彼女の修理屋にカスタムの依頼をしていたのに、俺の失敗で動けなくなった。
もう、バカ過ぎて情けなくなる。
動けるようになるまで少し時間がかかるから、俺は諦めて動けるようになるまで待つことにした。
そんな中、この場所を伝えていなかったのに、彼女が出張修理に来てくれた。
失敗の悔しさ、彼女を待たせてしまう申し訳なさでモヤモヤしている時に、笑顔の彼女が来てくれた瞬間、一筋の光が見えた気がしたんだ。
その時が夜だったこともあったから余計にそう思ったかもしれないけれど。
それからかも。
彼女に嫌われたくない、もう少しそばにいたいって気持ちが傾いたのは。
あの日、君は俺の心を捉えたんだよ。
おわり
一七三、一筋の光
時々、知り合いから子供を預かるんだけれど、子供の世話がとても楽しくて、「預かれる?」と聞かれると、余程じゃない限りは預からせてもらうことにしている。
もう一つの理由は、まあ、お互い先を見据えているからというのもあるんだけれどね。
何度かお世話させてもらっている赤ちゃんを預かった。少しずつ俺たちのことも慣れてきたみたいで、今まで以上に笑顔が多かった。
だからこそさ、お別れが寂しいんだよね。
両親がお出迎えしてくれて、満面の笑みでバイバイしてくれる。
彼女も笑顔で手を振っているけれど、俺は分かるよ。君をずっと見ているから。
楽しそうな笑顔を向けているけれど、その背中はとても寂しそうだった。
俺は彼女の手を取ると、彼女が驚いてこっちを見てくれる。俺はゆっくりと瞬きをひつとすると、彼女の気持ちを理解しているのが伝わったようで、くしゃりと表情を歪ませて俺に抱きついた。
いつか。
いつか、俺たちの天使を迎えようね。
おわり
一七二、哀愁を誘う
朝、顔を洗いながら鏡の中の自分を見る。
明らかに童顔で、少し中性的だから〝かわいい〟と言われてしまうのは分かっている。
でも俺は男だから、せめて恋人には格好いいところを見せたい!
「格好よくなりたいなぁ……」
「格好いいですよ?」
小さく呟いたのに、たまたま通りかかった恋人にそう返答された。
「そんなこと思ってないでしょ?」
「え? 思っていますよ」
「かわいいってよく言うじゃん」
「それはかわいいからです」
「格好よくないじゃん!」
「格好いいんですよぅ」
俺は納得いかなくて頬をふくらませる。すると空気の入った両頬に彼女の手が添えられた。
空気を吐き出して、唇を尖らせると彼女はくすっと笑ってくれる。
「かわいい」
「ほら、格好よくない」
彼女は頬に添えられた手を首の方に伸ばして俺を抱き寄せる。自然と耳が彼女の唇の近くなった。
「格好いいところは、私だけが知っていればいいんです」
少しだけ悔しい気持ちはあるけれど、彼女だけは俺のことを格好いいって思ってくれるなら、それでいいや。
そう思って彼女を抱きしめ返した。
――
「お仕事している姿は誰よりも格好いいのに……。なんでそこに気が付かないのかな? ……でもそこがいいからナイショにしておこ」
おわり
一七一、鏡の中の自分
今日も仕事疲れた。
雨の日に新月は運ばれる患者が増えるから、終わったあとの疲労感は半端じゃなかった。
夕飯も、お風呂も終わらせていると一気に疲労感が溢れて眠気に襲われる。
「眠いなら早めに寝た方がいいですよ?」
「え?」
気がついたら、見ていたテレビ番組が終わっていた。
「寝てた……よね?」
「はい、寝てましたね」
同棲している恋人は、柔らかく微笑んで俺の手を取る。
「寝ましょ」
「……うん」
彼女に手を引かれながら寝室にたどり着くと、広いベッドに倒れ込む。彼女が掛け布団をかけながら、俺の頭を抱きしめてくれた。
「ありがとう、癒されるー。今日は本当にちかれたー」
彼女の体温に、ふわふわとしたベッドの布団が心地よくて、身体中の疲労が溢れて眠気を誘ってくる。
でももう少し彼女の温もりを感じていたいー……。
それなのに、彼女が俺の頭を優しく撫でてくれるから、意識が飛びそうになる。彼女だって仕事してきたのに甘えきってるなー。
「甘えてごめんね」
「ふふ。私がへろへろになった時は、いい子いい子してくださいね」
ちゅ。
これのつむじに柔らかい温もりを感じる。
眠る前のちゅー。これが安心に繋がるんだよね。
明日は俺からするんだ。
そんなことを思いながら、熟睡してしまった。
おわり
一七〇、眠りにつく前に
今日は結婚式に呼ばれ、恋人と一緒に参加した。
旦那さんも花嫁さんも幸せそうで、見ていると俺も嬉くなる。
ちらりと隣にいる恋人を見つめると、〝表情筋が無くなったのか?〟と心配になるほどゆるゆるに笑っていた。
そして、その瞳には羨望が混じっていることに気がついてしまう。
みんなで大盛り上がりを見せている中、俺はテーブルの下から彼女に手を差し伸べる。それに気がついた彼女は、なんの疑問を持つことも無く俺の手を取った。
そういう迷いのないところ、本当に好きだよ。
熱を込めて見つめていると、お化粧していつもより綺麗になった彼女の頬が少し赤くなる。それが嬉しくて、目を細めて口角を上げて声に出さない言葉を送った。
『こんどは、おれたちのばん』
俺の言葉の意味を理解して驚くけれど、目の端にきらりと光るものを溜めながら、満面の笑みで大きく頷いてくれた。
おわり
一六九、永遠に