とある恋人たちの日常。

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2/22/2025, 2:17:41 PM

 
 喫茶店で彼女を待つ。
 一緒に住んでいるけれど、仕事の関係で今日は待ち合わせデートすることにした。
 
 お互いの乗り物のことを考えると、迎えに行こうかという話にもなったのだけれど、同僚が送ってくれると言うので甘えるらしい。
 
 ぼんやり彼女を待っていると、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
 冬は雨が減るから、久しぶりの雨で、乾燥も酷いからまさに恵の雨だ。
 
 そんなことを考えながら、遠くの空を見つめた。
 
 スマホを取りだして天気アプリを確認する。雨はしばらく続きそうだな。
 
 そのまま時刻に視線をやると、そろそろ彼女が着いてもおかしくない時間になるなと思っていたら、『もうすぐ着きます』とメッセージが入った。
 
 それから間もなく彼女が喫茶店に入ってくる。パッパっと服に付いた雨を弾きながら笑顔で向かいの席に座った。
 
「お待たせしました」
「ううん、待ってるのも楽しいから〜」
 
 そう言いながら、彼女にメニューを見せる。
 
「ここ、冬限定のクリームソーダがあるんだよ」
 
 にやりと含んだ笑みを向けると、挑戦的な視線を返してくれる彼女。もう何を言いたいか伝わっているこの空気感が好きなんだ。
 
「それは頼まなきゃダメですね!」
 
 俺と彼女への想いのきっかけのひとつがクリームソーダだから、どうしても……ね。
 ちゃんと乗っかってくれるから素直に嬉しい。
 
「じゃあ、頼んじゃうね」
「ありがとうございます」
 
 そんなやり取りの後、店員さんに限定クリームソーダをふたつ注文する。彼女と飲みたかったから、我慢してたんだ。
 
 クリームソーダを待っている間、彼女の視線が外に向けられる。
 どこか遠いような、憂いのある瞳でつい彼女の手を握ってしまった。それに気がついた彼女は少し驚いていたけれど、優しく笑ってくれる。
 
「どうしたの?」
「あ、いや……雨、やむかなって」
「さっき天気予報を確認したけど、まだ降るみたいだよ」
「そうなんですね」
 
 どこか含みを感じるから、じっと見つめていると困った顔をしてから俺の手を握り返してくれた。
 
「夏にこんな雨が降って雨宿りしたこと、覚えてます?」
 
 俺は少し考える。
 そして彼女が何を思ったのか理解出来た。
 
 そう。
 夏の夕立の後に一気に広がる晴天。
 雨の後に見た七色の虹を思い出したのだろう。
 
「あー分かった虹でしょ」
「はい、またふたりで見たいなって……」
「うーん、季節的に難しいとは思うよ。雨止む頃には日が暮れちゃうし」
「ですよねー……」
 
 少しだけ寂しそうに笑う。
 
「まあ、そんなに簡単に見ようと思って見られるものじゃないからね」
「そうですね」
 
 それでも、願いを込めた瞳が雨を見つめていた。
 
 ただ〝虹を見たい〟じゃなくて、〝俺と虹を見たい〟ということろに胸が暖かくなる。本当に、そういうところなんだよ?
 
「夏になったらまた色々遊びに行こうよ。雨の日も楽しめるような格好でさ」
 
 確かに簡単に見られるものでもない。なんと言ってもタイミングがものを言うものだし。
 
 でも、可能性を増やすことはきっとできるよ。
 
 言葉にはしなかったけれど、彼女はふわりと微笑んでくれた。
 
「ふふ。夏までまだ先ですけど、いっぱい計画立てましょう!」
「そうだね。ランチ行けそうな時とか、仕事の後のお出かけも増やそうよ」
 
 そんな感じで色々とふたりで案を出し合う。すると少しづつ彼女の瞳にキラキラしたものが増えて、表情もどんどん明るくなった。
 
「楽しみがいっぱいですね!」
 
「お待たせいたしました。限定クリームソーダです」
 
 タイミングを見計らった店員さんが、俺たちの目の前にふたりの好きなクリームソーダを置いてくれる。
 
「まずは、目の前のものを楽しもうか」
「はい!」
 
 まだまだ雨は続くけれど、気持ちが少しでも晴れてくれたらいいな。
 
 そんなことを考えながら、ふたりでクリームソーダを楽しんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八二、君と見た虹

2/21/2025, 1:37:23 PM

 
 彼女を迎えに行って、仕事終わりにドライブデート。
 高速道路を走り抜けていく。今日は長距離にして星を見に行きたいと思った。
 
 暗い夜のはずなのに、ビルや街灯の光がキラキラして星の合間を抜けていくようで不思議な気持ちになる。
 
 見慣れた景色だけれど、彼女といれば違う景色に見えた。
 
 少しずつビルの光が減り、街灯の数が減る。
 
「暗闇が広がるかわりに、天の星が増えていくみたいですね」
 
 ぽつりと零す彼女の言葉に、案外ロマンチストなのかなと、彼女の知らない部分を見つけて嬉しくなった。
 
「夜空を走ってきて、夜空を見に行って……」
「また夜空を走って帰るんですね!」
 
 弾む声が今楽しんでいるのを伝えてくれる。
 
「そうだね、まずは空にある星を見よう!」
 
 
 
