普段から隣に座る恋人。今日は俺の肩に頭を乗せて、腕を絡めながらテレビを見ている。
なんだろう。
この感じ、久しぶりだなー……。
彼女の温もりが心地好くて、俺も彼女の頭に寄りかかる。
気持ちいいなー。
あ、そっか。
滲むような汗が吹き出るんじゃない。この暖かい体温が安心感を覚え、彼女の身体を抱き寄せていることに気がついた。
「どうしたんですか?」
俺が身体で反応してしまったようで、彼女が不思議そうな声をあげてくる。俺は彼女の頭を優しく撫でた。
「秋めいてきたなって思って」
「そうですね!!」
パッと微笑んだ彼女は、正面から俺を抱き締めてた。
「ぎゅーってしても汗いっぱいになりませんね!」
おわり
一三三、秋🍁
居間でぼんやりと飲みものを飲んでいると、庭から楽しそうな声が響き渡った。
声に導かれて視線を送ると、窓から見えたのは恋人と幼子だった。
幼子は知り合いの子で、どうしても手が離せない知り合い夫婦の代わりに俺たちが面倒を見ていた。
幼子が、両手を広げた恋人に向けてよちよち歩いては彼女の胸に飛び込んでいる。
彼女の口元が、「よくできました!」と抱きしめている姿がとても微笑ましくて。
いいな、あの姿。
まだ恋人……けれど、いつか。
この景色を家族として見たいな。なんて思ってしまった。
おわり
一三二、窓から見える景色
深夜、喉が渇いて目を覚ます。
近くに置いてあったペットボトルに手を伸ばして、水を口に含んだ。
隣で眠っていた彼女が起きないのに安心しながら、俺はもう一度彼女を後ろから抱きしめた。
「大好きだよ」
すいよすいよと眠っている恋人に、小さく囁いた。
形の無い気持ちだけれど、俺の中には明確にあった。
お互いを想い合う、なんて奇跡がここで起こっているんだ。
縋るように彼女を抱きしめると、彼女の独特の甘い香りと、一緒に使っているシャンプーのにおいが鼻をくすぐる。それが俺に安心感を与えてくれる。
少しずつ全身の力が抜けていくのと同じく、俺の意識も少しずつ遠くなっていく。
ああ、君を好きになって良かった。
おわり
一三一、形の無いもの
「わーい!」
デートの帰りに見かけた公園。最近は見かけないパイプを骨組みにしてできた遊具に、彼女は登り始める。
「危ないよー」
「大丈夫ですー!!」
俺としてはスカートも少し気になるところなのだけど。彼女は俺の気持ちを知らずにスイスイと登る。ある程度のところで、俺は一歩後ろに戻り進めなくなった。
「どうしましたかー?」
理由を伝えるかどうか悩むが、俺は口を開いた。
「下着が見えそうー」
「えっち!!」
「理不尽!」
俺はそれを心配していたのに、真っ先に怒られてしまった。気にせず登ったのは彼女なのに。
「危ないから降りて降りて。落ちても応急処置しか出来ないからねー」
「はぁーい」
俺の職業は救急隊員。でも今の俺は医者じゃない。ただの彼女の恋人なのだ。
彼女は素直にジャングルジムから降り、最後に体操の選手のようなキメ技っぽく飛び降りるからパチパチと拍手を送る。
彼女はピースを俺に向けて満足気に笑った。
「俺も登ってみようかな」
「普段と違う景色が見えますよ!」
得意気に微笑む彼女だが、俺は彼女の足元を指さした。
「登っちゃだめだからね」
「ぶー!」
俺は視線を上に向けるけれど、彼女の強い視線もしっかり受ける。
「やっぱりやめよう」
「どうしてですか?」
「今度はここに登ることも想定して来ようよ」
つまりは彼女がズボンを履いてきた時にと伝える。
「ふたりで登りたいな」
とは言え、最近ジャングルジムは遊具として危険だと言うことで、どんどん姿を消している。だから早めに来られるように予定を立てようと彼女に伝えると、大きく頷いてくれた。
思い出を作るならふたりが良い。
おわり
一三〇、ジャングルジム
一二九、声が聞こえる
盛大に怪我をしてしまい病院で診てもらうことになった。
私の恋人は病院で仕事をしている救急隊員。
今日は病院待機かな?
彼の姿を見ることができるかな?
私は彼が仕事をしている姿がとても好き。
いつも見せてくれる柔らかい雰囲気を飛ばして見せてくれる格好いい彼。このギャップがまた私の心をつかむの。
病院に着くと、診察室まで誘導されるけれど、この間には彼を見つけることは無かった。
名前を呼ばれる直前、とても聞き慣れた声が聞こえる。その方を目線だけ向けると待機中の彼の姿がそこにあった。
仲間と話している屈託のない笑顔は、家で見る緩んだ表情とは全然違う。
私の知らない彼だ。
彼を見ることができたのが嬉しくて、口元が緩んでしまった。
その後の治療は別の先生がしてくれて、付き添いの友人の車に乗り込むと、スマホが震える。スマホを確認すると、彼からメッセージが入っていた。
『怪我した? 大丈夫? 仕事終わりに迎えに行こうか?』
少し離れていたから声をかけずに戻ってきたのだけど、私の姿もしっかり見られていたみたい。
真っ先に怪我の心配や、帰り道を心配してくれる彼は本当に優しい人。
『ありがとうございます。怪我は大丈夫ですよ。帰りはお願いしたいかもです。あ、仕事中の姿、格好良かったです!』
素直にそうやって返すと、直ぐに返事が来た。
『照れちゃうから、言わないで!』
どんな表情で返事を打ったのだろうと、想像すると笑ってしまい、私はまた返事を送った。
『仕事中の姿、本当に格好良かったです!』
おわり
一二九、声が聞こえる