とある恋人たちの日常。

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 手紙……というほどではないけれど。
 私は適当な紙に、思っていたことを書き出した。
 
 ぼんやりしては書いて、書いてはぼんやりして。
 考えて書くことじゃなく、その時に思いついたことを、思いついた気持ちをひたすらに書きつづった。
 
 最後の一文を見つめると胸が締め付けられてしまう。
 
〝彼が好き〟
 
 そんな単純な言葉。
 最初から読み直すと、読んでいる途中から顔が熱くなる。
 これじゃ、ただの熱烈なラブレターだ。
 
 折りたたんで、私の気持ちと一緒に引き出しにしまい込む。
 
 いつか気持ちを伝えたいけれど、彼に迷惑がかかってしまうかもしれない。
 そんなことを思うと、言葉にできずに彼を見守ろうと思ってしまった。
 
 
――
 
 
「ねぇ、これなぁに?」
 
 彼と一緒に住むことになって、引越しの手伝いをしてくれる彼が、どこか見覚えのある紙を渡してくれた。
 
 なんだろうと、紙を開くと背中から彼もその紙を覗き込む。
 
 最初の文章を読んで思い出した。
 彼に片想いしていた時に、それだと気が付かずに書きつづった私の気持ちだ。
 
 思わず隠そうとしたけれど、彼の動きの方が早くて、紙を上にあげて私が手を伸ばしても届かない。
 
「読んじゃダメ!」
 
 彼はその言葉を聞かずに、じっと紙を、私の過去の想いを読むと緩んだ笑顔で私を見つめてくる。
 
 内側から熱くなるし、恥ずかしくて彼から視線を逸らした。
 
 すると彼に抱きしめられる。
 
「ねぇ、このラブレター。俺がもらってもいい?」
 
 顔から火が吹き出るかと思った。
 
 
 
おわり
 
 
 
二七八、手紙の行方

2/18/2025, 12:16:31 PM