とある恋人たちの日常。

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10/3/2024, 1:08:10 PM

 
「ただいま帰りましたー」
 
 ソファに座ってのんびりスマホを見ていると、玄関から愛らしい声が響き渡った。
 
 俺は立ち上がって恋人がいる玄関に足を向ける。居間の扉を開けると彼女が飛び込んできた。
 
「おかえりー!!」
「ただいまー!!!」
 
 俺は彼女を正面から受け止めて、力強く抱き締める。彼女もぎゅーっと抱き締めてくれて、もう毎日が幸せです。
 
 ゆっくりと腕の力を抜くと、彼女は満面の笑みでポケットから何かを取りだす。そして俺の目の前に差し出した。金属が擦れる音と共に揺れ動くのは精巧なクリームソーダのチャームだった。
 
 それを認識した瞬間、目を大きく開けて叫んでしまった。
 
「あーーー!!!」
 
 それはずっと探していたクリームソーダのチャーム。とあるお店で期間限定メニューのおまけ商品だった。
 
 クリームソーダが好きな俺としては欲しかったんだけれど、俺も彼女もその存在を知ったのは期間が過ぎた後だった。
 
 後からSNSで知った時のショックたるや半端じゃなくて、それから結構探していた。
 
「ど、ど、どうしたのこれ!?」
「今日、久しぶりに会えたお客さんからもらったんです!」
「え、え!?」
「あげます!!」
「いいの!!?」
「もちろん、そのためにもらったんですから」
 
 彼女は目を細めて、俺の手の上にクリームソーダのチャームを乗せてくれた。
 
「やったー!! やっと巡り会えたーーー!! 会いたかったよー!!」
 
 俺がチャームに頬ずりしていると、さっきより満足気に微笑む彼女。俺はそんな彼女に頭を下げつつ、両手は敬うように上げた。
 
「ありがとうございますー!! いや、冗談抜きで! 本当に大事にするね」
「ずっと探していたの、知っていたので喜んでくれれば嬉しいです」
「絶っっっっっ対、大事にする!!」
  
 これはそのチャームに視線を向ける。綺麗な造形に感激で胸が震えそうだ。
 
 そして、俺はこのチャームをどうしても欲しい理由があった。
 
 淡い黄緑色のクリームソーダのチャームは炭酸も氷もリアルで、クオリティがかなり高い。そしてなにより、乗っかっているアイスクリームはクッキーを使ってパンダを模していたのだ。
 
 俺の恋人はパンダの着ぐるみに近い部屋着を着ている。
 
 好きなもの(クリームソーダ)‪✕‬好きなもの(パンダを彷彿させる恋人)なんだ。
 欲しいに決まっているでしょ。
 
 彼女が貰ってきてくれたのは申し訳なさがあるけれど、それ以上に感謝でいっぱいになった。
 
「これ、今度はうさぎのアイスクリームのクリームソーダを作ってくださいって言っておきました!」
「んんっ!?」
「第二弾、やってくれるそうですよ!」
 
 サラッと爆弾を落とすような発言に俺は口を開いてしまう。彼女の表情は見る見るうちにいたずらっ子のような悪い笑顔になっていった。
 
「まさか……」
「はい。お店のマスターがお客さんです!」
 
 そう言うと彼女は、同じチャームをもうひとつ見せてくれた。
 
 してやったり。
 そう顔に書いてある。
 
 俺は彼女の客の幅広さに脱帽していると、腕を絡めて耳元に囁いてくれた。
 
「今度は一緒に行きましょ」
 
 
 
おわり
 
 
 
一四〇、巡り会えたら

10/2/2024, 12:02:59 PM

 
 あーあ、やっちゃったな。
 
 イベントがあると聞いて急いでいたら、バイクが曲がりきれずに横転してしまった。しかもここは人通りも少ない裏道。
 連絡するにも、他の車もバイクも通らないし、身体中痛くてスマホを取り出すのも難しい。
 
 どうしよう。
 
 ぼんやりと視界が揺らぎ、熱いものが目の端からこぼれ落ちた。
 
 ――
 
 そう言えば。
 彼と付き合う前にも同じようなことがあったな。
 
 大きなイベントがある直前に、ド派手に怪我して救助に来てくれたのは彼だった。
 
「こんな日に事故りやがってって怒ってやろうと思ったけれど、君だから許す。本当に気をつけなよ」
 
 意識が戻ってから、そう笑ってくれた。
 
 あの時にはもう彼のことが好きだったの。
 
 彼が来てくれたら嬉しい。そう思ったけれど、実際に来てくれるなんて思わなかった。
 もちろん、わざと怪我したわけじゃない。
 でも、彼に会う理由は怪我をするしか方法がないのも事実。救急隊員で忙しい彼を誘うなんて、私には出来なかったから。
 
 あの時来てくれたのも、恋人同士になれたことも、私には奇跡でしかないんだよ。
 
 ――
 
「救急隊の人、こっちです!!」
「ありがとうございます! !!」
 
 大きな音、これはヘリコプターの音?
 
