私の彼は赤毛で、珍しい金色の瞳をしている。しかも金色の中に髪の毛と同じような赤が反射する。
私は彼の瞳を夕陽のような色だと思っていた。
だから、私は夕焼けの空を見ると彼を思い出すし、安心する瞬間がある。
「どうしたの?」
後ろから彼が声をかけてくれたから、私は振り返った。
夕陽を浴びてにっこりと笑う彼を見て、つられて口角が上がる。
「夕陽ってあなたの色だよね」
彼は目を見開いて、きょとんと首を傾げた。
「夕陽?」
「はい、今みたいなたそがれ色、です!!」
私は彼の胸に飛びついた。
おわり
一三八、たそがれ
ソファに座ってくつろいでいると、恋人が目の前に仁王立ちした。
「え、なに、どうしたの?」
唇を尖らすと言うか、への字口で俺の目の前に立つ彼女に正直ビックリした。
「もっと奥に座ってください」
「へ!?」
奥って……いや、俺は結構深く座っているけれど……どうしろと?
そんなことを思いながら、ソファの奥ににじりにじりとさらに深く座れるように頑張ってみた。
それを見ていた彼女は頬を膨らませ、俺の腕を掴んではぎゅっとしがみく。少しだけ空いた俺の前に無理矢理座った。まるで俺の胸に収まるように。
甘えたいのかな。
俺は彼女の背中と両足に腕を通し、持ち上げて横抱きする。そして、彼女の頭は俺の肩に乗せるので、彼女の腰を抱き寄せた。
「どうしたの?」
「んー……」
俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「いいことも、悪いことも、嫌なこともあります。それは、きっと明日も」
「うん」
「私はあなたがいれば頑張れます」
俺に縋りながら小さく肩を震わせる彼女。まるで子供が怯えているみたいだった。
俺の心の奥から込み上げる何かが溢れ、ただ強く彼女を抱きしめた。
「俺もだよ」
おわり
一三七、きっと明日も
肩にある重みに痺れが出て、青年はゆっくりと目を開ける。重い方に視線を送ると恋人が寄りかかり、定期的な上下の動きをしていた。
青年は思考をめぐらせる。彼女が帰る前に疲れに負けてベッドにダイブしたところまでは思い出せた。
時計を見ると自分が意識を手放してから、数時間が経っていた。恐らくその後に彼女も帰ってきて、同じようにベッドに飛び込んだのだろう。
青年は体勢をずらして、起こさないよう最新の注意を払いながら彼女の頭を枕に乗せる。定期的な吐息を見るに、起きる気配はなくて青年は安心した。
すいよすいよと眠る恋人の表情はあどけなさも残っていて、でもその唇は大人っぽさも感じられて青年の心臓は高鳴った。
ほんの少し前まで、ここは静寂に包まれた部屋だった。
彼女の寝息。
青年の心臓の音。
本当は音のないはずなのに、内側から音が鳴り響く。
青年は腕を伸ばして彼女を抱きしめる。
余程疲れているのか、起きる気配はない恋人。
抱きしめているうちに、青年の心臓は落ち着きを取り戻していく。すると愛しい温もりと共に睡魔が襲ってきた。
青年は抵抗することなく意識を手放す。
そうして再び、恋人たちの寝室は静寂に包まれた。
おわり
一三六、静寂に包まれた部屋
上司にあたる人が、病院で使う車やヘリ全部の修理を俺の恋人が務めている会社に依頼した。
上司は上司同士と言うか、彼女の会社の社長と仲が良く、腕も買っているため割とよく頼む。
今回は台数も多いので、人数を連れて出張で修理に来てくれた。その中には俺の恋人もいる。
「よっしゃ、みんな直すでぇ!!!」
「「「おー!!!」」」
社長さんの掛け声で、修理が開始された。
――
もうすぐで全部の修理が終わる。
彼女の担当している車も修理が終わり、他の社員自分の担当していた修理が終わると、自然と集まって談笑していた。
最後の修理が終わって、上司が支払いをして帰る準備をしている時、彼女が俺の元に来てくれた。
何かを言うわけではなく、ただ隣に立って寄り添ってくれる。
どちらからともなく、身体で手を隠しながらお互いの指が絡み合う。大好きな彼女の仕草に心が暖かくなりながら、身体も少し軽くなった気がした。
どこかくすぐったい気持ちのまま、彼女に視線を送る。すると当たり前のように彼女と目が合うものだから二人して笑ってしまった。
「私も充電」
そう微笑むと、指が離れて彼女は会社の人たちの元へ戻っていった。
そして楽しそうに社長さんの車に乗り込んで帰っていく。
柔らかく温かい感触が抜けていくのはほんの少しだけ寂しさを覚えた。
けれど、そう。
別れ際に指が絡み合った瞬間、確かに俺の心も充電された。
おわり
一三五、別れ際に
ほんの少し前まで綺麗な青空を見ていたのだが、灰色の雲が覆い始める。
嫌な予感を覚えた青年は、恋人の手を取りカフェへ促した。窓際の席に座った頃、更に空の色合いは暗さを増していた。
ぽつ、ぽつぽつ……。
「わあ……雨降ってきましたね……」
彼女はスマホを取り出して、天気予報を覗き込む。
「一時間くらいて止みそうです」
天気予報アプリの画面を青年に見せつけながら、屈託のない笑顔を向けてくれた。
「出かけられなくなっちゃったね」
青年は視線を外に向けながら声のトーンを小さくして囁く。それを見た彼女は青年の手に自分の手を重ねた。
「通り雨ですから、止んだら続きのデートをしましょ。それまではカフェデートです!」
優しく微笑む彼女に、心が暖かくなるのを感じながら、手のひらをひっくり返して彼女の指と指の間に自分のそれを通した。
「そうだね。時間はあるんだからゆっくりしていこう」
彼女と一緒にいる時間、それは変わらないのだから。
おわり
一三四、通り雨