恋人たちが終着駅に辿り着いて電車を降りると、青空が広がっていた。そして潮の香りが鼻をくすぐる。
目映い日差しに目を細めた。
「暑いですね」
「そうだね。じゃあ、まずは宿に向かおうか」
青年は自分の荷物と持ち、立ち上がるついでに彼女の荷物を持って歩みを進める。
「あ、カバン……」
「これくらい持つよ。じゃあ、俺についてきて」
恋人たちが向かう場所は、以前、青年が職場の人たちと訪れたことのあるところだった。
道なりに歩いていくと、少しずつ聞こえる波の音。道をぬけると、そこには海岸が広がっていた。
「わ、きれい……」
彼女の瞳に映るのは透明度の高い青い水。その海の光が反射して、彼女の瞳はいつもよりキラキラ輝いているように見えた。
そして、その光景は彼女の視線を釘付けにする。
青年はそんな彼女を見つめて、嬉しそうに微笑む。この後に待っていることも楽しんでもらえるといい。そんなふうに思った。
「宿に着いたら荷物を置いて、ここにまた来よう」
「はい!!」
旅行は始まったばかりだ。
おわり
九十九、海へ
8/23/2024, 2:19:18 PM