 近くに誰かが通ってくれたのかな。私の状況を見て救急隊に連絡をしてくれたみたいだった。
 
「もう大丈夫だよ!!」
 
 聞き慣れた声だ。会いたい声だ。
 ぼんやりする意識の中、視界に入るのは誰よりも愛おしい彼。
 
「あとはこっちで引き受けます。連絡してくれて、ありがとうございました」
 
 ハキハキと通る声で、連絡してくれた人にお礼を言う。そうして私は彼に救出された。
 
「治ったらお説教だからね」
 
 そう言ってくれた彼の声は、いつも愛してくれる時と同じくらい優しい声をしていた。
 
 
 
おわり
 
 

一三九、奇跡をもう一度

10/1/2024, 12:43:57 PM

 私の彼は赤毛で、珍しい金色の瞳をしている。しかも金色の中に髪の毛と同じような赤が反射する。
 私は彼の瞳を夕陽のような色だと思っていた。
 
 だから、私は夕焼けの空を見ると彼を思い出すし、安心する瞬間がある。
 
「どうしたの?」
 
 後ろから彼が声をかけてくれたから、私は振り返った。
 夕陽を浴びてにっこりと笑う彼を見て、つられて口角が上がる。
 
「夕陽ってあなたの色だよね」
 
 彼は目を見開いて、きょとんと首を傾げた。
 
「夕陽?」
「はい、今みたいなたそがれ色、です!!」
 
 私は彼の胸に飛びついた。
 
 
 
おわり
 
 
 
一三八、たそがれ

9/30/2024, 11:29:43 AM

 ソファに座ってくつろいでいると、恋人が目の前に仁王立ちした。
 
「え、なに、どうしたの?」
 
 唇を尖らすと言うか、への字口で俺の目の前に立つ彼女に正直ビックリした。
 
「もっと奥に座ってください」
「へ!?」
 
 奥って……いや、俺は結構深く座っているけれど……どうしろと?
 そんなことを思いながら、ソファの奥ににじりにじりとさらに深く座れるように頑張ってみた。
 
 それを見ていた彼女は頬を膨らませ、俺の腕を掴んではぎゅっとしがみく。少しだけ空いた俺の前に無理矢理座った。まるで俺の胸に収まるように。
 
 甘えたいのかな。
 
 俺は彼女の背中と両足に腕を通し、持ち上げて横抱きする。そして、彼女の頭は俺の肩に乗せるので、彼女の腰を抱き寄せた。
 
「どうしたの?」
「んー……」
 
 俺は彼女の頭を優しく撫でる。
 
「いいことも、悪いことも、嫌なこともあります。それは、きっと明日も」
「うん」
「私はあなたがいれば頑張れます」
 
 俺に縋りながら小さく肩を震わせる彼女。まるで子供が怯えているみたいだった。
 俺の心の奥から込み上げる何かが溢れ、ただ強く彼女を抱きしめた。
 
「俺もだよ」
 
 
 
おわり
 
 
 
一三七、きっと明日も

9/29/2024, 12:17:26 PM


 肩にある重みに痺れが出て、青年はゆっくりと目を開ける。重い方に視線を送ると恋人が寄りかかり、定期的な上下の動きをしていた。
 
 青年は思考をめぐらせる。彼女が帰る前に疲れに負けてベッドにダイブしたところまでは思い出せた。
 時計を見ると自分が意識を手放してから、数時間が経っていた。恐らくその後に彼女も帰ってきて、同じようにベッドに飛び込んだのだろう。
 
 青年は体勢をずらして、起こさないよう最新の注意を払いながら彼女の頭を枕に乗せる。定期的な吐息を見るに、起きる気配はなくて青年は安心した。
 
 すいよすいよと眠る恋人の表情はあどけなさも残っていて、でもその唇は大人っぽさも感じられて青年の心臓は高鳴った。
 
 ほんの少し前まで、ここは静寂に包まれた部屋だった。
 
 彼女の寝息。
 青年の心臓の音。
 
 本当は音のないはずなのに、内側から音が鳴り響く。
 
 青年は腕を伸ばして彼女を抱きしめる。
 余程疲れているのか、起きる気配はない恋人。
 
 抱きしめているうちに、青年の心臓は落ち着きを取り戻していく。すると愛しい温もりと共に睡魔が襲ってきた。
 
 青年は抵抗することなく意識を手放す。
 
 そうして再び、恋人たちの寝室は静寂に包まれた。
 
 
 
おわり
 
 
 
一三六、静寂に包まれた部屋

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