とある恋人たちの日常。

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8/27/2024, 2:24:52 PM

 
 出張に出て数日経った。
 俺が住んでいる土地から離れた場所で、気候も違う。そして本日最後の救助の最中から雨が降り始めていた。
 
 救助後、他の隊員に患者を託して、雨の中に他に救助を待つ人が居ないかを確認する。救助を求める人数を確認して、撤収しても問題ないと連絡が入った。ヘリに乗って宿舎に戻ろうとするが、足を止める。
 
 雨が服に染み込んで身体が重い。
 けれど、心も重かった。
 
 今回の出張は、何回目かの出張で同棲している恋人が心配になる。
 元気な笑顔で、背中を押してくれる彼女。出張から帰った後は隣に座る時にいつも以上に傍によってきたり、眠る時は背中から抱きついて離れない。
 だから、今回の出張を伝えた時に固まる表情が忘れられないし、心配になった。
 
 出張に出る前、彼女が好きそうな装丁のノートを買った。寂しくないように彼女への気持ちを沢山綴ってきた。
 電話やメールで連絡すれば良いとは思うが、アナログな文字にこだわった。
 そこに温もりがあると思ったから。
 
 空を見上げると、顔に雨が容赦なく叩きつける。
 
 早く。
 会いたい。
 
 
 
おわり
 
 
 
百三、雨に佇む

8/26/2024, 2:33:33 PM

 
 同棲している恋人が、今日から仕事で出張に行くことになった。
 仕事だから仕方がないとはいえ、出張に行かれてしまうのは、寂しさで胸が締め付けられてしまう。
 でも、それを青年に見せないように、彼女は務めて明るく振舞った。
 
 青年を見送った後。家に帰ると見慣れないノートがテーブルの彼女の席に置いてあった。
 
 そのノートは爽やかな青い空の写真。外装はハードカバーで、金色の箔押しで綺麗なフォントでダイアリーと書いてある。
 
 青年の日記だろうか。
 そもそも、日記なんて付けていただろうかと考えを巡らせる。
 
 そっとノートに触れた。
 
 見ていいのかな。
 でも、日記だったらプライベートだし……。でもでも、私の席に置いてあるんだから……。
 
 そんなふうに考えた後、彼女は思い切ってノートを開いた。
 
 そこには、青年の文字がびっしりと書き綴られていた。
 彼女を想う語り言葉が。
 その文字ひとつに愛情を感じる優しい言葉が。
 
 胸が熱くなり、気がつくと頬に涙がつたっていた。ひとつ、ふたつ……と、とめどなく溢れてくる。
 
 青年の文字を撫でて、読んで行くうちに、自然と笑みが零れていた。
 
 寂しい気持ちは沢山ある。
 けれど、青年が置いてくれたノートの中にある彼女を想う言葉で寂しさは減っていった。
 
 涙を拭うと、彼女は立ち上がってペンを持ってきて、ノートのページをめくる。そして何も書いていないページに青年への想いを書き綴り始める。
 彼が戻ったら、読んでくれるように。
 
 これが、私たちの日記帳。
 
 
 
おわり
 
 
 
