朝、顔を洗いながら鏡の中の自分を見る。
明らかに童顔で、少し中性的だから〝かわいい〟と言われてしまうのは分かっている。
でも俺は男だから、せめて恋人には格好いいところを見せたい!
「格好よくなりたいなぁ……」
「格好いいですよ?」
小さく呟いたのに、たまたま通りかかった恋人にそう返答された。
「そんなこと思ってないでしょ?」
「え? 思っていますよ」
「かわいいってよく言うじゃん」
「それはかわいいからです」
「格好よくないじゃん!」
「格好いいんですよぅ」
俺は納得いかなくて頬をふくらませる。すると空気の入った両頬に彼女の手が添えられた。
空気を吐き出して、唇を尖らせると彼女はくすっと笑ってくれる。
「かわいい」
「ほら、格好よくない」
彼女は頬に添えられた手を首の方に伸ばして俺を抱き寄せる。自然と耳が彼女の唇の近くなった。
「格好いいところは、私だけが知っていればいいんです」
少しだけ悔しい気持ちはあるけれど、彼女だけは俺のことを格好いいって思ってくれるなら、それでいいや。
そう思って彼女を抱きしめ返した。
――
「お仕事している姿は誰よりも格好いいのに……。なんでそこに気が付かないのかな? ……でもそこがいいからナイショにしておこ」
おわり
一七一、鏡の中の自分
11/3/2024, 12:12:54 PM