて、〝大好き〟な想いが止められなくなった。
彼はお医者さんだから、優しさが爆発しているの。
お仕事も彼の性格も、そういう人だって分かっているんだよ。
だってそこも好きなんだもん。
時々優しさなんてどこかへ飛んで行けと思ったりしちゃう時がある。
その優しさは私だけに向けて欲しいの。
だって彼は私の恋人なんだもん。
おわり
四五一、やさしさなんて
ドキドキした。
やっと、やっと自分の気持ちを認めて、それを言葉にしたんだ。
表情を強ばらせていた彼女の瞳がきらりと光り、涙が溢れ落ちた。
その姿に背中から冷や汗が流れる。
俺の気持ちは迷惑だったのかな。
普段なら彼女に自分の気持ちを押し付けるようなことはしたくなかった。
でも、彼女を本気で狙う人が増えて、自分の気持ちを自覚した俺にとってその痛みに耐えられそうにない。
だから、申し訳ない気持ちはあれど勇気を振り絞ったんだ。
溢れる涙を拭うこともなく、彼女は優しく笑ってくれた。
その瞬間、彼女の背中から風が通り抜けて髪の毛を揺らす。短いけれど柔らかい髪がふわりと踊り、胸が高鳴った。
「私も、大好き」
誰よりもキレイだと思った。
この笑顔も、この涙も。
全部がキレイで、俺の心を捉えて離してくれそうもない。
彼女の身体が俺の胸の中に収まる。彼女の腕が背中に回され、彼女の温もりが安心感を与えてくれた。だから、俺も彼女を抱き締めた。
おわり
四五〇、風を感じて
彼の言葉に震えが止まらない。
それに胸がうるさいくらいドキドキ言って、その後の彼の言葉が上手く聞き取れなかった。
緊張した顔で私を見てくる彼は何かを待っているようだった。
「えっと、聞こえてた?」
「え?」
彼が何を言ってくれたのか頭が真っ白で入ってきてなくて、首を傾げてしまった。
私の顔でどんな状況か察した彼は、いつも以上に困った顔をしてから深呼吸をする。
「も、もう一回言うね」
彼は私の手を両手で包んでくれた後、しっかりと見つめ直してくれた。
「大好きだよ」
聞き間違いじゃない?
夢じゃない?
でも彼の表情も目も強さが込められていて、そこに真剣さを感じられる。
ドキドキするの。
だって私も彼のこと、大好きだから。
ずっと抑えていた想いだから。
内側から熱いものが込み上げて、それが涙になってぽろぽろとこぼれ落ちる。それを見た彼は驚いたけれど、私は笑顔で伝えた。
「私も、大好き」
おわり
四四九、夢じゃない
ああ、心臓がうるさい。
ずっとドキドキ言ってる。
偶然出会ったのは、よく怪我をして困っているから助けてあげる彼女。
おっちょこちょいなのか、不幸体質なのか。いつも変なことに巻き込まれて怪我をしている子。
はかなさもあるけれど、人懐っこいのに仕事は真面目で、そんなふうに見えないけれど気遣い屋さん。
気がついたら視線を向けるようになっていた彼女だから、やっぱり些細な偶然も掴み取りたくて話しかけた。
いつもと違って表情が硬いから、なにか困っていることがないかと聞いてみると話をはぐらかされた。
自然に笑っている……つもりなんだろうな。
でも表情は少し暗い。
話をはぐらかされた時に、俺じゃ役に立てないと思ったんだ。
それは、ちょっとだけ淋しかった。
その後、彼女が聞いてきたのは最近仕事でよく話す女性のこと。
悪ふざけもできて、面白い人だから最近よくふざけ合っていたんだけど、それを見ていたらしい。
〝あまり見た事ない楽しそうな顔をしていたから驚いちゃって……〟
そう言われて俺の方も固まってしまった。
だって俺と彼女は、そんなに沢山会っている訳じゃない。接点があるかどうかといえば、あまりないから偶然出会うのがチャンスなんだよ。
だから今もそのチャンスを掴んで話しているんだよ。
だから、俺のことをよく見ているんだなって気がついちゃった。
それに気がついたら頬が緩んで顔がニヤついてしまう。
このまま彼女に〝なんでニヤついているか〟聞かれたら返答に困る。
だから咄嗟に用事があると逃げてしまった。
本当はもっと話していたい。
今も心臓はうるさいまま、俺は彼女から遠ざかる。
もっと一緒にいたい。
そんな気持ちが溢れて止まらない。
俺の心の羅針盤は狂ってしまい、どうしても彼女に向いてしまう。
ダメだ。
自分じゃ止められそうにない。
おわり
四四八、心の羅針盤