おわり
 
 
 
二八一、夜空を駆ける

2/20/2025, 12:50:30 PM

 
 見ないふりをした感情。
 紛れもない彼女への恋情。
 
 俺は着ているシャツをぐしゃりと握った。
 
 この気持ちに気が付かなかったら良かったのに。このまま推し潰せればいいのに。
 
 でも、そんなことは無理で。
 
 どうしたって彼女を視界の中に入れてしまうし、ふと視線を送ってしまう。
 異性と二人っきりで話していると、それが本当に楽しそうだと胸の中がモヤモヤして仕方がない。
 
 でも。だからこそ、面を付けるんだ。
 彼女への密かな恋情に、お面でフタをするんだ
 
 それでも。
 彼女と二人で話せる瞬間は、胸が温かくなるし、自然と口角が上がってしまう。
 
 隠しきれない〝好き〟という気持ちが溢れてしまうから、やっぱり面を付けるんだ。
 
 恋はしないと決めたのに、彼女の笑顔は簡単にその決め事を取っ払ってしまうから、俺も気持ちを抑えられなくなりそうだった。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八〇、ひそかな想い

2/19/2025, 12:51:14 PM

 
 だいすきなママがつれていってくれた、まっしろなところ。
 ママがはなしていたひとにだっこされたとき、さみしくて、かなしくて、なみだがとまらなくなった。
 
「わあああ、ごめんねぇ!!!」
「やっぱりダメかー!」
 
 ママにぎゅっとしてもらって、あんしんしてなみだがとまる。
 とおいところから、「出っ勤!!」とおおきいこえのおにいさんがきた。
 
「え? 子供?」
 
 おにいさんはびっくりしていたけれど、うーんってしてから、にっこりしてくれた。
 そして、みどりいろののみものに、バニラアイスがのっているのみものをくれた。
 
「クリームソーダだよ〜、飲む?」
 
 おにいさんのめはやさしくて、ママとおなじくらいあったかいきもちになる。
 
 わたしはうなずくと、のみものにてをのばした。
 ママがわたしをだっこしてくれたけれど、おひざにのせてくれた。するとおにいさんは、わたしのめのまえにすわってくれた。
 
「クリームソーダ、好きなの?」
 
 やさしいこえのおにいさん。
 
 わたしはそうだよっていいたくて、うんうんってする。おにいさんは、みどりののみものをゆっくりとのませてくれる。
 
「!!」
 
 しゅわしゅわ!
 あまくてほっぺがとけそう!
 
 うれしくて、のみものをのんでいると、おにいさんはバニラアイスをスプーンにのせてもってきてくれる。
 
 おにいさんのおかおがやさしくて、おいしいってわかるから、あーんした。
 
 おにいさんはだれ?
 
 ママじゃないのにポカポカするの。
 
 のみおわると、ママはわたしをおにいさんにむける。こんどはおにいさんがだっこしてくれた。
 
 おにいさん、あったかい。
 ポカポカする、おにいさんはだぁれ?
 
 はじめてママじゃないのに、あったかいの。
 
 
――
 
 
 うっすらと、残るか残らないかの記憶。
 考えると現実味のないファンタジーの奇跡。
 
 心がポカポカするお兄さんは今、私の大切な人でした。
 
 
 
おわり
 
 
 
二七九、あなたは誰

2/18/2025, 12:16:31 PM

 
 手紙……というほどではないけれど。
 私は適当な紙に、思っていたことを書き出した。
 
 ぼんやりしては書いて、書いてはぼんやりして。
 考えて書くことじゃなく、その時に思いついたことを、思いついた気持ちをひたすらに書きつづった。
 
 最後の一文を見つめると胸が締め付けられてしまう。
 
〝彼が好き〟
 
 そんな単純な言葉。
 最初から読み直すと、読んでいる途中から顔が熱くなる。
 これじゃ、ただの熱烈なラブレターだ。
 
 折りたたんで、私の気持ちと一緒に引き出しにしまい込む。
 
 いつか気持ちを伝えたいけれど、彼に迷惑がかかってしまうかもしれない。
 そんなことを思うと、言葉にできずに彼を見守ろうと思ってしまった。
 
 
――
 
 
「ねぇ、これなぁに?」
 
 彼と一緒に住むことになって、引越しの手伝いをしてくれる彼が、どこか見覚えのある紙を渡してくれた。
 
 なんだろうと、紙を開くと背中から彼もその紙を覗き込む。
 
 最初の文章を読んで思い出した。
 彼に片想いしていた時に、それだと気が付かずに書きつづった私の気持ちだ。
 
 思わず隠そうとしたけれど、彼の動きの方が早くて、紙を上にあげて私が手を伸ばしても届かない。
 
「読んじゃダメ!」
 
 彼はその言葉を聞かずに、じっと紙を、私の過去の想いを読むと緩んだ笑顔で私を見つめてくる。
 
 内側から熱くなるし、恥ずかしくて彼から視線を逸らした。
 
 すると彼に抱きしめられる。
 
「ねぇ、このラブレター。俺がもらってもいい?」
 
 顔から火が吹き出るかと思った。
 
 
 
おわり
 
 
 
二七八、手紙の行方

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