とある恋人たちの日常。

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「ただいま帰りましたー」
 
 ソファに座ってのんびりスマホを見ていると、玄関から愛らしい声が響き渡った。
 
 俺は立ち上がって恋人がいる玄関に足を向ける。居間の扉を開けると彼女が飛び込んできた。
 
「おかえりー!!」
「ただいまー!!!」
 
 俺は彼女を正面から受け止めて、力強く抱き締める。彼女もぎゅーっと抱き締めてくれて、もう毎日が幸せです。
 
 ゆっくりと腕の力を抜くと、彼女は満面の笑みでポケットから何かを取りだす。そして俺の目の前に差し出した。金属が擦れる音と共に揺れ動くのは精巧なクリームソーダのチャームだった。
 
 それを認識した瞬間、目を大きく開けて叫んでしまった。
 
「あーーー!!!」
 
 それはずっと探していたクリームソーダのチャーム。とあるお店で期間限定メニューのおまけ商品だった。
 
 クリームソーダが好きな俺としては欲しかったんだけれど、俺も彼女もその存在を知ったのは期間が過ぎた後だった。
 
 後からSNSで知った時のショックたるや半端じゃなくて、それから結構探していた。
 
「ど、ど、どうしたのこれ!?」
「今日、久しぶりに会えたお客さんからもらったんです!」
「え、え!?」
「あげます!!」
「いいの!!?」
「もちろん、そのためにもらったんですから」
 
 彼女は目を細めて、俺の手の上にクリームソーダのチャームを乗せてくれた。
 
「やったー!! やっと巡り会えたーーー!! 会いたかったよー!!」
 
 俺がチャームに頬ずりしていると、さっきより満足気に微笑む彼女。俺はそんな彼女に頭を下げつつ、両手は敬うように上げた。
 
「ありがとうございますー!! いや、冗談抜きで! 本当に大事にするね」
「ずっと探していたの、知っていたので喜んでくれれば嬉しいです」
「絶っっっっっ対、大事にする!!」
  
 これはそのチャームに視線を向ける。綺麗な造形に感激で胸が震えそうだ。
 
 そして、俺はこのチャームをどうしても欲しい理由があった。
 
 淡い黄緑色のクリームソーダのチャームは炭酸も氷もリアルで、クオリティがかなり高い。そしてなにより、乗っかっているアイスクリームはクッキーを使ってパンダを模していたのだ。
 
 俺の恋人はパンダの着ぐるみに近い部屋着を着ている。
 
 好きなもの(クリームソーダ)‪✕‬好きなもの(パンダを彷彿させる恋人)なんだ。
 欲しいに決まっているでしょ。
 
 彼女が貰ってきてくれたのは申し訳なさがあるけれど、それ以上に感謝でいっぱいになった。
 
「これ、今度はうさぎのアイスクリームのクリームソーダを作ってくださいって言っておきました!」
「んんっ!?」
「第二弾、やってくれるそうですよ!」
 
 サラッと爆弾を落とすような発言に俺は口を開いてしまう。彼女の表情は見る見るうちにいたずらっ子のような悪い笑顔になっていった。
 
「まさか……」
「はい。お店のマスターがお客さんです!」
 
 そう言うと彼女は、同じチャームをもうひとつ見せてくれた。
 
 してやったり。
 そう顔に書いてある。
 
 俺は彼女の客の幅広さに脱帽していると、腕を絡めて耳元に囁いてくれた。
 
「今度は一緒に行きましょ」
 
 
 
おわり
 
 
 
一四〇、巡り会えたら

10/3/2024, 1:08:10 PM