同棲している恋人が、今日から仕事で出張に行くことになった。
仕事だから仕方がないとはいえ、出張に行かれてしまうのは、寂しさで胸が締め付けられてしまう。
でも、それを青年に見せないように、彼女は務めて明るく振舞った。
青年を見送った後。家に帰ると見慣れないノートがテーブルの彼女の席に置いてあった。
そのノートは爽やかな青い空の写真。外装はハードカバーで、金色の箔押しで綺麗なフォントでダイアリーと書いてある。
青年の日記だろうか。
そもそも、日記なんて付けていただろうかと考えを巡らせる。
そっとノートに触れた。
見ていいのかな。
でも、日記だったらプライベートだし……。でもでも、私の席に置いてあるんだから……。
そんなふうに考えた後、彼女は思い切ってノートを開いた。
そこには、青年の文字がびっしりと書き綴られていた。
彼女を想う語り言葉が。
その文字ひとつに愛情を感じる優しい言葉が。
胸が熱くなり、気がつくと頬に涙がつたっていた。ひとつ、ふたつ……と、とめどなく溢れてくる。
青年の文字を撫でて、読んで行くうちに、自然と笑みが零れていた。
寂しい気持ちは沢山ある。
けれど、青年が置いてくれたノートの中にある彼女を想う言葉で寂しさは減っていった。
涙を拭うと、彼女は立ち上がってペンを持ってきて、ノートのページをめくる。そして何も書いていないページに青年への想いを書き綴り始める。
彼が戻ったら、読んでくれるように。
これが、私たちの日記帳。
おわり
百二、私の日記帳
8/26/2024, 2:33:33 PM