百二、私の日記帳

8/25/2024, 1:25:44 PM

 今日の夕飯当番は青年の番で、器用にフライパンを振る。そこにはベジタブルが混ざった赤いご飯が軽く宙を舞った。そして、甘いバターの香りが鼻をくすぐる。
 
「お皿はこっちでいいですか?」
 
 そう恋人が楽しそうな声で青年に確認をする。彼女が見せてくれたお皿は青年が思っていた通りの、大きめな二枚のお皿。
 
「ありがとう。そこに置いといて」
 
 続いて別のフライパンを取り出して、溶き卵を流す。それにチキンライスを中に入れて、卵で包み込む。
 
「ほいよっと!」
 
 フライパンをお皿に向けて、中にあったオムライスをぽんと乗せた。
 
「わー! 美味しそうです!」
 
 彼女は目の前のお皿に感嘆の声をあげながら拍手をする。
 
「すぐもうひとつ作るからねー」
 
 青年はそう告げると軽い足取りで、溶き卵をフライパンに流し込む。
 
 ほかほかと美味しそうな香りで鼻をくすぐるオムライスを見る彼女。
 
「ケチャップでなにか書いてもいいですか?」
 
 もし他にかけるものがあったらと心配した彼女が青年に問うと、彼女に振り向かずに青年は答えた。
 
「いいよー」
「やった!」
 
 彼女はケチャップを使ってなにかを描き始める。途中で、「わっ!」とか、「ズレた!」とか言っていたが、青年は聞かないフリをした。
 
 そして二つ目をお皿に乗せると、最初に作ったオムライスは青年のテーブルに鎮座していた。
 
「なに描いたの?」
 
 そう覗くと不器用ながらに描いたであろうイラストがあった。ゆがんだ絵に青年は頭を捻った。
 
「あ、分かった、クマだ!!」
「違う、パンダだもん!!」
 
 青年が考えている間に、もうひとつのオムライスにもケチャップアートが出来ていた。
 
「こっちは犬?」
「うさぎ!!」
 
 頑張って見れば見られないこともない、歪なうさぎのイラストに笑いが込み上げた。
 
「画伯……」
「頑張ったのにー!?」
「ごめん、ごめん。ありがとう」
「笑ってます!」
「いや、本当にごめん。で、俺がパンダなの?」
 
 彼女は普段、パンダの部屋着を着ている。だからパンダモチーフは彼女のイメージだった。そして、青年のモチーフはうさぎなのだ。
 
「はい、あってます!」
 
 そう彼女は満面の笑みで頷く。
 青年は付け合せのサラダを出しながら、自分の席に座った。
 
 向かい合わせに彼女が座る。
 
「食べましょ!」
「うん」
 
 美味しそうな香りで食欲を刺激する彼女のモチーフのパンダのオムライス。青年はジッとそれを見て変なことを考える。
 
 
 これって……、俺は彼女を食べちゃっていいってこと?
 
 
 と。
 違う意味で……大変、邪な思いが脳裏に浮かんでしまった。
 
「どうしました?」
 
 彼女は、不思議そうな顔をして首を傾げる。
 
「あ、ううん。食べよ、食べよ。いただきます!」
「いただきまぁす!」
 
 彼女は青年の考えなど知らずに、満面の笑みでオムライスを口に入れた。
 
「ん〜〜〜おいしい!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
百一、向かい合わせ

8/24/2024, 1:00:14 PM

百、やるせない気持ち
 
 彼女はベッドの上でうさぎのぬいぐるみを抱きしめて横になっていた。
 同棲している恋人とは、もう一週間も会えていない。
 
「あと一週間か……」
 
 愛しい青年は仕事の関係で二週間、出張に行っている。そして、今日で折り返しだ。
 
 一日目は、これから頑張ろうと思えた。
 
 二日目も、まだ大丈夫だと思えた。でも心が乾いているような気がしたけれど、それを見ないようにした。
 
 三日目は、気がついたらため息をしていると、社長から指摘された。
 
 四日目は、ご飯を食べても美味しいと思えなくなっていると気がついてしまった。
 
 五日目は、寂しくて向けが締め付けられ、風呂場で頭からシャワーを浴びながら涙を零した。
 
 昨日は……どうだったか彼女は覚えていない。ひとりでいる事実が嫌で、早く寝てしまったのだ。
 
 彼女はベッドにうつ伏せになって、うさぎのぬいぐるみに顔を埋める。すると目が熱くなった。
 
「寂しいよ……」
 
 
 
おわり
 
 
 
百、やるせない気持ち

8/23/2024, 2:19:18 PM

 恋人たちが終着駅に辿り着いて電車を降りると、青空が広がっていた。そして潮の香りが鼻をくすぐる。
 目映い日差しに目を細めた。
 
「暑いですね」
「そうだね。じゃあ、まずは宿に向かおうか」
 
 青年は自分の荷物と持ち、立ち上がるついでに彼女の荷物を持って歩みを進める。
 
「あ、カバン……」
「これくらい持つよ。じゃあ、俺についてきて」
 
 恋人たちが向かう場所は、以前、青年が職場の人たちと訪れたことのあるところだった。
 
 道なりに歩いていくと、少しずつ聞こえる波の音。道をぬけると、そこには海岸が広がっていた。
 
「わ、きれい……」
 
 彼女の瞳に映るのは透明度の高い青い水。その海の光が反射して、彼女の瞳はいつもよりキラキラ輝いているように見えた。
 そして、その光景は彼女の視線を釘付けにする。
 
 青年はそんな彼女を見つめて、嬉しそうに微笑む。この後に待っていることも楽しんでもらえるといい。そんなふうに思った。
 
「宿に着いたら荷物を置いて、ここにまた来よう」
「はい!!」
 
 旅行は始まったばかりだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
九十九、海へ

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