大好きな彼と久しぶりにデート。
差し伸べてくれた手を取って、当たり前のように繋いでくれる。
「行こうか」
雲ひとつない空が眩しいのは、彼の笑顔も一緒で目を細め、顔がほころんでしまう。
ああ、彼が大好きだな。
「あ……」
なにかが足に当たって転びそうになるけれど、彼が繋いだ手を引っ張って抱き寄せてくれた。
「セーフ」
楽しそうに笑ってくれる表情。一緒に暮らしていて、当たり前のように見ている笑顔なのに、ドキリと胸が高鳴る。
私は、彼の手を離して首に手を回す。そのまま身体を彼に預けて抱きしめた。
「どうしたの?」
「ううん……安心するから」
彼の表情は見えないけれど、くすっと笑うのが分かった。
「お天道様のしただよ?」
「関係ないもん」
普段は人の目を気にするけれど、大好きな彼を太陽の下で抱きしめたかったの。
おわり
一九三、太陽の下で
肌寒くなってきて、衣替えをしていると冬に良く着ているVネックのセーターが出てきた。割と長いこと着ているから伸びている。少しというか、裾は結構伸びていた。
俺はそのセーターを持ち上げて見ていると悪い考えか過ぎる。
「ねーえー」
「はーい」
離れた場所で同じように衣替えをしていた恋人のところにそのセーターを持っていく。
「なんですかー?」
端からひょこっと彼女が顔を出した。
「はーい、ばんざーい」
「ばんざーい」
相変わらず曇りのないまなこで言われた通りに両手を挙げる。それを確認した俺はお気に入りのセーターを彼女の頭から被せた。
「わっぷ!?」
するすると俺のセーターを着せると……。
……あ、これはダメだ。
何がダメだったかと言うと、俺の心と身体がイロイロとダメだ。
彼女は家用の短パンを履いていて、俺のセーターの裾の方が長い。男女の体型の差もバッチリ出ていて、俺の肩幅で止まっていた肩部分が、彼女の肩では止まらないのでスルリと腕の方に落ちていた。
「なんですか? セーター?」
彼女は肩を抑えながら、全体を見ようと鏡の前に立った。
「あ! よく着ていてたセーターだ!」
身体を動かして無邪気な笑顔で俺を見つめてくる。
うん、凄く可愛い。
自分のセーターがこんな効果を発揮するとは思わなかった。
俺は彼女を後ろを抱きしめる。
「?」
「いや、ごめん」
予想していた以上に彼女が可愛過ぎました。
おわり
一九二、セーター
「あ……」
ペンを取ろうと手を伸ばしたのに、ぼんやりしていたからか、指からこぼれ落ちた。
落ちていくはずのペンは床に落ちることなく、彼の手に収まっていた。そして、彼は身体を起こして太陽のような笑みを向けてくれる。
「落ちなくて良かった!」
その安堵した声と笑みに、私の胸が高鳴る。
違うと否定していたのに、その笑顔と優しい行動は私の心を捕らえて離さない。
「ありがとうございます」
上手く笑えただろうか。そう思いながら彼からペンを受け取る。
でも、その不安はすぐかき消された。
もう一度眩しいほどの笑顔を見せてくれたから。それと一緒に私の心臓の音もうるさくなる。
小さいことだけれど、そんなことが積み重なって否定できないくらいの気持ちが溢れてた。
好き。
伝える勇気はないけれど。
きっと言葉にできないけれど。
この想いは大切にしたい。
おわり
一九一、落ちていく
最近、ずっと考えていたことがある。それは子供が欲しいと強く思うようになったこと。
時々、子供を預かることがあって、その子が本当に可愛い。その子の面倒を見るのも楽しいし、同じように面倒を見ている恋人の姿が、たまらなく愛おしい。
それと、俺の仕事の危険性。
救急隊として、それなりに危険と隣り合わせだ。実際に怪我をして彼女に心配させたこともある。
そんなことにならないよう訓練もしている。それでも俺自身に何かあった時に彼女に残せるものがない。恋人として一緒に住んでいるけれど、他人と言われたら他人なんだ。
俺は隣でスマホを見ている彼女に視線を送る。それに気がついた彼女は俺を見つめ返した。
「どうしましたか?」
「うーん……」
ほんの少しだけ気のない返事をしてしまう。
彼女とは〝子供が欲しいね〟と言う話もしたことがあるし、先の将来のこともぼんやりと話している。それでも、これを言っていいのか……。やっぱり不安なんだ。
彼女の性格と関係値を思うと、ダメ……とは言わないと思うけれど。
視線だけ彼女に向けたまま言葉に詰まっていると、首を傾げてしっかりと俺を見てくれる。
俺は深呼吸をする。冷たい空気が体内にめぐって頭がすっきりする。そして、しっかりと彼女を見つめた。
「あのさ……」
「はい」
声が震えるし、心臓の音がうるさい。
それでも、伝えなきゃ。
「家族になろうよ」
「え……」
はっきりと驚いた顔をしたと思ったら、頬を赤く染めて微笑んでくれた。
「嬉しい……です……」
目の端に涙を溜めて、俺に抱きついてくれる彼女。それが嬉しくて、俺も抱きしめ返した。
「良かった……」
「え、断ると思ったんですか?」
「や。断らないとは思っているけど、百パーセントなんてないでしょ?」
「なに言っているんですか! 百パーセントですよ!!」
ぷくっと頬を膨らませて、口を尖らせる彼女に心の底から安心して、より強く抱きしめた。
「ありがとね」
「はい、夫婦になりましょ」
おわり
一九〇、夫婦
彼女を気になるようになってから、つい視線で追ってしまう。
他の人と楽しそうに話しているけれど、声をかけたい気持ちが溢れた。
話している間に割り込むのも気が引けるし、迷惑になったら嫌だな。邪魔になるだろうし。
でも、彼女と仕事以外で会えるわけじゃないし……どうしようかな。
どうすればいいか悩んでいると、振り返った彼女と目が合った。俺を見つけて一瞬驚いていたけれど、すぐに柔らかく微笑み、軽く会釈してくれるから胸が高鳴る。だって、その笑顔が可愛いんだもん。
俺は意を決して、彼女に向けて足を進める。
「こんにちは!」
何事も無いように彼女に向かって挨拶をすると、俺に身体を向けて椅子から立ち上がってくれた。
「こんにちは、久しぶりですね!」
眩い程の笑顔に、胸の鼓動が抑えられそうもない。
俺は心の中で自嘲気味に笑ってしまう。
だって、もう逃げられないんだよ。それくらい、俺は君に心を奪われているから。
どうすればいいのかと、悩む必要なんてなかったね。
おわり
一八九、どうすればいいの?